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「eSIM」とMVNOの関係

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2017/08/29
「eSIM」とMVNOの関係: NTTドコモの「eSIM」(写真は「dtab d-01J」に付属するもの) © ITmedia Mobile 提供 NTTドコモの「eSIM」(写真は「dtab d-01J」に付属するもの)

 スマートフォンや携帯電話、モバイルルーターなどに取り付ける「SIMカード」。MVNOと合わせて話題になることも多く、現在では少なくない人がその存在を認知していると思います。

 一方、最近のニュースでは「eSIM」という言葉を見かけることも増えています。「eSIM」とは一体なんなのでしょうか。

●複数の意味がある「eSIM」

 いわゆる「格安スマホ」に興味がある方であれば、スマホの中でSIMカードがどんな役割を果たしているかをご存じの人も多いと思います。SIMカードには、「MSISDN(電話番号)」や「IMSI(15桁の個別認識番号)」など、いくつかの情報が保存されていて、これらの情報が携帯電話網の中で「スマホを使っているのかが誰か」「通信に利用できるネットワーク(携帯電話会社)はどれか」などの判別に使われています。そのため、スマホに取り付けたSIMカードを交換することで、電話番号を含めた通信契約を切り替えたり、通信に利用するネットワーク自体を変更したりすることができます。基本的な機能はeSIMであっても違いはありません。

 eSIMの「e」は「embedded」、日本語でいうところの「組み込み」の略です。「組み込み」は家電や産業機器などの内部でコントローラーとして使われるコンピュータ、あるいはその周辺部品のことを指すことが多いようです。例えば「電子レンジのボタンを押したときに動くコンピュータ」や「工場のラインに設置された機器の制御装置」などを思い浮かべてみると良いでしょう。

 「Embedded SIM」ことeSIMも、大まかにはこうした組み込み分野で使われるものですが、実際にはもう少し広い意味合いを持っているようです。実際にeSIMについて取り上げているニュースや文献を読んでいると、単語自体も文脈に応じて異なる意味で使われているうことがあるのです。

意味1:組み込み用の「チップ型SIM」

 1つは、まさしく「『組み込み』のためのSIM」という意味でのeSIMです。

 従来のSIMカードは「標準」「micro」「nano」というサイズ違いはあっても、いずれもプラスチックの板にICを埋め込み、表面に金属の接点を設けた形状です。これを通信機器に取り付けるためには、SIMカードを保持するための何らかのソケットと接点を設置する必要があります。

 しかし、組み込み用途ではいつもこのような方法がとれるとは限りません。組み込み用途において、コンピュータや通信機器はあくまで周辺要素。通信機器のために利用できるスペースが極めて限られることも良くあります。nano SIMであっても、部品としては“大きすぎる”ということも考えられます。

 また、ソケットでプラスチックカードを固定しなければならないこともデメリットです。激しい振動を受ける環境下で使う機器では、その振動がソケットや接点の接触不良を誘発し、トラブルの原因になる可能性があります。また、高温度・高湿度環境下で使う機器では、ソケットや接点はもちろん、SIMカード自体がそのような環境に耐えられるのかという懸念も生じます。

 そこで、組み込み用途のために考えられたのが「チップ型SIM」です。狭いスペースでも設置できるように、小型のパッケージ(チップ)の中にSIMカードの機能が封入されています。後で交換することは想定しておらず、マイコン(小型CPU)などと同様にチップを基板に直接取り付けます。

意味2:リモートプロビジョニングできるSIM

 「eSIM」のもう1つの意味は、「リモートSIMプロビジョニングできるSIM」です。

 以前この連載の記事で、SIMを利用可能にするためには「プロビジョニング」という作業が必要だということを紹介しました。プロビジョニングを行うことにより、SIMカードにMSISDNをはじめとするIDや、携帯電話網に接続するための暗号化鍵が記録され、携帯電話に挿して通信できるようになります。

 一般的なSIMカードでは、キャリアのシステムと接続されたプロビジョニング装置にカードを取り付けてプロビジョニング作業を行います。それに対し、携帯電話網を経由してプロビジョニングを行うことを「リモートSIMプロビジョニング(RSP)」と言います。無線を経由するという意味で「OTA(Over The Air)」と呼ぶこともあります。

 RSPが通常のプロビジョニングと大きく異なる点は、スマホなどの通信機器を使ってプロビジョニングを行うことにあります(※)。専用機器が不要なため、携帯電話会社の店舗やセンターだけではなく、利用者の手元でもプロビジョニングができるようになります。また、一度プロビジョニングをして利用開始したSIMについても、同様に利用者の手元で再プロビジョニング可能です。

