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異常気象?「観測史上初」が続発するカラクリ 日本では年間約50件の史上初を観測

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/02/17 今井 明子
それまでの寒さと打って変わって、17日には「春一番」が吹く可能性も?(写真:greertweggen/PIXTA) © 東洋経済オンライン それまでの寒さと打って変わって、17日には「春一番」が吹く可能性も?(写真:greertweggen/PIXTA)  

 天気予報を見ていると、「観測史上初」「統計史上初」という言葉をよく耳にします。こんな言葉をしょっちゅう聞いていると、「最近の天気はなんだかおかしいぞ」とおそれを感じてしまうことでしょう。はたして、本当のところはどうなのでしょうか。気象予報士の資格を持つサイエンスライター、今井明子が解説します!

 2016年は、やけに変な天気の多い年だった。そう感じませんでしたか? たとえば、昨年11月24日の東京都心での積雪。11月としては珍しい現象で、11月の降雪は1962年以来54年ぶり、11月の積雪は1875年以来の「観測史上初」となりました。雪といえば、2016年の1月24日には鹿児島県や沖縄県で雪が降ったニュースも驚きでしたね。鹿児島県の奄美大島では115年ぶりに、沖縄県の名護市では、「観測史上初」の雪が観測されました。

 昨年は、台風も変わっていましたね。第1号が発生したのは7月3日と、「統計史上2番目」の遅さでした(統計史上1番目は、1998年の7月9日)。そして、いざ台風第1号が発生した後は、台風の進路がいつもと違いました。8月に発生した台風第7号、11号、9号は、北海道に上陸し、記録的な大雨をもたらしました。北海道に3つも台風が上陸したのは、気象庁が1951年に統計を開始して以来「初」の現象です。

昨年「変な天気」が多かったワケ

 これらの異常気象は、なぜ起こったのか、気象庁気候情報課の及川義教予報官に聞いてみました。

 まずは、2016年の台風第1号の発生の遅さについては、統計が始まって以来、最も台風第1号の発生が遅かった1998年と共通の明確な理由があります。それは、エルニーニョ現象です。

 エルニーニョ現象は、太平洋熱帯域の東側(ペルー沖)の海面水温が上昇する現象ですが、エルニーニョ現象が発生してから少し遅れる形でインド洋熱帯域の海面水温も高くなります。2014年の夏から2016年の春まで続いたエルニーニョ現象に伴い、インド洋熱帯域は2016年の6月まで海面水温の高い状態が続きました。海面水温が高ければ、その海域は大気の対流活動が活発になって気圧が低くなります。そして、このとき今度はフィリピン付近では逆に気圧が高くなり、台風のもととなる積乱雲ができにくくなるのです。

 では、2016年8月の北海道への台風上陸についてはどうでしょうか。台風の進路が普段と違うのには、大きく2つの原因がありました。1つは台風発生の場所が普段と違ったこと。そして、もう1つは、台風の進路を左右する太平洋高気圧の位置が普段と違ったことです。これらは、偏西風が大きく蛇行したことによって起こりました。

 台風は通常、フィリピン付近で発生し、まずは北西に進みますが、台風が中緯度まで達すると進路を変え、偏西風に乗って北東に進みます。しかし、2016年の夏は偏西風の蛇行の影響で、普段よりも東の海域で台風ができました。さらに、太平洋高気圧の位置は普段よりも北東にあったため、台風は北西には進まず北に進んで、北海道を直撃したのです。

沖縄・奄美大島でまさかの積雪を観測

 それでは、2016年11月に関東地方に降った雪についてはどうでしょうか。気象庁によると、この雪の主原因は偏西風の蛇行とのことです。毎年、秋から冬にかけて、シベリア付近には、寒気の塊であるシベリア高気圧が地上付近に居座ります。そこに、偏西風が大きく蛇行することで、上空にできる「ブロッキング高気圧」と呼ばれる高気圧が発生すると、シベリア高気圧が強まるのです。

 2016年の11月24日に関東地方で雪が降る数日前には、このような仕組みでシベリア高気圧が強まっていました。高気圧の周辺は時計回りに風が吹いているため、シベリア高気圧が蓄えている寒気は、日本付近に流れ込みやすくなります。そして、24日にはたまたま日本の南岸を低気圧が通過したので、低気圧がシベリアの寒気をさらに南に引き寄せて、季節外れの雪が降ったわけです。

 2016年の1月に沖縄・奄美地方で雪が降ったのも同様の仕組みです。シベリア高気圧の勢力が非常に強かったうえ、高気圧からの寒気が吹き付ける場所が西日本付近だったので、普段は雪の降らない沖縄・奄美地方や台湾で雪が観測されたのです。

 シベリア高気圧が強まる現象は通常、ひと冬に何度か起きるので、たいして珍しいことではありません。ただ、たまたま11月に雪が降ったり、普段は雪の降らない地方で降ったりしたから、あたかも異常気象のように感じてしまったというのが真相のようです。

 さて、2016年のおかしな天気の原因ははっきりしましたが、「観測史上初」「統計史上初」が年間でどれくらい発生したのかも気になります。気象庁に問い合わせてみたところ、「年間50件であれば、さほど多いとはいえない」とのこと。50件!? とんでもない多さのように聞こえます。

 実は、気象庁の定義する「観測史上初」とは、その観測所で観測を開始して初めて出た観測値のことをいいます。日本にはアメダスなどの観測所が全国で約1300カ所ありますし、観測項目も最高気温、最低気温だけではなく、雨量や積雪深など、たくさんあります。

異常気象と考えるのは早計?

 また、「統計史上初」という言葉とは、その観測所での観測値を人が集計し、記録として残っている「統計値」の中で「初」という意味です。たとえば、雨量計があれば雨が降ったかどうかは、そのときに何ミリメートルの雨が降ったのかがわかります。これが観測値です。しかし、雨が降り続いた期間や、ある期間内に降った雨量の合計値は、観測値を人の手で集計する必要があります。ほかにも、初雪が観測された日や、月間で雷が発生した回数、1カ月間の平均気温なども統計値となります。アメダスや観測項目の数だけ「観測史上初」があるのですから、統計史上初の値もかなり多くなることがおわかりでしょうか。

 念のため、最大1時間降水量と最大24時間降水量のそれぞれについて、2016年に記録を更新した観測点はいくつあったかを気象庁観測部にカウントしてもらったところ、2016年12月25日の時点で「最大1時間降水量は68件、最大24時間降水量は19件」ということでした。

 「観測史上初」「統計史上初」の数が年々増えているのかどうかも気になりますよね。こちらも気象庁に問い合わせたのですが、「何地点で記録を更新したかという統計を気象庁では行っていないので、推移についてお答えすることはできません」とのことでした。

 少なくとも、「観測史上初」「統計史上初」という言葉をやたらと耳にしても、「最近なんだか天気がおかしくなってきている」と結論づけるのは早計だということはわかりました。ただ、自分の住んでいる近くの地点でこのような言葉が出てくれば、今までにない気象災害が起きる可能性はあるので、油断してもよいわけでもありません。

 気象庁には、各地の「観測史上初」を調べられるページがあります。もし、今まで経験したことのないような大雨や大雪が降っているときなどは、一度観測値を調べてみると、大きな災害が起こりそうかどうかもある程度予測がつくのではないでしょうか。

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