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「昭和の町工場」が独自IoTシステムを開発、生産性を改善するまで

ザテレビジョン のロゴ ザテレビジョン 2017/05/01
「昭和の町工場」が独自IoTシステムを開発、生産性を改善するまで © KADOKAWA CORPORATION 提供 「昭和の町工場」が独自IoTシステムを開発、生産性を改善するまで

 愛知県碧南市に本社を構える中堅自動車部品会社「旭鉄工」は、自動車のエンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンションといった機能部品の生産を手掛ける中堅企業だ。従業員数は480人で、昨年度の売上高は約158億円。同社で代表取締役社長を務める木村哲也氏は、「昭和の雰囲気が漂う、典型的な地方の町工場」と自社を表現する。  そんな旭鉄工は、自社開発した遠隔監視システムを活用し、生産ラインのIoT(Internet of Things)化を実現した。さらにそこで培った技術とノウハウを活かし、同システムを他の中堅・小企業に販売する新会社「i Smart Technologies」も設立。今やIoT活用の注目企業として、セミナーや講演に引っ張りだことなっている。  2017年4月27日、東京都内で開催された「ガートナー ITインフラストラクチャ & データセンター サミット 2017」の基調講演に登壇した木村氏は、「町工場でも成果の出せるIoT」と題し、旭鉄工のIoTシステムを紹介するとともに、同社設立に至るまでの経緯を披露した。 旭鉄工 代表取締役社長 兼 i Smart Technologies 代表取締役社長でCEOを務める木村哲也氏 旭鉄工 代表取締役社長 兼 i Smart Technologies 代表取締役社長でCEOを務める木村哲也氏  「今、このスマートフォンで、愛知県の工場にあるラインの稼働状況がほぼリアルタイムで分かるんです。このシステムで3億円以上の設備投資削減と、1億円以上の労務費低減に成功しました」  講演冒頭、木村氏は壇上で、自分のスマホに刻々と表示される工場内の稼働状況グラフを披露した。  IoTシステムを自社開発したきっかけは2014年、取引先(トヨタ自動車)からの増産要請だった。生産性を向上させるには、ラインごとの生産予定数と実績数を表示する「生産管理板」を導入し、改善サイクルを回す必要があった。  「当時は生産数の記入や停止時間の記入は手書きで行っていました。そのため、正確な数値や稼働状況の把握は難しかったのです。また、記入漏れなどもあり、生産管理板の数値は誤差だらけでした」。システムの説明に登壇した旭鉄工社員で i Smart Technologies執行役員兼任最高執行責任者(COO)を務める黒川龍二氏は、生産管理板にまつわる当時の課題を振り返る。 旭鉄工の社員で、i Smart Technologies 執行役員 兼 COOを務める黒川龍二氏 旭鉄工の社員で、i Smart Technologies 執行役員 兼 COOを務める黒川龍二氏  そこで、木村社長が目を付けたのがIoTだ。IoTシステムを導入し、「生産実績と停止時間の把握を自動化し、改善に役立てる」との方針を打ち出した。しかし、実際にIoT専用のシステムや製品を導入するには大規模な投資が必要だ。黒川氏は、「われわれのような規模の工場は、大がかりなIoT設備への投資は無理でした」と説明する。  さらに、大きな課題が立ちはだかった。それは、自社設備が“年代物”であることだ。ITソリューションベンダーが提供するIoTシステムは、古い施設には取り付けられない。「われわれには400程度の生産工程があり、設備数にすると数千台にも上っていました。そのうちの50%は20年以上、“昭和の設備”も10%程度稼働していたのです」(黒川氏)。 アキバで汎用パーツを調達し、試行錯誤しながら「稼働率モニタ」開発  お金は掛けずにシステムを構成したい――。行き着いた答えは、「汎用部品を使ってIoTシステムを自作する」だった。木村氏と黒川氏は東京・秋葉原のパーツ屋を巡ってセンサーなどを購入し、小型軽量ボードコンピュータの「Raspberry Pi」を使ってIoTをゼロから学んだ。「初期投資を安く抑えることが社長からの大命題。その結果、『データはクラウドで管理する』『汎用製品を使う』『工事費のかからない無線通信にする』ことを念頭に、IoTシステムを開発しました」と、黒川氏は語る。  そうして完成したのが、設備の稼働時間と停止時間をスマホから確認できる「稼働率モニタ」だ。設備に取付けたセンサー情報を送信機で集約し、インターネット経由でクラウドに格納。スマホやタブレットで参照する仕組みである。 旭鉄工のIoTシステムの特徴(出典:i Smart Technologies) 旭鉄工のIoTシステムの特徴(出典:i Smart Technologies)  とはいえ、稼働率を可視化しただけでは、業務改善サイクルは回せない。そこで、汎用モニタ(ディスプレイ)と無線LAN、さらにスピーカーを組み合わせ、設備の異常と稼働業況を可視化し、必要に応じてアラート音を上げる「iスマートあんどん」を開発した。ちなみに開発費は、「専門ベンダーが提供する価格の10分の1」(黒川氏)だったという。  iスマートあんどんの導入で、設備の異常をほぼリアルタイムに検知できるようになった。次に目指したのは、生産性の向上に向けた施策である。黒川氏は、「iスマートあんどんで、生産ラインの停止時間は削減できたが、生産個数は増加しませんでした。これを解決するためには、部品1つの生産時間(サイクルタイム)を把握する必要がありました。ライン稼働時間をサイクルタイムで割れば、生産数が把握できるからです」と説明する。  サイクルタイムを把握するため、完成部品が1つできるごとにパルス(電流)を発生させ、パルス数を記録するようにした。さらにパルスの発生したピッチを収集することで、生産時間データを取得した。これにより0.1秒単位で部品1個の生産時間を把握できるようになり、改善に役立てることが可能になったという。 生産率69%向上&増設投資1億4000万円の削減に成功  こうして収集/可視化されたデータは、改善サイクルを回すことに大いに役立っていると黒川氏は語る。「例えば、稼働率は85%だと信じていたが実際は70%だったり、サイクルタイムが作業工程機器のメンテナンス不備で長くなっていたりといったことが判明しました」(同氏)。  こうした課題を1つずつ改善することで、生産性は大幅に改善した。例えば、牽引フック(車載部品の一部)の切削工程で、サイクルタイムを9秒短縮したことで、1時間あたりの生産個数は107個から180個へと増加し、生産率を69%向上させた。これにより、当初予定していた2ラインの増設投資1億4000万円を削減できたという。  成功要因の1つとして黒川氏が挙げるのは、「取得するデータの種類を欲張らなかったこと」だ。「生産性向上を目的に絞ったため、生産状況(個数)/停止時刻・時間/サイクルタイムの3種類しか取得していません。目的が明確であれば、データの種類は必要ないのです。データの種類を絞ったことで、低消費電力なシステムが実現し、現場からも(シンプルで)見やすく使いやすいと好評です」(黒川氏)。  なお、現在利用しているシステムは、レッドハットと協業して開発を進めたという。その理由について黒川氏は、「レッドハットの人が素人の質問にも丁寧に回答してくれたこと、さらにDevOpsの考え方が、自社の開発スピードに合っていたこと」だと説明する。  「システム開発時にきちんと要件定義をするのではなく、トライ&エラーで開発を進められる環境が社風とマッチしていました。われわれはシステム開発に関しては素人集団です。実際、実施した施策の7割は失敗していますが、すぐに頭を切り替えて次の施策に着手できる環境に助けられました。また、開発したものをすぐに自社のラインで利用することで、迅速な開発が実現できたのです」(黒川氏) 生産性向上改善例(出典:i Smart Technologies) 生産性向上改善例(出典:i Smart Technologies)  「IoTの導入は『目的』ではなく『手段』です。日本の多くの中堅・小規模製造業は、生産性向上の余地は大きいと考えています」と木村氏は語る。  今後、i Smart Technologiesは「iスマートあんどん」の販売と同時に、中堅・小規模製造業の課題解決支援事業も手掛けていく方針だという。  「例えば、私や黒川が出向いて作業をすれば、一時的には課題解決になるでしょう。しかし、製造業の現場は、しばらくすると別の課題が出てきます。そのときに御客様自身で課題解決できるようになっていただきたい。一過性でない支援をするスキームを考案中です」(木村氏)  最後に同氏は、「AI(人工知能)が製造現場に入り込むことで、人間の仕事を奪うのではないかとの懸念が聞かれます。しかし、AIでできてしまう作業を人間が頑張ってもしょうがないのです。人間はAIができない付加価値の高い仕事をすればよいのです」と語り、講演を締めくくった。 ■関連サイト 旭鉄工 i Smart Technologies ガートナー

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