※もちろん、通信機器がリモートSIMプロビジョニングに対応している必要があります

 RSPによるメリットは2点考えられます。1つは≪SIMカードの出荷段階で通信に利用するネットワーク(携帯電話会社)を決めなくても良いこと。もう1つは利用者の手元で任意のタイミングで利用するネットワークを切り替えられることです。利用するネットワークを切り替えることで、料金体系が全く異なる通信サービスを切り替えて利用したり、別の国に通信機器を持ち込んだ場合に、現地で最適な通信サービスに切り替えられるようになるのです。

 RSPに類似するSIMのリモート書き換え技術は、既に実際の環境で利用されています。

 例えば、一部のiPadで使える「Apple SIM」がそれに当たります。Apple SIMではiPad上から複数のネットワーク(キャリア)を切り替えて使うことができますが、切り替えの際にSIMき記録されたIDが携帯電話網経由で書き換えられていることが知られています。

 また意外かもしれませんが、当日契約可能なMVNOサービスのカウンターでも、このようなSIMの書き換え技術が使われていることがあります。実は、一部のカウンターではプロビジョニング装置の代わりにスマホを用いてプロビジョニングしているのです。新規契約やMNP転入を受け付ける際に、カウンターに在庫しているSIMカードをプロビジョニング用スマホに取り付けて、携帯電話網から端末に信号を送ることでプロビジョニングが実行される、という手順となっています。

 従来の環境で使われているこれらの技術は、いくつかの団体によって規格化されています。規格によって詳細な仕組みは異なりますが、いずれもSIMに書かれた一部の情報をSIMに直接アクセスすることなく書き換えるという機能を持っています。

 一方eSIMでは、携帯電話システムに関する世界的な業界団体「GSMA(GSM Assosiation)」で制定されたRSP規格を用います。この規格では、従来型SIMのデータそのものに当たる「eUICC(Embedded UICC)」を携帯電話網を通じてダウンロードしたり切り替えたりする機能を実現しています。

 ここまで、異なる技術要素である「チップ型SIM」と「RSP可能なSIM」を紹介しました。「eSIM」という言葉は、これらのどちらか、あるいは両方を指している場合があります。より厳密に考えるなら、eSIMは「GSMA標準のRSPに対応したカード型・チップ型のSIM」を指すと考えるべきかもしれませんが、実際には他のSIM書き換え技術やRSP非対応のチップ型SIMのことを「eSIM」と呼ぶ場合もありますので、適宜文脈から読み取る必要があります。

●MVNOのeSIM導入のシナリオ

 最後に、日本のMVNOがeSIMを導入する際にどのようなシナリオがあり得るか、考えてみたいと思います。

シナリオ1:大手キャリアが提供するeSIMプラットフォームを利用

 考えられるシナリオの1つ目は、大手キャリアが提供するeSIMプラットフォームをMVNOでも利用できるようにすることです。

 例えばNTTドコモでは、2014年6月にM2M(組み込み用)のeSIMの提供を、2017年2月にコンシューマー機器向けのeSIMプラットフォームの提供を開始したことを発表しています。

 現在、これらのeSIMプラットフォームはMVNO向けには公開されていません。しかし、MVNOにも開放された場合には、MVNOも大手キャリアのプラットフォームを利用してeSIMを提供できるようになるかもしれません。

 その場合、利用可能なチップ型SIMの種類はキャリアが決めることになります。また、RSPを使ってSIMのデータを書き換えることで使えるネットワークは「キャリア自身」と「キャリアが指定する事業者」のみになると考えられます。MVNOにとっては導入のハードルが低いというメリットはありますが、キャリアが開放する範囲を超えたサービスは提供できないという制限があります。

シナリオ2: MVNOが独自にeSIMプラットフォームを用意する

 もう1つのシナリオは、MVNOが独自にeSIMプラットフォームを持つか、MVNOと他の携帯電話事業者が共同でeSIMプラットフォームを持つというシナリオです。

 このシナリオではMVNOは独自に調達したチップ型SIMを提供できる上、利用可能なネットワークもMVNOがアレンジできます。MVNOが主導権を持ってeSIMに取り組むためには、このシナリオが適しているといえます。

 ただし、このシナリオを実現するためには、RSPの信号を送る設備だけではなく、契約者の管理を行う「HLR/HSS」と呼ばれる装置にも対応が必要です。

 SIMのプロビジョニングでは、SIMに各種情報を書き込むと同時に、対応する情報をHLR/HSSにも登録する必要があります。また、RSPにおいても同様に、対応する情報をHLR/HSSにも登録しなければなりません。

 現在、日本のMVNOはHLR/HSSを大手キャリアに依存する「ライトMVNO」という形態を取っており、MVNOが独自にHLR/HSSに情報を登録することはできません。MVNOがHLR/HSSを保有する「フルMVNO」は、この制約を回避するための1つの方法になるでしょう。

●著者プロフィール

堂前清隆

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長

「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。

・Twitterアカウント @IIJ_doumae

・IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」 http://techlog.iij.ad.jp/

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