古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「トランプマークが浮いて見える」不思議な画像 どうやって作っている?

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2017/07/27
「トランプマークが浮いて見える」不思議な画像 どうやって作っている?: ピンナ錯視(Pinna illusion, 2000)。ピンナ氏らの論文にある図を元に作画したもの。画像はなるべく大きくしてご覧ください © ITmedia NEWS 提供 ピンナ錯視(Pinna illusion, 2000)。ピンナ氏らの論文にある図を元に作画したもの。画像はなるべく大きくしてご覧ください

 下の画像をゆっくりと繰り返し上下にスクロールするか、左右に動かしてみてください。中央にある大きなクローバーが、背景から分かれてユラユラと動いているように見えませんか。

 この錯視は、前回紹介した「浮遊錯視生成技術」を使って作成したものです。私と共同研究者の新井しのぶが2010年に考案した技術で、好きな画像を“動いて見える錯視画像”にできます。これによって作られる錯視を「浮遊錯視」と呼んでいます。

 今回は前回に引き続き、浮遊錯視に関するお話をしたいと思います。

●浮遊錯視効果で、動いて見える錯視をより強くする

 この浮遊錯視生成技術を作ったとき、私たちには次のような疑問が浮かびました。

 「もともと動いて見える錯視に、浮遊錯視生成技術で手を加えるとどうなるか?」

 従来の“動いて見える錯視”と、私たちが作った“浮遊錯視”の動き方の違いを調べるという点からも興味があることでした。

 いくつかの錯視を試しましたが、ここでは前回紹介した「ピンナ錯視」に浮遊錯視技術を施した結果をご覧頂こうと思います。その前に、元のピンナ錯視を思い出しておきましょう。次の画像がピンナ錯視です。

 中央の黒い丸を見ながら顔を画像に近づけたり遠ざけたりすると、周囲の小さな四角が円上を動いているように見えます。ピンナ錯視は四角のふちを上の図のように白と黒にすることで起こります。

 この画像の錯視が起こる部分に浮遊錯視生成技術を施し、浮遊錯視を加えてみます。結果は次のようなものでした。

 顔を画像に近づけたり遠ざけたりすると、浮遊錯視を後から加えた方が元のピンナ錯視よりも動きが滑らかになり、やや大きくなっていることが分かります。これは浮遊錯視の効果によるものです。

 この他に、浮遊錯視の効果を加えて錯視と感じる量を増強できるものもあります。それについては別の機会に紹介することにします。次もピンナ錯視を使って別の実験をしてみましょう。

●浮遊錯視でピンナ錯視を逆向きに回す

 次はピンナ錯視の四角が動いて見える“向き”に注目してください。ピンナ錯視の内側の円上にある四角は、顔を画像に近づけると、時計回りに動いて見え、画像から遠ざけると反時計回りに動いて見えます。

 もしもピンナ錯視に反対向きの浮遊錯視効果を加えるとどうなるでしょうか。結果は次の通りです。

 「反対向きの浮遊錯視を加えたピンナ錯視」では、内側の円上にある四角が顔を画像に近づけると反時計回りに動いて見え、顔を画像から遠ざけると時計回りに動いて見えます。つまりピンナ錯視と逆向きに動く錯視画像になっているのです。

 ところが、四角のふちの黒と白はピンナ錯視と同じように配置されています。このことから浮遊錯視の効果がピンナ錯視の効果よりも強く出たと考えられます。

●浮遊錯視生成技術を作ったきっかけは

 ここで話題を変えて、ごく簡単ではありますが、どのような発想で浮遊錯視生成技術を作ったのかを説明しておきたいと思います。

 通常の静止画は、いくら動かしても絵が動いているようには見えません。なぜ錯視画像は動いて見えるのでしょうか。その理由は、錯視が見えないときと比べて脳の中の視覚に関する神経細胞が違った反応をしているからだといえるでしょう。このことを模式的に表した絵が次のものです。

 そこで次のようなことが推測できます。

 「もし、動いて見える錯視を見たときと同じになるように脳細胞の反応を操作できれば、どんな画像を見ても動いて見える錯視が起こってしまうのではないか?」

 私と新井しのぶは視覚の数理モデル、つまり人間の脳が視覚の情報を処理する仕組み(の一部)を数式で表したものを作り、コンピュータに実装して実験してみました。

 数理モデルを適切に操作すれば、錯視が起こらない普通の画像を入力してもコンピュータは動いて見える錯視を出力してくるに違いありません。比喩的で正確な言い方とはいえませんが、“コンピュータが錯視を起こすはず”です。実際に、一定の操作を視覚の数理モデルに加えてからコンピュータに通常の画像を入力すると、動いて見える錯視画像を出力してきました。これが浮遊錯視生成技術です。

 この研究は、いずれ別の回で取り上げますが、錯視の構造解析法という筆者らによる錯視の新しい分析方法とも関係します。なお浮遊錯視生成技術については特許を取得しています。

●浮遊錯視生成技術って役に立つの?

 これまで、錯視アートの多くは既存の錯視をいかに魅力あるようにデザインするかが問題でした。そこがアーティストの腕の見せ所となっていたのです。しかし、浮遊錯視生成技術によってコンセプトに合った「動いて見える錯視」そのものを作ることができるようになったのです。

 この技術を使って実際にクライアントのニーズに合った浮遊錯視を作り、それが商品デザインやパッケージなどに使われた例もいくつかあります。錯視アートの幅が広がったといえるでしょう。

ITmedia NEWSの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon