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「教育困難大学」のあまりにもひどい授業風景 小学生レベルの知識が欠落している学生たち

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/08/02 朝比奈 なを
「教育困難」の問題は、高校から大学に連鎖している(写真:よっし / PIXTA) © 東洋経済オンライン 「教育困難」の問題は、高校から大学に連鎖している(写真:よっし / PIXTA)

 2016年度の高校生の大学・短大の進学率は現役で54.8%、過年度生を加えると56.8%に及んでいる。4年制大学進学率は毎年過去最高を更新し、短大、専門学校の進学者も含めると、高校から上級学校への進学者は約75%だ(2016年度文部科学省「学校基本調査」)。かつてのように、上級学校への進学はエリートがするものという概念は消え去り、「ユニバーサルアクセス」の時代が到来している。また、日本には現在、777校の大学があり、その内私立大学は600校(2016年度文部科学省「学校基本調査」)にも上っている。

 すべての大学は、大手予備校が実施する模擬試験の偏差値によって完全に段階分けされている。そして、受験偏差値の低い、つまり志願者の少ない大学は、入学が選抜機能を果たさずフリーに入れる状態になっている。こうした大学は、「FREE」の頭文字を取って、「Fランク大学」と呼ばれていることは、周知の事実だろう。

 急速に大学進学者が増加する中で、大学生の学力低下が話題になり始めたのは、2000年ごろのことだった。あれから15年以上経ち、現在は大学生の学力問題はあまり取りざたされなくなった。これまでの間に、大学生の学力が十分なレベルまで向上したというわけではなさそうだ。

小規模大学で教えている教員の実話

 筆者の耳には、低い学力は当たり前のことと関係者があきらめた結果なのかもしれないと思わせる話が入ってくる。大学教職員から話を聞くと、今でも学力不足は解決していないことがよくわかる。それどころか、驚くほど無知な大学生がむしろ増加しているのではと危惧させるような現実がある。以下のエピソードは、スポーツに力を入れている関東地方の小規模大学で教えている教員の実話である。

 彼は、一般教養科目として日本の自然環境に関する授業を担当しているが、以前から、大学生に考えさせること、発言させることに重点を置いた授業を行っている。最近注目されている「アクティブラーニング」の先取りのように見えるが、実は、学生の授業中の爆睡を防止する苦肉の策でもあるのだ。しかし、彼のように学生を寝かせまいとする教員はむしろ少数派。多くの教員は、「静かに寝ていれば、周囲の迷惑にもならないので放置する」というスタンスである。

 日本の植生と生態系についての講義の際に、その教員は「日本の自然林にはどのような野生動物がいるか」と学生に質問した。指名した数名の学生が次々と瞬時に「わかりません」と条件反射のように答えた後、指名される順番ではない1人の学生が突然「ブタ!」と大声で答えた。

 日本の自然環境と生き物の関係は、今、大学生の学生たちは小学6年生の理科の「生き物とかんきょう」の単元で学んだことになっている。小学校の授業では生徒にとって身近に感じられることや地域の問題を題材として扱うことが多いので、近年、各地の住宅地や観光地で人間の生活に入り込んでいる野生動物の存在については、多くの学校で学ばれたことだろう。

 さらに中学の理科第2分野、高校の「理科総合」といった科目でも同様の内容をより深く広く学んでいるはずなので、当然、イノシシ、サル、シカ等といった回答が期待される。それなのに「ブタ」が出てしまうのだ。

教員は冷静に対応するも……

 予想しない学生の言動への対応が苦手な大学教員も多いが、この教員は経験豊富なので、このような突発的な言動には慣れている。学生の発言を無視したり叱責したりせず、まず受け止め、そこから正しい回答を引き出すように心掛けている。

 そこで、「う~ん、似てはいるな。でも、ブタは人間が改良して作ったもので、その基となった動物がいるよね。最近、住宅地にも出現して、ニュースになったりしている。その動物は何だろう?」と学生たちに質問を重ねた。すると、別の学生がすかさず「クマ!」と答えたという。確かにクマは日本の野生動物だが、ブタはそこから改良されたものではない。しかし、なんであれ学生が答えたことをよしとして、教員は授業を進めたという。

 別の日の海岸地帯の地理的特徴に関する授業では次のようなことがあった。海から陸地に向かって吹いてくる強風から家屋や耕地を守る海岸防風林を創り出した先人の知恵に気づかせようと、「海からはどのようなものが陸地に向かってくるか?」と、この日もクイズのように尋ねた。

 海岸地形の自然環境の特徴については、すでに小学5年生の社会「わたしたちの風土」や中学社会の「地理的分野」で学習しているものである。いつものように、2〜3人が「わかりません」と瞬時に答えた後、次の順番の学生が「ハマグリ!」と明るく答えたそうだ。確かに、ハマグリは海岸で採れるが、決して海から向かってくるものではない。

 「ブタ」と答えた学生も「ハマグリ」と答えた学生も、授業のその場面には積極的に参加してはいる。「わかりません」の一言でその場をやり過ごそうとする学生より褒められるべきであろう。しかし、彼らの回答は脊髄反射的で、質問の意図を把握したうえで、それまでに提示された諸条件を吟味し脳細胞で考えたものではない。どちらの場合も答えた学生はいたってまじめな表情であり、いわゆる「ウケ狙い」で言った発言ではなかったそうだ。それ以上に、周囲の学生が何の疑問も持たず、「そうかぁ」という表情で答えた学生を称賛するようだったことに、教員はあぜんとしたという。

 この大学は、スポーツ推薦や指定校推薦で入学した学生が多い。1つのスポーツ競技だけを幼い頃から一所懸命にやってきて、ほかの勉強をする余裕がなかったのだろうか。あるいは、生まれてからずっと都会で育ち、大学生になるまでに森や海に行って周囲の自然を体験する機会がなかったのだろうか。学校の授業で学んだ知識だけではなく、自身の体験からも回答できるはずの質問なのだが。

 筆者も同じようなレベルの学生が入学している大学で授業を担当しているが、あるとき、首都圏の中小企業経営者から、真顔で「就職試験をやると、高卒生と大卒生の得点がほとんど変わらない。場合によると、高卒生のほうが高得点のこともある。大学生は4年間かけて何を勉強しているのですか?」と聞かれたことがあった。

形骸化した「学士」を量産

 この企業はこれまで高卒生中心に採用していたが、近年、大卒生にも求人をかけるようになった。当然、いわゆる有名大学生の応募は少なく、会社側も地元の中小規模の大学生にターゲットを絞っている。その採用活動の中で発せられた質問だが、同様の思いを抱いている企業人は少なくないだろう。

 受験生の志願状況から見てみると、少数の大規模大学が10万人を超える志願者を集めている一方、志願者数が伸び悩み、経営のためにどのような学力の志願者でも受け入れている大学が多数存在する。このような大学には、「教育困難校」と呼ばれる高校の卒業生が多数入学している。大学進学率が低く大学入試が難しかった時期には、進学できなかった学力層を多数抱えている高校だ。筆者は、高校からの連続性を踏まえて、どのような学力の志願者でも受け入れている大学を、「教育困難大学」と呼びたい。

 それらの大学では、学習面だけでなくあらゆる場面で学生への指導が難しくなっている。4年間、学生がほとんど何も学ばないまま、形骸化した「学士」を量産して世に送り出しているのが現実だ。多方面で学生への対応に連日苦労している大学教職員は、全国に存在している。大学進学希望者への新しい経済的援助が考えられつつある今、本連載を通してリアルな現実の一部を描写することで、現在の大学が抱える問題の一端を、少しでも多くの人に考えてもらう機会になるよう願っている。

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