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「エンタメフリー・オプション」からKDDI傘下、iPhone SEまで――ビッグローブに聞く

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2017/02/21
「エンタメフリー・オプション」からKDDI傘下、iPhone SEまで――ビッグローブに聞く: 月額480円(税別)で、映像や音楽の配信サービスの通信量をカウントしない「エンタメフリー・オプション」。現在はYouTube、AbemaTV、Google Play Music、Apple Music、Spotifyが対象サービスとなっている © ITmedia Mobile 提供 月額480円(税別)で、映像や音楽の配信サービスの通信量をカウントしない「エンタメフリー・オプション」。現在はYouTube、AbemaTV、Google Play Music、Apple Music、Spotifyが対象サービスとなっている

 まだ「格安スマホ」という言葉もない2012年にドコモとのL2(レイヤー2)接続を行い、MVNOに参入したのがビッグローブだ。楽天モバイルやmineoなど、新規参入が相次ぐ一方、2016年9月末時点でのシェアは第5位(MM総研調べ)と、業界の中での存在感は依然として大きい。SIMロックフリー端末がまだ少ない時代に「ほぼスマホ」として、端末販売を手掛けるなど、先駆者ならではの“壁”をさまざまな工夫で乗り越えてきたのも、同社の特徴といえるだろう。

 2016年11月からは、特定サービスの通信量をカウントしない“ゼロレーティング”を活用した「エンタメフリー・オプション」のサービスを開始。プロバイダーとして培ったノウハウを生かし、大手キャリアにはないMVNOならではの価値を提供している。一方で、その間、事業環境は大きく変わった。2014年には親会社のNECから売却され、2017年2月からはKDDIグループの一員となった。今後は、KDDI傘下のMVNOとして「au経済圏」拡大の一翼を担っていく方針だ。

 そんなビッグローブでMVNO事業を率いる執行役員常務の中野雅昭氏とモバイル事業部の吉野宗壱氏に、「BIGLOBE SIM」でエンタメフリー・オプションを導入した理由や利用動向に加え、KDDI傘下になった同社の最新戦略を聞いた。

●エンタメフリー・オプションは利用者の80%が満足

―― まずは、エンタメフリー・オプションのお話から伺います。あのサービスを導入した理由を教えてください。

中野氏 事業全般のお話になりますが、2016年は事業環境もあり、たくさん数を取るというより、少しターゲットを絞ってお客さまを狙っていきました。その中で、動画を見たいという方がたくさんいた。年間で1.6倍ぐらい、利用するデータ量が増えていました。アンケートを取っても、まだまだ見たいというニーズがある。ところが、(それをすると)パケット代が高くなってしまいます。

 方やAbemaTVの方が言うには、あちらとしてもコンテンツをたくさん売りたいが、コントロールできるのはサービスの料金だけで、通信料は触れません。そのちょうど真ん中にいるということで、われわれがエンタメフリーを始めました。

 お客さまには喜んでいただけていて、80%の方々が満足しています。「これで動画が使えるようになった」「スムーズに動画が見られる」などの声もいただいています。

―― 通信の秘密やネットワークの中立性に関する考え方を教えてください。

中野氏 そこ(通信の秘密)は特に注意をしていて、抵触しない形で進めています。1人1人の同意をいただくとともに、秘匿する部分(ユーザーのデータの中身)は一切触れない形で機械的に処理をしています。

吉野氏 データは、自動的かつ機械的に見て判別しています。ネットワークの中立性については2つの観点があり、その1つはコストの分配です。ここには、一般のユーザーからいただいた料金は使わず、オプションの売上で回線を用意しています。ですから、エンタメフリーをたくさん使われたからといって、その他のお客さまに迷惑が掛かることはありません。

