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“2本立て上映”の成否を分けるものは? 名画座・早稲田松竹番組担当が語るコンセプトの作り方

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/02 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

東京・高田馬場にある名画座・早稲田松竹。ロードショーの終了した映画や、過去の名作からセレクトされた週替りに変わる「2本立て」の上映を観ることができる劇場だ。「いま観たい」と思える作品が魅力的な組み合わせで上映されており、幅広い世代の映画ファンに愛されている。リアルサウンド映画部では、早稲田松竹の上映作品を選定している番組担当の上田真之氏にインタビューを行った。どんな考え方でプログラムを作っているのか、映画の面白さとは何か、その仕事の魅力を聞いた。 参考:日本の映画産業は大きな転換期に? 『この世界の片隅に』iTunes登場が問いかけるもの ■“いま観たい”と思える感情を大事に −−早稲田松竹は2本立てのプログラムがいつも魅力的です。 上田真之(以下、上田):2010年から番組編成を担当させていただいています。お客さんに面白いと言ってもらえるプログラムには、しっかりとしたコンセプトが必ずあります。番組編成は僕のほかにもう1名おりまして、副支配人と合わせて3人で話し合いながら作品を選定しています。上映できるものを組み合わせただけ、ということにならないよう心がけています。 −−確かに2010年頃からより2本立てのカラーがはっきりと付いたものになった印象でした。 上田:番組編成担当になる前に、早稲田松竹HPのプログラム紹介文を書かせてもらっていました。その際にプログラムの2本に自分なりのコンセプトを見つけないとうまく書けなかったんです。でも、そのコンセプトを考えるのが好きでした。選ばれた2作品にどんな共通性を見出すか、いかにお客さんに見に来てもらえるように、ひとつの紹介文にまとめるか。ある意味“こじつけ”なんですけど、単独の作品では分からなかった魅力が2本立てにすると生まれることがあるんです。それを考えるのはとても楽しい時間だったので、番組編成に務めさせていただいてからは、プログラムが以前よりコンセプチュアルになっているかもしれません。お客さんの動員数をみても、人気の監督・役者などで縛った2本立てなどは別として、コンセプトがしっかりしている企画の方が、喜んで来ていただいている手応えはありますね。 −−実際に2本に絞るまでにどんな経緯があるのですか。 上田:2本に絞るまでにはたくさんのパターンがあります。例えば目玉になるような新作を見つけて、それに合う映画で一番早くできるタイミングから一番遅くなる作品のタイミングまで、すべてのパターンを考えます。目当ての作品が先にあって、それに何をあてるか、と考えるパターンが多いですね。一方で、候補の作品を一覧で並べて、これとこれがいいなとパッと思いつくときもあります。こだわりにこだわって作品を探した前者よりも、不思議といいプログラムになるのは後者だったりもするんです。考えれば考えるほど、どうしても分かりづらいものになってしまうケースがあるので。 −−作品と作品を組み合わせ、そこに切り口を見つける。一連の流れは編集者の仕事と似ていますね。旧作から新作まで候補の作品は多数になりますが、すべてご覧になっているんですか。 上田:副支配人と番組編成の2人、全員が観ていないということはないようにしています。自分だけが完璧に観ている状況ではまったくないです。もちろん、観て決めたいと思っているんですが、観た上で決めた組み合わせよりも、チラシなどの情報をもとに組み合わせた2本の方がよかったりする場合もあるんです。おそらく、作品を観た上で2本立てのテーマを作成すると、その内容に寄りすぎてしまうケースがあるんですね。それだと、映画をこれから観るお客さんにとっては、あまりにもコアなものになってしまったりする。その意味で、外側からの情報だけで分かるテーマ作りも大事にしています。 −−会心の2本立てプログラムは? 上田:その質問をされると思って色々考えていたんですけど、中々これ!というものは決められなくて。自分にとって、きっかけになったプログラムとしては2010年に中島哲也監督『告白』と塩田明彦監督『害虫』の組み合わせでしょうか。内容としてすごく合っているわけではないと思うんですが、ものすごくたくさんのお客さんが来てくれました。「こういうことをやっても大丈夫なんだ」と思えたプログラムだったんですね。とはいえ、少しずつ色んな考え方を試してきて、未だに試行錯誤を続けている途中です。大枠としては、①テーマで合わせる②出演者で合わせる③監督同士で合わせる、の3つになるでしょうか。③の例としては、過去にマーティン・スコセッシ『シャッターアイランド』とウディ・アレン『ウディ・アレンの 夢と犯罪夢と犯罪』を組み合わせるプログラムを行いました。作品同士のカラーが合っていると思ったわけではないのですが、同時代に監督デビューしてここまでキャリアを積み重ねている2人、というかなり大きな枠組みで合わせてみました。お客さんにとっては、テーマありきというよりも、こういったボリューム感で観たいとなってくれるケースも多々あるので。映画のジャンルだけではなく、舞台となった国だけで選んだり、画面の質感で組み合わせたりすることもあります。 −−1月28日からの「イーストウッドとスコリモフスキ」のプログラムもそうですね。 上田:そうなんです。大ベテラン監督ふたりのスマートかつ洗練された映画ということで組み合わせてみました。あとはチラシのビジュアルだけで2本を考えるケースもありますね。でも、それは意外と合理的なんです。もともとターゲットを絞って制作されたチラシなわけですから、そのビジュアル雰囲気がマッチするということは、自ずとチラシが想定していたターゲットにも響くということですよね。実はこの映画のメインビジュアル同士が合うかというのはすごく重要な要素なんです。2作品のチラシを並べてみたときに、グッとくるかどうか、その部分は大事にしています。 −−言語化はできない感覚も大事にしていると。 上田:「この2作品に共通するテーマは〜」というのは後からでもある程度見出すことはできるんです。むしろ、最初からテーマをはっきりと打ち出して、「この映画は“家族”を描いているから家族の映画をもう一本選ぶ!」など、そういった考え方はしていないですね。例えば12月のプログラム『帰ってきたヒトラー』と『トランボ ハリウッドに嫌われた男』の組み合わせに、「?」が付く人も多いと思うんです。 −−ヒトラーを題材にした映画は多数あるわけで、それで組み合わせることもできたわけですよね。 上田:この組み合わせに関していうと、いまの時代にこの題材でこういった作品が作られる背景に興味があったんです。『帰ってきたヒトラー』は、ドイツにおける難民問題、ドイツ国民のナショナリズム的な感情など、明らかに現代に通ずる問題を扱っています。『トランボ』は、マッカーシズムが主題としてあり、皆がわけもわからず共産主義を悪とみなしていた背景が描かれています。そういった時代の雰囲気を取り扱っている映画として、共通するものがあると思いましたし、私たちが直面している現実が、2作品から見出だせるのかもしれないと。現代社会と如何につながっているか、“いま観たい”と思える感情は大事にしています。 ■繋がりや発見が生まれていく映画の面白さを −−取り上げたい作品が取り上げられなかったケースもあるかと。 上田:ある程度、上映することができる作品を事前に把握していますが、作品によって権利関係などはバラバラなので、転がしようによってはいくらでも転がせるように組み合わせています。例えば、1月2日から上映している「小津安二郎と山中貞雄」ですが、希望の小津作品をピックアップできなければ、山中貞雄のみの2本立てに切り替えて考えてみるとか。1月21日からの「マーティン・スコセッシと遠藤周作」も、実は篠田正浩監督の『沈黙 SILENCE』が上映できるかどうか分からない状態だったんです。でも、『沈黙-サイレンス-』の公開日にあわせてスコセッシの特集をやることは事前に決めていました。スコセッシの上映できる作品は大体『ギャング・オブ・ニューヨーク』以降しか残っていないということは把握していたのですが、幸い『タクシードライバー』も上映できることが決まり、この2本だけでも充分魅力的かとは思ったんです。でも、流石に2本だけで「スコセッシ公開記念」というのはちょっと物足りない。それならば、新作の原作である遠藤周作を掛け合わせてみたら面白いかなと。『沈黙 SILENCE』、『海と毒薬』どちらも名作で、近年でも名画座でかかってはいたんですが、お客さんが殺到するタイプの作品ではない。でも、このタイミングでなら観たいというお客さんはたくさんいると思ったんです。 −−私もこの4作品はすでに観ていますが、こういったプログラムがあると、『沈黙−サイレンス−』と合わせて改めて観たくなります。 上田:映画の面白いところは、過去に観た映画も他の作品と一緒に観たり、自身の年齢や月日によって、過去に観たときとイメージがまったく変わっていたり、同じ作品でも違った面白さが見出せるところにあると思います。お客さんにとって、「“いま”だからこそ観たい」、そういった作品を常に探していますね。 −−組み合わせがうまくいかず、見送った作品などもあるんですか。 上田:たくさんありますよ。1本だけでもすごくお客さんが入ると分かっているなら、何でもいいから足して2本立てにすればいいと思われるんですが、そうやって組んだプログラムはお客さんに伝わってしまいます。たくさんの映画の中から2本を組み合わせ、そこにコンセプトを付け加えないといけない。非常に難しいときもありますが、パズルのような面白さもあり、何よりもお客さんが喜んでくれることが一番うれしいですね。 −−学生時代、一番多くの時間を過ごした映画館が早稲田松竹でした。名画座で映画を観ることができる時間はとても幸せだなと感じます。 上田:映画を観て、繋がりや発見が生まれていくのは面白いですよね。今まで話してきたように2本立てのコンセプトを明確にうちだしてはいますが、本来であればそれは自分で見つけた方が面白い気もするんです。映画の繋がりが見えるともっと知りたくなり、他の作品はどうなんだろうと、どんどん広がっていきますよね。一歩引いて考えると、2本立て上映って変な文化じゃないですか。およそ4時間、場合によっては5時間以上、同じ空間でスクリーンを観続けるわけですから。かなり贅沢な時間の使い方ですよね。お客さんにとって、一日のイベントとなるわけですから、責任重大であり大変やりがいのある仕事だなと常々感じています。(取材・文=石井達也)

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