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「魔法のよう」――pixivがお絵描きサービスにAI自動着色を取り入れた理由

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2017/06/30
「魔法のよう」――pixivがお絵描きサービスにAI自動着色を取り入れた理由: ピクシブのお絵描きサービス「pixiv Sketch」。最新の機能「pixiv Sketch LIVE」は画面キャプチャーやWebカメラで自分の作業をライブ配信できる © ITmedia NEWS 提供 ピクシブのお絵描きサービス「pixiv Sketch」。最新の機能「pixiv Sketch LIVE」は画面キャプチャーやWebカメラで自分の作業をライブ配信できる

 デジタル絵に関心があって、イラスト投稿プラットフォーム「pixiv」を知らない人は今やほとんどいないだろう。2007年にスタートしたpixivは、翌年には月間4億PVに。10周年を迎える17年現在、会員数2300万人、月間26億PV(2月時点)の巨大サービスに成長している。

 しかし、そんなpixivも近年ある問題を抱えていた――「ユーザーの作品投稿頻度が落ちていた」(清水智雄 プロダクトマネージャー)

 これを打開するために、彼らが始めたのがお絵描きサービス「pixiv Sketch」。簡単に言えばWebブラウザやスマホアプリ上でイラストを描いて共有できるサービスだが、そこにはAI(人工知能)による“魔法”も隠されている。

●「pixiv Sketch」とは何か

 2015年に始まったpixiv Sketchは、Webブラウザやアプリ上でイラストを描いて投稿し、ユーザー同士でコメントを付けたりできるもの。ピクシブは同サービスを「コミュニケーションプラットフォーム」と位置付けている。

 pixiv本体に絵を投稿する機能もあるが、基本的にはpixiv Sketch内でサービスが完結する。pixivへの機能追加ではなく、新サービスとしてpixiv Sketchを立ち上げたのはなぜか。仕掛け人である清水さんはこう振り返る。

 「きっかけは開発当時、pixivへの作品の投稿頻度が落ちている問題があったことです」

●全てはハードルを下げるため

 pixivはもともと、同人作家のプログラマーが身近なニーズから立ち上げたサービス。スタート当初はラフ程度の落書きから自信作までさまざまな完成度の作品がユーザーから投稿されていたが、徐々に投稿作品が自信作ばかりに偏ってきたという。pixivアカウントをポートフォリオのように使うユーザーが増えてきたため、ラフスケッチをアップするのは気が引けると思われているのでは――と清水さんは分析する。

 「ラフスケッチでも、お蔵入りさせてしまうのはもったいない。それでも見たいユーザーはいるし、見せてリアクションをもらうことが次の創作にもつながるはず。創作活動をサポートしたい私たちとしては、ラフな作品でも気軽に投稿できる場所をpixiv以外に用意する必要があるのではないかと考えた」

 自信作だけではなく、練習作品、教科書の片隅の落書きでも投稿してもらいたい、お蔵入りさせるよりも、人に見てもらって次の創作につなげてほしい――こんな清水さんの思いを形にしたのがpixiv Sketchだ。

 「私たちは『ハードル』を下げたいんです」。清水さんとともにpixiv Sketchを手掛けた川田寛エンジニアリングマネージャーは言う。

 「例えば、『SAI』というペイントソフトは絵を描く人から多く支持を集めて、プロでも使うくらいになっている。支持される理由はいろいろあると思うが、個人的には描画線の補正機能が画期的だったのではないかと。思い通りの線って、描くのが難しいじゃないですか。本来は何度も練習しないと書けない。でもそれって『創作』とは別の仕事。『線の練習』というハードルが創作の前に立ちはだかっている。SAIが支持されたのは、そのハードルを下げたからではないか」(川田さん)

 「デジタルだからこそすっ飛ばせることって結構あると思う。初心者が専門性を獲得する前にくじけてしまうようなことでも、デジタルならなくせるものもある」(川田さん)

 初心者が専門性を獲得する前にくじけてしまうこと。絵描きにとっては「着色」もその1つだ。そこでpixiv Sketchは17年5月、他のイラストソフトに先駆けた機能を搭載した。それが「AI自動着色機能」だ。

 17年1月、「PaintsChainer」という自動着色アプリが話題になった。「Chainer」という有名な深層学習プラットフォームを開発する、Preffered Networksのエンジニア米辻泰山(たいざん、@tai2an)さんが開発したアプリだ。線画をPaintsChainerに通すと、色を指定しなくても肌の部分は肌色に、髪や服もそれぞれ適した色に自動で塗ってくれる。線画の中に色を置いておくことで、AIに着色のヒントを与えることもできる。

 この自動着色機能を、pixiv Sketchでも使えるようにしたのだ。

 「今まで線画まで描いて『人に見せるほどでは』とお蔵入りさせていた人も、そのイラストにAIで自動着色すれば『これなら投稿してもいいかも』と思ってくれるのでは。それで他の人からリアクションをもらって、新しい絵のモチベーションにつなげたり、『次は自分で塗ってみようかな』と思ったり……。AI自動着色は、きっかけを増やすのに良い影響があるんじゃないかと考えている」(清水さん)

 取材を終えてから、記者も実際にpixiv SketchのAI自動着色を試してみた。描いた絵をお見せするのは大変お恥ずかしいが、確かに髪色に少しヒントを与えるだけで線画に良い感じに色を乗せることができた。瞳や口は色を指定していないのに、きちんとそれらしい色が入っている。この塗りを下地として絵を仕上げるのもありだろう。線画から塗りまでのハードルは、間違いなく下がっていることを実感した。

●AIは創作に関わる人を増やす

 米Google傘下のDeepMindが開発する囲碁AI「AlphaGo」が、世界レーティング1位のプロ棋士に完全勝利したように、AIにとって従来難しいとされてきたタスクで目覚ましい成果を挙げるケースが生まれている。

 こうしたAIの発達で危惧されているのが、「AIが人の仕事を奪うのではないか」ということだ。実際、pixiv Sketchの自動着色機能も、人間にしかできなかった「色塗り」という仕事をAIが代替している。

 だが、川田さんはAIをサービスに取り入れた側としてこう話す。

 「私たちは逆だと思っている。AIは、人間の仕事をむしろ増やすのではないか」

 清水さんも続ける。

 「AIが現れる前、例えば50年前と比べても、今の私たちの生活環境は格段に便利になっているはず。しかし、みんな今も仕事をしているし、仕事も楽になっていない。つまりそういうことで、AIがいろいろなことをやってくれるようになる分、人は別の仕事に携わるようになると思う」

 「われわれが導入したAI自動着色も、投稿までのハードルを下げて、創作に関わる人を増やすのが目的。さらに創作活動に関して言えば、どんなにAIが発達しても人の『創りたい』という気持ちと『創作物を見たい』という気持ちはなくならない。創作分野では今後も人が関わり続けるのでは」(清水さん)

 AIは人に取って代わるものではなく、人がある目的を達するまでにいくつもある困難を越えていくアシストをしてくれるものになるだろう――というのが川田さんと清水さんの共通意見だ。

 「AIによって、ある分野に関わる人が増えれば、そこにそれだけ仕事が生まれるはず。だから『AIが仕事を奪う』というよりも、『AIが仕事を増やす』と言ったほうが、少なくとも創作分野では適していると思う」(川田さん)

 「自動着色は魔法みたいという声もあるが、プログラミングってもともと魔法に近いんじゃないかなと。それにしても、やっぱりAIで得られる結果は本当に魔法のような結果が得られるので、もっといろんな魔法を錬成……もとい、実装していきたい」(清水さん)

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