中野氏 お金をいただく中で、ご提供するという形になっています。われわれの場合、動画を定額制にしていますが、これは他ではほとんどやっていないことです。海外を見ると、例えばT-Mobileの「Binge On」などがありますが、あれを見てもわれわれの方にアドバンテージがあると思います。手前みそですが、いいサービスだと自負しています。確かに20GB、30GBのプランもあり、そういったところももちろん大事ですが、個人で見たときに、使うものが特定されていれば(データ量が無制限になれば)、使い勝手はよくなると思います。

●落ち着いて動画配信を見たい人には向かない

―― 対象となるサービスの選択は、どのようにしているのでしょうか。

中野氏 基本的にはストリーミングサービスが中心です。ただし、(モバイルは)非常に高画質なものを、落ち着いて見るというのには適していません。360pや480pなどの解像度で、音楽を聴きながら気楽に見ていただけるような層をターゲットにしています(※エンタメフリーの動画配信サービスは、最大360pの画質に最適化される)。そういった形で、最適なものを選択しています。逆にWebサイトでも言っていることですが、タブレットやPCなど、落ち着いて見るのにはあまり向きません。そういうサービスも検討はしていますが、こちらとはセグメントが分かれています。

―― コンテンツプロバイダーから、引き合いも強いのではないでしょうか。

中野氏 引き合いはありますね。5つ目のサービスとして、「Spotify」が加わりました。他にも、いろいろと協議はしています。Spotifyの後も、期待を裏切らないように増やしていきたいと思います。ただし、カウントフリーは、技術的にそう簡単なものではありません。技術的な裏付けも取ってからやっているので、オファーがきても、「はい、やります」というわけにはいきません。

吉野氏 今、専用窓口で、お客さまからリクエストを受け付けています。その中でリクエストが多かったものとして、今回のSpotifyもありました。

―― 技術的に難しいということは、カウントフリーから漏れてしまうこともあるのでしょうか。

中野氏 十分に調整はしていますし、われわれ自身でも、二重、三重のチェックはしています。

―― 技術的には、どういったときに漏れが発生するのでしょう。

吉野氏 例えば、アプリケーション側に新しい機能が追加されたときで、そのタイミングはどこも押さえられません。新機能で新しい通信が発生したようなときは、可能性としてはありえます。

―― 加入者数はいかがでしょう。

中野氏 それは非開示です。ただいえるのは、他社のようにPRがしっかりできているわけではありませんが、その割にはしっかり入っているということです。増加が止まらず、右肩上がりの状況はリニアに進んでいます。

 また、1月までの環境だと、採算性や事業基盤をしっかりしたいという思いがありました。広告を打ったり、安値でお客さまをたくさん集めたりするよりも、ある程度採算がある事業であることを証明しながらやっていきました。その点はこれからも変わりはありませんが、KDDIさんのグループに入ったことで、できることが増えたと考えています。

●ドコモ回線のMVNOサービスはやめない

―― ちょうどKDDIのお話が出たところで伺いたいのですが、ドコモ回線を使ったMVNOが突然提供中止になるという心配はないのでしょうか。まずはそこからお聞かせください。

中野氏 それはまったく問題ありません。2月からは具体的に協議していますが、今までと同様、お客さまにはまったくご迷惑をおかけすることはないようにしていきます。

―― ドコモから特に何か話が来ているということもありませんか。

中野氏 特にありません。接続は約款で決まっているものですし、われわれも心配はしていません。

―― 逆に、au回線を使ったMVNOをやられるということは。

中野氏 そこは今、検討しているところです。(同じauのネットワークを使った)UQ mobileとは、ある意味で位置付けが違う部分は出てくると思います。

―― グループとして、auのネットワークに軸足を置いていくことになるのでしょうか。

中野氏 そういったことは考えていません。お客さまがどちらを選んでくれるかで、もしそうなれば(au回線のサービスを提供すること)、両方をフェアに提供していくようになるのだと思います。

●「iPhone SE」の販売は終了する

―― 以前は「ほぼスマホ」を立ち上げるなど、端末に対して積極的なイメージもありましたが、最近はややおとなしい印象を受けています。今現在の考え方を教えてください。

中野氏 端末もずいぶんと進化してきた一方で、自ブランドの端末を作るのは費用の面でも難しいところがあります。お客さまにたくさんのチャンスを与えるという意味で、多くのメーカーと取引して、下から上までそろえるようにしています。その中に、iPhoneもあります。

