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「一斉配布しなかったからうまくいった」 iPadを武器にしたアサヒビール

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2014/05/29 ITMedia
「一斉配布しなかったからうまくいった」 iPadを武器にしたアサヒビール: 東京都墨田区にあるアサヒグループホールディングス本社 © ITMedia 提供 東京都墨田区にあるアサヒグループホールディングス本社

 アサヒビールが好調だ。2013年のビール類トータル販売数量は1億6320万ケース(1ケースは、大瓶633ミリリットル×20本換算)と、実に12年振りに前年実績を上回った。今月2日に発表されたアサヒグループホールディングスの2014年1〜3月期の連結決算では、主力ビール製品「スーパードライ」やプレミアムビール製品「ドライプレミアム」の売り上げ増などが寄与し、グループ全体で26億円の黒字に転換した。

 この成果の背景には、営業担当者たちの絶え間ない努力があることに疑う余地はない。そうした営業マンを支援するべく、アサヒビールでは他社に先駆けてタブレット端末「iPad」を導入した。そのプロジェクトの旗振り役の一人となったのが、アサヒグループ全体のIT戦略を担うアサヒプロマネジメントにおいて、業務システム部 担当課長を務める光延祐介氏である。

●営業担当者の生産性アップが至上命題

 アサヒビールがiPadを導入したのは2010年末のこと。当時、競合各社とのビール市場シェア争いが激しさを増し各部門において生産性向上の検討が検討されていた。「そうした状況においても、グループ会社の稼ぎ頭として利益を出さねばならなかった。その中で担当役員より下った至上命題は『営業担当者の生産性を上げること』だった」と光延氏は振り返る。

 すぐさま営業部、経営企画部や人事部などとミーティングを持ち、生産性向上のための“秘策”を検討していった。そこで挙がったのが、営業担当者の移動時間や内勤作業の削減による業務効率化である。この実現により「直行直帰の促進」を目指した。ただし、一口に営業マンといっても、都市部と地方、飲食店向けと量販店向けなど、さまざまなタイプが存在するため、まずは、都市部の飲食店向け営業マンに絞って考えることにした。そこで出てきたアイデアが、当時発売されたばかりのiPadの活用である。

 実は、アサヒビールでは既に営業担当者にモバイルPCを配っていたため、外出先からのメールチェックや日報作成などが可能であった。しかしながら、「持ち運ぶには重い、PCの起動に時間がかかり過ぎる」と現場からは不評だった。それに置き換わるデバイスとしてiPadが最適だったという。

 では、具体的にiPadを使って何をするのか。現場などにヒアリングした結果、外出先では特に(1)メールチェック、(2)日報作成、(3)顧客データベースへのアクセス、に大きなニーズがあることが分かり、これらの業務をiPadで補完できるよう整備した。

●単に配布しても失敗する

 営業マンへのiPad導入プロジェクトは、まず2011年初頭に営業現場の若手担当者2人とマネジャー1人の試験的な利用でスタートした。試験期間中には、毎週火曜日の早朝に関係者で定例ミーティングを実施し、利用状況や必要機能などをその都度確認した。

 次に、同年9月からは首都圏のある支店で13人全員が利用を開始。その後、四半期ごとに経営に対して状況報告し、拡大展開の意思決定を求め、東京、名古屋、関西、神奈川、千葉、福岡などのマーケット規模の大きい地域に順次展開していった。現在までに飲食店向け営業全体の約7割がiPadを利用するに至っている。

 ただし今後、すべてのエリア、すべての営業マンに配布する計画はないという。「不公平感などさまざまな議論があったが、iPadの配布台数を増やすのが目的ではなく、あくまでも生産性を高めるのが目的である。配布先の見極めが重要」と光延氏は説明する。

 また、経営層からは「なぜ一斉に展開しないのか」という声があったが、導入コストや営業現場での定着などを考えると、スモールスタートで広げていくことが効果的だというプロジェクトチームの判断があった。

 「単に配るだけでは確実に失敗する。本社営業部や各営業拠点の推進担当者の強い推進力が不可欠だし、IT担当者による導入後のサポートも重要。段階的に導入することが一番の近道だった」(光延氏)

 実際、営業拠点の推進担当者がiPadの導入に前向きで、協力的だったことや、アサヒグループのIT子会社であるアサヒビジネスソリューションズの強いサポート体制の下、営業担当者からの問い合わせにも迅速に対応していったことが、普及を加速させた大きな要因だったという。

●紙や口頭では不可能なプレゼン

 上述したように、当初は外出先でのメールチェックや日報作成がiPadの主たる活用目的だったが、実業務で使っていく中で、カタログのデジタル化や動画によるプレゼンテーションが営業ツールとして有効だということが分かった。

 これまで、例えば、専用サーバによって作る「スーパードライ・エクストラコールド」(氷点下のスーパードライ)の説明や、小瓶専用サーバ「クリーミーフォーマー」を使ったノンアルコールビール「ドライゼロ」の泡製法の説明などは、口頭でも紙資料でも不十分だった。そうかといって、機材を取引先に持ち込んで実演すると、機材を事前準備する必要があったり、場合によってはうまくできないリスクもあったりする。そこで、これらのデモンストレーションを動画コンテンツとしてiPadに用意することにより、顧客に対して効果的なプレゼンテーションが可能になった。

●役員や部長にもiPad活用が広がる

 営業部門にiPadを導入してから3年が経とうとしている。成果は出ているのか。1つには、隙間時間の有効利用が挙げられる。例えば、顧客からの問い合わせに対して、オフィスに戻らずとも移動中にレスポンスすることで、スピーディーな顧客対応が可能になった。また、昼休み前後の時間を使って営業日報を入力する社員が増えているという。「12時から15時ごろにかけて日報をはじめ内勤作業の実施率が高まっている」と光延氏は強調する。

 一方で、当初掲げていた目的である「直行直帰の促進」については、無理な推進はしなかった。1つに資料作成などどうしてもオフィスのPCで作業しなければならない業務があることや、特に地方の支店の場合、事務所の自動車を使って営業活動することが多いためだ。

 そのほか、現場の営業担当者によるiPad活用に効果やメリットを感じたからか、現在では営業の担当役員と本店の部長クラスにもiPadを配布するようになった。

 今後の取り組みについて、現在配布しているiPadに対してはMDM(モバイルデバイス管理)ツールを導入するとともに、利用できるアプリを制限しているが、ルールを設けてユーザーの自由度を高めていくことを検討していきたいと考えている。

 また、iPadから社内の業務システムにアクセスする際には、リモートデスクトップツールを用いているが、今後、量販店向け営業担当者のモバイル端末がスマートフォンに移行するタイミングなどで、業務システム用のネイティブアプリを開発するかもしれないとした。

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