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「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2016/11/24

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 女優ジュリアン・ムーアが大好きである。ヴェネチア、ベルリン、カンヌなど、世界じゅうの著名な映画祭で主演女優賞を受賞する前から、大好き。「ブギーナイツ」、「マグノリア」、「ハンニバル」と、どのような役柄を演じても、オフ・ブロードウェイでの演劇経験が豊富、芝居の基礎がしっかりしている。いいなあ、うまいなあと思っていた。しかも、美人。

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 新作の「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」(松竹配給)では、ジュリアン・ムーアの演技力が爆発する。麻薬取締でみせる辣腕の刑事、同性愛者、末期のがん患者と、同一人物の3つの設定を、あざやかに演じきる。美しい。かっこいい。うまい。

 ドラマは実話に基づいている。2008年、ローレル・ヘスターとステイシー・アンドレという同性愛の女性ふたりを描いたドキュメンタリー映画「フリーヘルド」が、アカデミー賞の短編ドキュメンタリー賞を受ける。映画は、この短編ドキュメンタリー映画を、さらに詳しく、劇映画として再構成していく。脚本を書いたのは、ロン・ナイスワーナーである。エイズを真っ正面から描いた「ブルックリン」を書いた人で、まさに適役。監督は、ピーター・ソレットという人。学生時代、カンヌ国際映画祭で学生監督作品に贈られるシネフォンダシオン部門で、最優秀短編賞を受けている。

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 1999年。ニュージャージー州のオーシャン郡。腕利きの刑事ローレルと、整備工のステイシーが出会う。ドメスティック・パートナーシップ制度(同性パートナー条例)はあるものの、その適用には、周囲の目を気にしなくてはならない。まして、同性同士の結婚などは、まかり通らない時代である。それでも、ふたりは愛し合う。しかも、ローレルが肺がんになる。それもすでに末期。ローレルは、なんとか遺族年金をステイシーに残したいと思う。しかし、家族でなければ、年金は適用されない。がんに犯されながらも、ローレルは、当時の社会常識に抵抗、立ち向かっていく。

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 女性同士、男性同士の愛を描いた映画は数多い。社会通念との闘いが、常につきまとう。だからドラマになるのだろう。その都度、何度も書いているが、世の中には男と女しかいない。その愛の形は3通りしかない。別に同姓だからといって、忌みきらい、差別などする必要はない。では、歌舞伎の女形と宝塚の男役との結婚などは、異性とはいえ、二重の意味で、おかしなことになる。

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 映画の主題歌「ハンズ・オブ・ラヴ」を唄っているのはマイリー・サイラス。カントリー歌手で有名なビリー・レイ・サイラスの娘である。彼女のコメントが、映画の資料に載っている。「私はあらゆる形の愛を支持しているの。誰かを愛する気持ちを他人が止めるべきではないわ」と。まったく、その通りと思う。

 腕利き刑事、同性愛者、がん患者を演じ分けたジュリアン・ムーアの魅力に加えて、助演陣の奮闘が目立つ。相手役のローレルに扮したのは、エレン・ペイジ。ジェイソン・ライトマン監督の「JUNO/ジュノ」では、妊娠した高校生を演じた。ローレルの刑事仲間のデーン役がマイケル・シャノン。ローレルが同性愛者とは知らず、ひそかに思いを寄せているらしい役どころを、渋い演技で見せる。後半、ローレルを支援し、見せ場たっぷり、奮闘する。

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 大物俳優スティーヴ・カレルが、ゲイの活動家で出ている。こんなところにも、アメリカ映画の俳優層の厚さ、贅沢さが楽しめる。

 やがて、ローレルとステイシーのめざしたことは、アメリカの社会を大きく変えていくことになる。映画を見て、思った。大統領がトランプに変わる。経済的、人種差別など、さまざまな問題を抱えているかもしれないが、いろんな意味で自由なアメリカであり、寛容で、誰しもが愛し合える、自由なアメリカであり続けてほしいものだ。

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●Story(あらすじ)

 1999年。アメリカのニュージャージー州の海辺に近いオーシャン郡。女性ながら、腕利きの刑事ローレル(ジュリアン・ムーア)は、今日も麻薬捜査で、実績をあげる。すでに20年、多くの勲功があるが、女性ゆえに、いまだ警部補にすらなれないでいる。ずっと独身のローレルは同性愛者である。信頼している相棒のデーン(マイケル・シャノン)にも、秘密にしている。デーンは、ひそかにローレルに思いを寄せているようにも見える。

 ある休日。ローレルは、自宅とは少し離れたところで、バレーボールの練習をしている。ここで、ローレルは、まだ若い、男の子のような女性ステイシー(エレン・ペイジ)と知り合う。ステイシーは、亡くなった父親から教えられた自動車整備の技術で、いまは整備士として働いている。ふたりは、携帯電話の番号を教えあう。

 初めてのデートで、ステイシーはローレルをクラブに案内する。カントリー音楽が好きでないローレルの手をとり、ステイシーは踊りを教える。ふと、ローレルは、後輩の男性をクラブで目撃する。女性というだけでもなかなか出世はできない。まして、同性愛などと周囲に分かれば、ますます出世の道は閉ざされる。

 夜の港。ステイシーは言う。「信頼が大事だよね」と。思わず、唇を寄せるふたり。それを見ていた地元の男たちが、「金を出せ」と迫る。ローレルは、後ろに隠した銃で、男たちを威嚇する。なによりも驚いたのは、ローレルが刑事だったことを知らなかったステイシーだった。ふたりが、愛し合うようになるのには、それほどの時間はかからなかった。

 「何でも手に入るとしたら、人生の夢は?」とステイシー。「愛する人と庭のある家、小さな犬」と答えるローレル。1年後。ローレルは、郊外に小さな家を買い、ステイシーと住みはじめる。ふたりは、施行されたばかりのドメスティック・パートナー制度に登録する。引っ越し祝いにデーンが訪ねてくる。ローレルがレズビアンだったことを、デーンは初めて知ることとなる。それでも、ふたりは、一見、幸せそうな日々を過ごしていた。

 ローレルの肺に腫瘍が見つかる。肺がんである。すでに末期との診断に、ローレルは動揺する。ローレルは、刑事としての遺族年金をステイシーに残そうとして、郡政委員会に申請する。ふたりは、正式には夫婦ではない。ローレルの申請は却下される。

 申請却下の決定に、デーンが立ち上がる。デーンは、郡の委員会に直訴するよう、ローレルに提案する。ローレルの委員会でのスピーチが、新聞に出る。ゲイの活動家のスティーブン(スティーヴ・カレル)が、ローレルの支援に名乗り出る。ローレルは、スティーブンに言う。「私の望みは、同性の結婚ではなく、平等な権利が欲しいだけ」と。

 スティーブンの協力、支援活動が始まるが、ローレルの体は、日増しに悪化していく。周囲の同性愛への偏見は、まだまだ根強い。はたして、ローレルとステイシーはどうなるのだろうか。世の中は、どのように動いていくのだろうか。

<作品情報>

「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」

(C)2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

2016年11月26日(土)、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー

公式サイト

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