―― ちょうど、今、それを聞こうと思っていました(笑)。1月に「iPhone SE」の販売を開始しました。

中野氏 ただ、あれはやってはみたのですが、なかなか調達やハンドリングが思ったようにできませんでした。今、まだ在庫は残っていますが、この在庫を最後にやめようと思っています。期待されている方には申し訳ないのですが……。

―― 親会社のKDDIからストップがかかったというようなことはありますか。

中野氏 それはありません。われわれもビジネスをしたかったのですが、安定した供給ができないというのが理由です。エンドユーザーの期待に十分応えられないのであれば、Androidの品ぞろえをしっかりしていきたいですね。

―― 親会社からあっせんしてもらうということは……。

中野氏 期待感は持っていますが、まだ2月になってから2週間ほど(※インタビュー時点)で、具体的な話はできていません。KDDIグループの一翼を担う上で、それは期待したいのですが。

―― 現状だと、端末セットとSIM単体、どちらが多いのでしょうか。

中野氏 少しずつ、端末とセットで買う方が増えています。これはどちらかといえば、MVNOの広がりと関係しています。最初はSIMカードだけを買って自分で入れ替えるリテラシーの高い方が中心でしたが、だんだんと普通の方が増えています。端末が古くなったので、どうせなら新しい方がいいという方が加入しているということですね。ただ、MVNOの特徴でもありますが、端末全部をそろえているわけではないので、まだまだSIMカードだけの方も多くいます。

―― 3GとLTEでのデュアルSIM、デュアルスタンバイに対応した端末も増えています。ビッグローブさんは導入も早かったと記憶していますが、これをもっと有効活用したようなサービスは、何か考えていますか。

中野氏 今後、デュアルSIMでユーザーの皆さんの得になるようなことは考えていきたいですね。なかなか難しいことではありますが、アイデアレベルではいくつかあります。今だと普通は、海外に行った際に現地のSIMを挿して使うことが多いと思いますが、国内でもっと面白い使い方がないかは検討していきます。

●大容量プランも導入、通信品質向上の取り組み

―― 現状、MVNOの契約者数は40万超とKDDIの決算で公表されていましたが、あれはWiMAX込みの数字ですよね。ドコモのネットワークを使ったMVNOは、どの程度の規模なのでしょうか。

中野氏 契約者数は非公開です。ただ、(シェアでは)最近、mineoさんに抜かれてしまいました。他社のことをどうこう言う立場ではありませんが、お客さまを大事にする姿勢は、まねていかなければならないと思っています。その辺も、もう1回検討していきたいですね。

―― そのmineoさんは、リアル店舗を渋谷などにオープンしました。ビッグローブさんは量販店中心だと思いますが、売り場の奪い合いがあり、競争環境も厳しいと思います。何かここを拡大していく策はあるのでしょうか。

中野氏 秘策はありません(笑)。私も有楽町や秋葉原に行きますが、Y!mobileさんやUQ mobileさんもいて、あのボリューム感にはちょっと対抗できません。専門店ではありませんが、そういった駆け込み寺のようなところを用意させていただいたり、Webやコールセンターは今より強化していきたいと思っています。

―― 先ほど20GB、30GBプランのお話がありましたが、大容量プランについては、どうお考えでしょうか。既存プランの容量を上げているところもありますが、こちらについてはいかがですか。

中野氏 20GB、30GBプランはやろうと思っています。エンタメフリーのような領域と、全体でたくさん使いたいという両方の要望に応えていきたいと考えています。既存プランの容量拡大については、お客様次第ですね。今、一番大きなプランは12GBですが、それでも使い切ってしまう方がいますので(※インタビュー後に20GB、30GBプランが正式に発表された)。

