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「ユニクロ潜入取材」の横田氏を直撃 なぜ名前を変えてまで取材するのか

エキサイト Bit のロゴ エキサイト Bit 2017/03/07 鶴賀太郎
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企業に最も嫌われるジャーナリスト

潜入取材。危険な香りのするこのハードボイルドな方法による取材記事が昨年末以来話題になっている。その記事とは週刊文春に掲載された「ユニクロ潜入1年」。著者は「企業に最も嫌われるジャーナリスト」の異名を持つ横田増生氏。実は横田氏、過去にもアマゾン、ヤマト運輸、佐川急便など多くの潜入取材を通じて、企業の労働環境の実態を暴いてきた。

その横田氏が1年以上ユニクロでアルバイトとして働き、内情を全10回にわたり克明にレポートしたのが上記の記事だ。

なぜ潜入取材を行うのか、何が横田氏を潜入取材に駆り立てるのか直撃インタビューをしてみた。

守秘義務の名の下に取材をさせてくれない

――あらためて、ユニクロに潜入取材することになった経緯を教えてください

横田氏 以前、『ユニクロ帝国の光と影』という本を書いたのですが、その際柳井さん(ユニクロ社長)が『悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい』ということをおっしゃったので、それならばと文春に企画を持ち込みました。

――1年以上に渡る長期の取材ですが、潜入取材という手法は採算が取れるものなのでしょうか?

横田氏 これはやってみないとわかりません。今回は最初から訴訟になることも覚悟していましたが、今訴訟リスクを取ってくれる雑誌も減ってきています。また今回は結果的に今勢いのある文春での巻頭特集、掲載も10回とかなりの分量になりましたが、2ページだけで終わってしまうかもしれませんし掲載自体見送りになることもありえます。

――そういう意味でもかなりリスキーな取材ですが、にも関わらず横田さんを潜入取材に駆り立てるものは何ですか?

横田氏 ユニクロはこれからの日本の国際化を占う意味でもとても面白い企業だと思うんです。特にアメリカでトランプが登場している今、保護主義がまん延してユニクロの製品に高い関税が課されたら今までのビジネスモデルも成り立たなくなりますし。だから取材したいのですが、ユニクロに限らず多くの企業が守秘義務の名の下に取材をさせてくれません。そして彼らは取材させないと言ったら、こっちが身を引くと思っているんです。でもあなたたちが取材させへんと言っても取材は終わらないということをやってみたかったんです。

――実際かなり内幕をばらしていますが、それは守秘義務違反には当たらないのでしょうか?

横田氏 公称の発行部数70万の雑誌のトップ記事として発表しているのですから、会社からすれば滅茶苦茶な“守秘義務違反”ですよ(笑)。でも本来漏らしちゃいけないのは顧客情報やライバル企業を利するような情報であって、厳しい労働環境の現状などは守秘義務に当たらないのではないかと考えています。でも企業は守秘義務の下、必要ないものまで隠して、働いている人も守秘義務にびくびくしてしまっているのはどうかと思います。

潜入のために戸籍名も変更!

――『ユニクロ帝国』の後、同社と裁判になった横田さんがよく潜入できましたね。

横田氏 かなり神経を使いました。記事が出た後は裁判になることも十分あり得ると想定していたため、裁判となっても問題にならないように嘘だけはつかないように細心の注意を払いました。そのために戸籍上の名前も変え、パスポート、免許や色々なカードも作り変えました。手帳も横田増生の名前のものと、今の名前のものの二つ別々のものを持っていました。万が一落とした時に横田増生の名前がばれると危険ですから。

――正体がバレそうになったことはなかったのですか?

横田氏 一度、〈客注〉という商品取寄せの伝票に、担当者の名前を書くときについつい横田と書いてしまって慌てたことがありました。また、働いている間にラジオ番組に出演したことがあったのですが、その翌日に店にでると皆に『増生さん、おめでとうございます!』と拍手で出迎えられたのでラジオに出たことがバレたのか、と一瞬混乱したことはありました。結局それはお客様からはがきで名指しでお褒めのはがきが届いたということで、ラジオ出演のことは誰も気づかず事なきを得ましたが。

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1年以上働いても愛着は湧かず

――1年以上も働いているとユニクロという会社に愛着が湧いてくるということはないのですか?

横田氏 ユニクロに対する愛着は湧きませんでしたが、一緒に働いた仲間に対しては仲間意識は湧きました。記事にも書きましたが、若いながらも尊敬できるような素晴らしい店長もいました。そんな人たちのキャリアに傷をつけたくないので、もう彼らとはコンタクトをとることもしないですが。

――2011年に『ユニクロ帝国』で横田さんに指摘された後も、ユニクロは労働環境を改善させていないのですか?

横田氏 ユニクロは、2007、8年頃から色々な改革には取り組んでいたようです。実際、アルバイトとして入っていた僕が休憩に入るのが10分遅れたら、休憩終わりに売り場に出ようとしても『増生さんは10分遅れたから後10分休んで』と言われましたし、以前よりは大分まともになってきているようです。改革の途中で僕の本が出たので、ユニクロとしては『変えているやん。それなのに何でそこまで言われなきゃいかんねん』という思いもあるのでしょうね。

カリスマの存在が自浄作用を妨げる

――その質問をそのまま横田さんにぶつけさせてください。なぜ改革途中の企業にわざわざ潜入までして取材しているのですか?

横田氏 ユニクロは自分たちに間違いがあった時にそれをなかなか認めたがらないんです。僕が海外の工場では夜中に働いていると指摘しても取り合わなかったり、柳井さんが思っているよりもサービス残業は多いんですと柳井さんの側近がそう諫言したこともあります。冒頭でお話したように『悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど』というような対応をしてきたりします。ユニクロが裁判で出してきた資料では感謝祭のある一番忙しい11月の店長の労働時間がすべて法定時間内に収まっていますが、ちょっと取材しただけでそれは改ざんの可能性があるということがわかります。

本来でしたらユニクロの社内で誰かが『それは違う』と言わなければいけないのですが、創業者兼筆頭株主兼CEOの柳井さんには誰も何も言えなくないので自浄作用が働かなくなってしまっているんです。加えて、ユニクロには労働組合もありません。僕がユニクロをクビになった時も人事部長に『話し合いましょう』と言っても、それに応じてくれません。彼らにはその権限がないのだと思います。自浄作用が働かなくなると、企業はどんどんダメになっていってしまいます。

――これからも企業の自浄作用を促すために潜入取材を続けていきますか?

横田氏 潜入取材はしんどいんですよ。僕も50歳過ぎてますし、そろそろ若い人に任せたいです(笑)。

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今回の一連の取材は本年秋をメドに文芸春秋社より単行本として発売される予定。

これからも「企業に最も嫌われるジャーナリスト」横田増生氏から目が離せない。

(鶴賀太郎)

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