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「ニーズは全然なかった」 ゲームAI“第一人者”が歩んだ苦悩の20年間

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2017/08/21 19:16
「ニーズは全然なかった」 ゲームAI“第一人者”が歩んだ苦悩の20年間: ゲームクリエイターの森川幸人さん © ITmedia NEWS 提供 ゲームクリエイターの森川幸人さん

 ゲームキャラクターとプレイヤー同士の自然な会話、敵の強さやイベント発生をコントロール――そんなゲームAI(人工知能)を提供する新会社モリカトロン(東京都新宿区)が8月16日に設立された。ゲームAIの専業企業は日本初という。

 創業者はゲームクリエイターの森川幸人さん。AIを活用したプレイステーション向けゲーム「がんばれ森川君2号」(1997年発売)をはじめ、20年以上にわたりゲームAIの研究開発に取り組んできた第一人者だ。

 森川さんは新会社で「まずはゲームにどうAIを使えばいいのか、お手伝いするところから始める」という。ゲームデザイナーのアイデアを基に、AIのモデルを提案したり、開発したりと、他社のゲーム会社をサポートする考えだ。モリカトロン単体でAIを活用したゲームを開発するのは、もう少し先になるという。

 「20年前は(基盤が)何もなかった。ゲームAIを作ろうと思えば新規開発となり、ゲーム会社と手を組む必要があった。望みがあるのは、今はAI開発用のツールがたくさんある」。森川さんはこれまでを振り返りながら、AIの現状に期待を寄せる。

 そんな森川さんが、新会社を設立するまでにはどんな苦悩を味わったのか。なぜ、いまゲームAIに注力するのか。都内で開かれたトークイベント「黒川塾」(8月17日)で、森川さんが20年の歩みを振り返った。

●時代に逆行した「放置ゲー」の発想

 「ゲームAIのニーズは全然なかった」――森川さんは、この20年間をそう振り返る。2000年ごろから、グラフィックスを重視するゲームタイトルが増えた一方で、AI導入にコストをかけるゲーム会社は少なかったという。

 「ゲームはプロレスのようなもので、筋書きがある」――森川さんはそう指摘する。登場キャラクターが突然ひらめいたかのように「あそこにこんなルートがあるぞ」と話す場面があっても、それはあらかじめゲームデザイナーが設定したもの。そんな“演出”ではなく、AIを搭載したキャラに「ガチで考えさせたかった」という。「キャラに命を吹き込むことをメインにやっていきたい」

 森川さんが約20年前、ゲームAIの開発を始めた動機は「人間がやらなくてもいいゲームを作ろうと思った」から。いわゆる「放置ゲー」を作りたかったという。

 「『全自動マリオ』のようなものを作りたかった。ステージ1は人間がプレイすると、その様子から『土管は入る』『溝は飛び越える』などと学習して、その後は勝手にやってくれたらこんなに楽なことはない」(森川さん)

 だが「放置ゲー」の発想は、90年代後半の風潮とは逆行していた。当時はどのゲーム会社も「100時間遊べる」「たくさん遊んでもらえる」をテーマに、ゲーム開発を進めていたからだ。

 そんな中、プレイステーション発売時に「どさくさに紛れて、ソニーが斬新なゲームをたくさん作らせてくれた」(森川さん)。その代表作が「がんばれ森川君2号」だった。AIを搭載するロボット「PiT」の行動に対し、プレイヤーが「イエス」「ノー」で評価すると学習していくというものだ。

 人間の脳を模倣したシステム「ニューラルネットワーク」を採用するなど、当時としては意欲作だった。「遊んだ人からは『やることがない』とたたかれたが、ソニーのプロモーションのおかげでそこそこ売れた」

 森川さんは、プレイステーション向けに畑を荒らす害獣をトラップで撃退するゲーム「アストロノーカ」(当時のエニックスが1998年に発売)という作品も世に送り出した。夢の島(東京都江東区)のごみ処理場で起きた「ハエ問題」から着想を得たという。

 大量発生したハエに農薬をまくと、耐性のあるハエが出てきて、さらに強力な農薬をまく必要が生じる――そんな社会問題を「これはゲームだ」と森川さんは捉え、ゲームAI開発に生かしたという。プレイヤーが仕掛けたトラップに害獣が引っ掛かると学習し、次の世代は回避するようになるという「遺伝的アルゴリズム」を採用した。

 「(ロールプレイングゲームなどでは)人間のゲームデザイナーが敵モンスターの強さを決める」と森川さん。モンスターと遭遇するとき、プレイヤーがどれくらいのレベルに到達しているか、どんな武器を持っているかを想定して設定しているので、シナリオが変更になるとやり直しになることもあるという。だがアストロノーカでは、害獣が自ら「強さ」を獲得していき、プレイヤーに合わせて進化していく。

 いち早くそんな仕組みを取り入れたアストロノーカだが「これは世間というよりも、会社の中で評価が悪かった。『分からない』と言われた」。ゲーム性への理解が得られなかったと森川さんは嘆く。

●「初音ミク」登場の4年前、“時代を先取り”した「くまうた」

 そうした声にもめげず、森川さんは別の視点からゲームAIに挑んだ。「キャラを自由にしゃべらせたい」という思いから作った「くまうた」(プレイステーション2向け、2003年発売)だ。

 音声合成技術を活用したが、当時の技術では言葉のイントネーションをうまく付けることができなかったため、「歌にしてしまえ」と開発した作品だった。「抑揚のない話し方だと世界観を壊す。歌は普段の会話言葉とはイントネーションが全く違うので、ごまかせる。すごい発見だと思った」

 「失敗したのは、演歌とくまを題材に選んでしまったこと」と森川さんは苦笑いする。くまうたの発売から4年後、VOCALOIDソフト「初音ミク」が登場すると「こっちだったか」と反省したという。「くまと演歌の組み合わせでは、(世間の評価は)それはダメだろうと。なぜプロデューサーは止めなかったのか」

●「風向きが変わった」

 「ゲーム開発にAIが必須という空気になりつつある」――そう話すのは、森川さんと同じくゲームAI開発者で、「FINAL FANTASY XV」(16年発売)などに携わった三宅陽一郎さん。09年ごろまでは「踏んだり蹴ったり」だったが、10年から風向きが変わったという。

 「今もグラフィックスは進化しているが、急激な変化は起きなくなった。一方、プレイヤーが(AIとの対話など)インタラクティブなことに慣れるようになり、11年〜12年ごろからゲームAIの開発が本格化してきている」(三宅さん)

 三宅さんは、ゲームAIを「これまで固定化していたものを動的にするもの」と話す。例えば、プレイヤーの行動に応じて、敵の配置や難易度をAIが“神様のような視点”で調整し、最終的にはストーリー自体もAIが決めるようになる――そんなダイナミックなゲームの開発を目指しているという。

 「日本のゲームデザイナーが優秀すぎて、AIが賢くなくてもいいゲームを作れてしまうが、その結果ゲームデザインを束縛するようになった。海外は不器用なので『AIがないと制御ができない』と研究が進み、日本はオープンワールド化の波に乗り遅れた(※)」

(※)オープンワールド……広大な世界を自由に探索でき、ストーリーが一本道ではないゲームジャンル

 三宅さんは、日本のゲーム業界はまず、遺伝的アルゴリズムやニューラルネットワークなど“一世代前のモデル”から探求すべきと提案する。森川さんの作品以外に、そうした技術を取り入れたものは少ないが、「日本のゲーム会社はいきなり、計算量が膨大なディープラーニング(深層学習)などに飛びつく傾向がある」という。

 「AIは玩具だ」とも森川さん。若い人たちには「ゲームにAIを使うとどうなるか」ではなく「まずはAIをいろいろと試してほしい」という。「いきなりゲームデザインとAIを結び付けるのではなく、AIで遊ぶうちにアイデアが出てくるのではないか。試せることが多い中で、ブレークスルーが起きるのを期待している」(森川さん)

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