―― より大容量のプランが欲しいという声もあったということでしょうか。

中野氏 それはあります。1人でも12GBだと足りないという要望や、家族でシェアしているのでもう少し容量が欲しいという要望は、実際に上がってきていました。われわれはシェアSIMを以前からやっていて、息子、娘が使って12GBがなくなってしまうことが多い。ISP会員が多いので、家族という単位で見られることが多く、シェアSIMは人気が高くなっています。

―― なるほど。確かにシェアすると容量は足りなくなりそうですね。より大容量のプランの比率が高くなれば、MVNOとしての収益性も高くなるのではないでしょうか。

中野氏 そうですね。ただ、実際、(20GB、30GBを選ぶ人が)MVNOを選ぶのか、大手3キャリアを選ぶのかはまだ分かりません。安いからMVNOを選ぶのであって、そこは楽観的に見ていますけどね。一方で、われわれはドコモさんから帯域を卸してもらって、それを使っています。設備を自前で持っているわけではないので、使われれば使われるほど利益が出るモデルでもありません。そのぶん、帯域を借りなければならないですし、方やスピード競争もあるからです。

 そこで、われわれとしてここ1年ぐらい取り組んできたのは、単純なスピードだけではないところです。動画やWebを見るときの快適さは、スピードテストだけでは語れない。表示するまでが速かったり、途中で途切れたなかったり、動画がカクカク動かなかったり、そういうところまで含めてのQoE(Quality of Experience=サービスの体感品質)だと思っています。これは、ここ半年〜1年でいろいろな技術を入れ、がんばってきたつもりです。

―― 具体的には、どういった技術でしょうか。

中野氏 TCPのウィンドウサイズだったり、パケットの再送タイミングのチューニングだったりをきちんとやることです。例えば、最初にデータを送ったとき、受け側と送り側の帯域がきちんと合っていないと届かず、再送要求を繰り返すと、帯域を余計に食ってしまいます。そういうことがあると、大事な帯域を十分に使えません。今ある帯域に対して、きれいに、スムーズに送ってあげる。そういったことを丁寧にやると、速度測定でスループットは出なくなりますが、使っている方は(動画などが)キレイに見えるようになります。ですから、速度測定だけでなく、全体のクオリティーを評価していただきたいですね。

 MVNOはキャリア(MNO)から借りた帯域を、いかに有効に、最適に使うかで、1回のスピードテストでポンと数値が出ても、何もプラスになりません。帯域がじゃぶじゃぶあるMNOと、MVNOでは事情が違います。どういった評価指標があればいいのかは、いろいろな議論があっていいと思っています。私は2016年6月までNECにいて、そういったプロダクトを出す側にいたので、そこを分かってもらうのが難しいことは分かっているのですが……。

●取材を終えて:au回線を使ったサービスでどう差別化を図るか

 MVNOとして自ら販売する端末をいち早く導入したり、料金をいち早く下げたりと、積極的な攻勢を続けていたビッグローブだが、特にここ1年はやや派手なサービス発表もなく、淡々と事業を継続している印象を受けていた。実際、筆者の読み通り、事業環境の変化を踏まえ、サービス提供の考え方を変えていたようだ。

 一方で、エンタメフリー・オプションのように、他社のゼロレーティングとは考え方の異なるサービスも導入しており、KDDIグループの一員になったことで、MVNO事業に対する投資もしやすくなった。親会社のKDDIはauだけでなく、MVNOも含めて「モバイルID」を増やす方針を掲げており、ドコモ回線とMVNOを合わせて40万超の会員を抱えるBIGLOBEは、ユーザー接点を拡大する武器になる。

 とはいえ、MNOの単位で見ると競合であるドコモの回線が増え続けるのは、敵に塩を送るようなもの。現時点での方針は定まっていないが、au回線を使ったサービスも早晩開始することになるだろう。その際に、UQ mobileやJ:COM MOBILEなど、傘下の他企業とどのような違いを打ち出せるのかは注目しておきたいポイントだ。

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