KINCHOのテレビCMが“尖りすぎてる”理由「炎上を狙ったわけではないです」
大手殺虫剤メーカーのKINCHO(大日本除虫菊)といえば、「金鳥の夏、日本の夏」でおなじみの蚊取り線香のCMが有名だが、一方でインパクトの強いCMも数々生み出している。そんなKINCHOのCMの歴史と制作の裏側について、宣伝部に話を聞いた。
◆社内でも賛否のあった例のCM
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金鳥の渦巻 太巻
昨年から放送されている「金鳥の渦巻 太巻」のCMにネット上で賛否の声が飛び交っている。
樹上で作業をする庭師の男性。その腰のあたりに艶やかな視線を送りながら「そんなふっといのぶら下げて」「あ、左巻きや」などと声をかける女性。もちろん、男性が腰に下げている蚊取り線香「金鳥の渦巻 太巻」を指しているのだが、下ネタとも受け取れる。
このCMが放映されると、SNS上には「キンチョウのCMオモロ過ぎ笑」など好評の声もある中、「これアウトだろ」といった、否定的な声も飛び交った。このCMの放映にあたっては、どういった思いがあったのだろう。宣伝部の小林裕一氏は次のように話す。
「正直、僕も個人的には『そういう風に受け取る人もいるかな』とは思ってました。ただ決して炎上を狙ったわけではないですし、まじめに商品特長を伝えたいという気持ちで制作しています。そもそも、週に数回しか放映していないので、良くも悪くもここまで話題になることは想定外でした」
放映頻度などからも炎上狙いではなく、SNSによって大勢の前に引っ張り出された格好のようだ。しかしSNSの発達したこの時代、こうしたことは起こりうる。目立つこととクレームは紙一重ではあるが、そうした事態になった際の危機管理は用意されているのだろうか。
「基本的には真面目に商品特長を伝えようとして制作しているものですし、批判を覚悟して放映しているわけでもありません。ただ、制作意図については質問にお答えできるように予め準備はしています。」(同)
◆インパクト大のCMは、あの流行語から
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蚊に効く 虫コナーズプレミアム プレートタイプ
長澤まさみが、粘り気の強い関西弁で話す「虫コナーズ」のCM、インパクトも強いので覚えている方も多いだろう。30代の筆者は、力士姿の集団が「相撲取りすっぽんぽんで風邪ひかん!どんと!」と独特のリズムで繰り返しながら、雪の中を進むCMを、30年たった今でも覚えている。このようにKINCHOは目を引くCMを数多く生み出している。その源流を辿ると、昭和時代のある流行語に行き着いた。
「今のテイストの流れが生まれたのは、1966年の『キンチョール』のCMです。当時人気だった、クレイジーキャッツの桜井センリさんがキンチョールを逆さに持って『ルーチョンキ』と言うCMが大ヒットしたんです。
それまでは『商品を逆さまにするなんて、とんでもない!』と誰もが思っていたんですが、そのCMから『真面目一辺倒だけではいいものはできない』という考え方が生まれました」(同)
そんなインパクトの強いCMを作り続けているKINCHOだが、制作過程はどのようになっているのだろうか。
「CMのアイデアは社外のスタッフさんにお願いしています。だいたい毎回同じメンバーに考えていただくことが多いですね。こちらから依頼する際は、商品特長の中の伝えたいことを中心にお話をしますが、内容については基本的にお任せしています。毎回斬新な企画を持ってきてくれるんですが、なるべくそのアイデアを曲げることなく制作してもらえるようにしています。他所では断られそうな内容でも当社は受け入れる場合もあるので、作り甲斐はあるんじゃないかと思ってます」(同)
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どんと
◆記憶に残るあのシリーズの裏側
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水性キンチョウリキッド
評判になったCMは、同じ出演者で数年に渡ってシリーズ化されることもある。大滝秀治が岸部一徳に「つまらん!お前の話はつまらん!」と一喝する場面が印象的な「キンチョール」のCMも数年間に渡って様々なパターンが作られた。同CMの撮影エピソードを小林氏に聞いた。
「CMは、撮影前に制作側から出された演出コンテ通りに撮影するのが普通です。しかし、当社のCM制作現場では撮影中も常に新しいアイデアを模索します。このCMも現場でのアイデアからあのセリフは生まれました」(同)
同じように長くシリーズ化されたCMに、山瀬まみがピンクのカッパの着ぐるみで出演する「水性キンチョウリキッド」がある。「あぶらとちゃうちゃう!ベトベトちゃうちゃう!」という独特のリズムが記憶にこびりついている人も多いのではないだろうか。
このシリーズについて、小林氏は個人的な思い入れもあるという。
「水槽に入っている山瀬まみさんに『おい、油とちゃうちゃうやってくれや!』と男性が悪態をつくCMがあるんですが、あの男性、私なんです(笑)。弊社の制作スタッフは、その役に最適と思う人間であれば、それがたとえ社員であっても起用したりするんです。予算をあまりかけられない分、アイデアとインパクトで勝負ですね」(同)
◆尖っているのはテレビCMだけではない
テレビCMは多くの人にもおなじみであるが、実はラジオCMも、インパクトの強いものが多い。最近まで放送されていたCMは、やたら棒読みが耳につくものだった。SNSでも「今年の棒読みバージョンじわじわ来るなぁ」「なぜ棒読みなのにCM内容がモロに伝わってくるのだろう」と、気になる人も多い様子。
「ラジオは固定ファンも多く、面白いCMを作ればラジオファンがそのままKINCHOのファンになってくれる可能性が高いと思っています。CMのことをお話しする場として、私自身がラジオ番組に出演させていただくこともありますが、これも話題性のあるラジオCMを作り続けてきたからこそのメリットだと思ってます」
さらに、ラジオに対しては小林氏の個人的な思いも、ふんだんに反映されているようで、ラジオCMに対する熱意を語ってもらった。
「私はラジオが大好きなんですが、あまりインパクトのあるラジオCMって少ないなと思っています。リスナーの立場から、CMがラジオの中の楽しいコンテンツ一つになれば、ラジオ全体がもっと面白くなるんじゃないかと考えています。各スポンサーの皆さん、もっと面白いCMを作ってラジオをみんなで盛り上げていきましょう!」
これまでのテイストとアイデアを持って、今後は他の媒体での広告も考えていきたいという同社。その切っ先が鈍らず、さらに面白いCMが誕生することを期待せずにはいられない。<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。