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「シンギュラリティは心配無用」――富士通研究所が挑むAIの最先端

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/09/25
「シンギュラリティは心配無用」――富士通研究所が挑むAIの最先端: 研究開発戦略説明会に臨む富士通研究所の佐々木繁社長 © ITmedia エンタープライズ 提供 研究開発戦略説明会に臨む富士通研究所の佐々木繁社長

 「シンギュラリティは心配しなくていい」――。こう語るのは、富士通の研究開発子会社である富士通研究所の佐々木繁社長だ。同社が9月20日に開いた研究開発戦略説明会でのひとコマである。

 シンギュラリティとは、人工知能(AI)が人間の知性や能力を上回ることで「技術的特異点」と訳され、2045年にもその時が訪れるとされている。その現象を表した言葉だが、人の仕事を奪うといった刺激的な動きの象徴的な表現に使われることも少なくない。

 そのシンギュラリティに対して「心配しなくていい」とはどういうことか。それをひもとくために、佐々木氏の話について少々順を追って紹介しておこう。

 まず、富士通研究所では特に次の8つの技術分野で最先端を行っているという。同社による技術名(英語名)も合わせて列記すると、量子コンピューティング技術の「Digital Annealer」、説明可能なAIの「Deep Tensor/Knowledge Graph」、異業種をつなぐデータドリブン・プラットフォームの「Connected Digital Place」、つながるものを飛躍的に拡大する「Zero Limitation Networking」、つながる世界へシステムを革新する「Microservice Transformation」、データの信頼性を確保する「Borderless IoT Security」、人間の感覚・感性・錯覚を理解し協調する「Nine-Sensecomputing」、フィジカルとケミカルを融合する「Materials Informatics」といった分野だ。

 そして、同社はこれらの研究開発に共通して、「人とヒューマンセントリックなICTとの協調」を掲げている。図1に示したのがその考え方で、「ICTとAIが得意とするのは専門分野。その能力の活用範囲は広がっていくだろうが、一方でさまざまな意思決定が必要な社会課題の解決は、最終的に人間が判断しなければいけない仕組みをつくるべきだ」と佐々木氏はいう。

 図1では、それが人間とAIとICTによる「Human in the loop」と表現されている。これをして佐々木氏は、「ICTやAIは、あくまでも最終的な判断を行う人をエンパワーメントする技術。従って、シンギュラリティは心配しなくていい。私たちはそういう技術の研究開発に今後も注力していく」と強調した。冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。

●ブラックボックスから“説明可能なAI”の実現へ

 そうした人をエンパワーメントする技術として、富士通研究所は今回の戦略説明会を機に幾つかの研究開発成果を発表した。ここでは、その中から先述の先端技術の1つにも挙げられている説明可能なAIの「Deep Tensor/Knowledge Graph」に注目したい。

 実は、Deep Tensor(ディープテンソル)は人やモノのつながりを表現する「グラフ構造」のデータを高精度に解析できる機械学習技術として、1年前に発表されたものだ。この技術については、2016年10月24日掲載の本コラム「ディープラーニングを超える――富士通研究所のDeep Tensorは世界に通用するか」で解説しているので参照いただきたい。

 今回はそのDeep Tensorと、学術文献など専門的な知識を蓄積したKnowledge Graph(ナレッジグラフ)と呼ばれるグラフ構造の知識ベースを関連づけることにより、大量のデータを学習させたAIの推定結果から推定理由や学術的な根拠を提示する技術を開発したという。

 この技術開発の背景として、同社では「ディープラーニングなどの機械学習技術の活用が広がる一方で、これらの技術は推定結果が得られた理由を人間が検証することが困難なため、AIを使った専門家の判断に関して説明責任が問われる医療や金融などのミッションクリティカルな領域などへの適用に課題があった」としている。すなわち、これまでは「ブラックボックス型のAI」だったのである。

 それに対し、今回の新技術では、AIの推定結果に対する理由や根拠として得られた学術文献などの専門的な知識をもとに、専門家がAIの推定結果が信頼に値するかを確認できるとともに、得られた結果を手掛かりに新しい知見を得ることができるようになるなど、専門家がAIと協調して問題解決する世界が実現するとしている。

 なお、この新技術は、Deep Tensorが2017年度内に富士通のAI技術群「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」にて実用化されるのに続き、2018年度内に同様の形で実用化される予定だ。(図2)

 佐々木氏は今回の新技術について、「説明可能なAIについては、これまでDeep Tensorとともにおよそ20年前から技術を蓄積してきており、他社を大きくリードしている」と力を込めた。

 Deep Tensorおよび今回の説明可能なAIは、果たして世界に通用するものとなるか。そのカギとなるのは、富士通が世界に向けてさまざまな形で強力に発信し続けていくことと、研究開発においてもビジネスにおいても「仲間作り」を積極的に行っていくことだと筆者は考える。

 人をエンパワーメントする技術だからこそ、シンギュラリティも過剰に気にしなくていい――。そんな発想の富士通には「日本発のAI」として大いに奮闘してもらいたい。

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