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“魂”にすがるメディアの罪 ブラック企業的精神論の経営本、なぜ続々刊行?

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/04/23 13:55 Cyzo

「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/4月19日号)は『本業消失』という特集を組んでいる。「事業環境は変化のスピードを上げている。本業を失うことすら珍しくない。変わらなければ生き残れない時代の新・経営戦略」という内容だ。

 例えば、今年創立80周年を迎えた富士フイルムホールディングス。しかし、デジタル化の大波が押し寄せた10年前、富士フイルムが圧倒的なシェアを誇り利益の過半を稼いできた写真フィルムが、店頭から消えてなくなるのは時間の問題となっていた。富士フイルムは危機意識を社内で共有し、過去のしがらみを断ち切り、古森重隆会長兼CEOの下、「破壊と創造」を進め、液晶フィルムのフラットパネルディスプレー材料事業、化粧品などのライフサイエンス事業を中心とする新たな企業に生まれ変わった。2012年度売上高は2兆2147億円(営業利益1141億円)だ。

 一方で、「かつて巨人と呼ばれ、富士フイルムが仰ぎ見る存在だった、米イーストマンコダックは経営破綻した。いったい、何が違っていたのだろうか?」。イーストマンコダックは、12年1月に米国連邦破産法第11条(チャプター11)に基づく事業再生手続き入り。13年9月にチャプター11から脱却。同年11月にはニューヨーク証券取引所に再上場した。

●富士フイルム「勝ち残りの5法則」

・法則1…『悪い数字』から逃げない

「長年の事業が変調を来した場合、『まだ何とかなる』という希望的観測を抱き、対応が後手に回る企業が少なくない」。富士フイルムは、利益の3分の2を稼ぎ出していた写真フィルム事業の絶望的な需要予測に向き合い、自らリストラした。「『手遅れにならなかったのは「嫌がられても予測結果を報告し続けた」という当時の予測分析に携わった元・感材部長・中村和夫氏の存在が大きい」。上司に直言できる部下の存在がポイントだ。

・法則2…自社の強みを棚卸し

「事業構造改革を進めるうえで、保有する技術を『棚卸し』し、自社の強みを伸ばすことに懸けた」。「構造改革以降、成長分野に位置づけたライフサイエンス分野も、写真フィルムのコア技術を『横展開』したもの」で、新たな事業を生み出すための研究開発費・年間2000億円を減らすことはなかった。

・法則3…M&Aで時間を買う

 富士フイルムは04年に構造改革に踏み切って以来、猛烈な勢いで、M&A(合併・買収)を行ってきた。「これまでに7000億円近くを投じ、国内外合わせて約40社を買収している。新規事業では時間を買う戦略で、インクジェットプリンタや医療分野で目立つ」。01年には富士ゼロックスへの出資比率を引き上げて連結子会社化。現在は、この富士ゼロックス(ドキュメントソリューション分野)の売上高は1兆0122億円と、ホールディングス全社で最大の利益源になっている。

・法則4…改革の痛みを恐れない

 富士フイルムの構造改革では、06年1月には約5000人を、08年にも再び5000人を削減。また二人三脚でシェア拡大に歩んできた写真フィルムの大手特約店体制も見直し、営業権を買い取って直販体制に移行している。

・法則5…決断に時間をかけるな

 傷が深くなる前に、いかに早く決断できるか。写真フィルム事業への機敏な対応は「気になることがあると、担当者に直接電話し、説明を求めるという古森会長流のコミュニケーション」が背景にあるという。

●富士フイルムのタイアップ的な特集

 古森会長のインタビューも掲載している(『古森会長が激白!「勝ちにこだわって生き延びた」』)。しかし、どこを読んでも富士フイルム賛美となっているのが気になる。それもそのはず、古森氏は東洋経済新報社から『魂の経営』という単行本を昨年11月に出版しており、その売れ行きが順調なこともあって、今回はタイアップ的な特集のようだ。

 もちろん、背景には、出版不況と投資環境のIT化で「会社四季報」が重荷になりはじめ、経営を見直すべきという東洋経済の危機感や、編集長が替わって新機軸を打ち出したい「週刊東洋経済」編集部の思惑も感じられる。

 しかし、どうも経営者にスリ寄って売ろうとするつくりが見え隠れする。例えば『魂の経営』では、その書名からもわかるように、精神論全開。第五章「会社を思う気持ちが強い人は伸びる」という章タイトルにも表れているが、会社にとって都合のよい自説を展開する。

「伸びることができる人の条件として、もう一つ私が確信していることがある、それは、会社を思う気持ちが強い人、オーナーシップを持って会社のために仕事ができる人だ。『自分が成長できればいい』『自分がいい思いができればいい』と考えている人と違って、会社のために組織やチームのために、同僚や先輩、部下や上司のためにと考えている人は、人一倍努力をする。多くの人を、チームを、組織をうまく機能させるためには、大変な努力をする必要がある。自分のために働くよりも、はるかに難しく、最大限の努力をしなければならない。このことが、人を大きく成長させるのだ」

 ぱっと聞いただけでは正しいようにも聞こえるが、こうした個人よりも企業を優先させようとする企業の論理は注意が必要だ。ブラック企業の経営者たちにとって都合のいい解釈に利用できる福音になり得るからだ。「会社」という部分を「ブラック企業」に置き換えてみればわかるように、ブラック企業が自らを正当化できる「ブラック企業は労働者を成長させる」論になりかねないのだ。

「ブラック企業」批判を続けるべき東洋経済には、ブラック企業経営者が喜ぶような出版物を出すよりも、もっと現実を見すえた(出版不況に苦しむ自らの立場を棚に上げない)「勝ち残り」の特集を企画してほしいものだ。

 そういえば、新聞業界でほぼ「本業消失」状態の毎日新聞社も稲盛和夫氏の『燃える闘魂』という根性論の経営本を出している。『魂の経営』に『燃える闘魂』……なんの論理もない「魂」にすがらざるを得ないマスメディアの先行きは暗い。(文=松井克明/CFP)

※画像は「Thinkstock」より

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