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「Flash」終了、何を思う? あるゲームクリエイターの視点

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2017/09/04
Flash終了、何を思う? あるゲームクリエイターの視点: マテリアルスナイパー。「人間以外を撃つ」というテーマのもとに制作した、的や爆弾を狙い撃つガンシューティング。画面左下のキャラクターが「スナ子」 © ITmedia NEWS 提供 マテリアルスナイパー。「人間以外を撃つ」というテーマのもとに制作した、的や爆弾を狙い撃つガンシューティング。画面左下のキャラクターが「スナ子」

 「懐かしい」「時間を忘れて遊んだ」――8月中旬、とあるゲームがネット上で注目を集めた。戦艦を駆り砲音を轟かせる「艦砲射撃」と、美少女スナイパーがスコープ越しに狙撃する「マテリアルスナイパー」。どちらも2000年代のFlashゲームだ。

 制作者は、個人ゲームクリエイターのTANAKA Uさん。Twitterで「フォロワーが増えたので」と自己紹介ついでに過去作品のプレイ動画を投稿したところ、「貴殿の作品だったのですか」「やり込んでいました」「神ゲーをありがとう」などのコメントが相次いだ。

 「ネットユーザーの皆さんは、意外にも作品と作者が一致していなかったみたいで」と笑うTANAKA UさんのWebサイトは、最盛期の頃は1日あたり数十万PV(ページビュー)以上のアクセスがあったという。10年以上前のゲームにTwitter上でこれだけ反応があることからも、当時の熱狂ぶりが想像できる。

 そんな一時代を築いた「Flash」だが、2020年末に終わりを迎える。開発元の米Adobe Systemsが7月末、2020年に「Flash Player」の開発・提供を終了すると発表した。TANAKA Uさんの視点で、Flashゲームが歩んだ十数年を追った。

●「更新しました」の楽しさ

 「衝撃だった」――03年、TANAKA Uさんは専門学生だった。きっかけは、先輩が制作したFlashゲーム。「俺のPCにも入っている『Flash 5』でこんなゲームが作れるのか」。衝動に駆られて、TANAKA UさんもFlashゲームの大量生産を始めた。完成まで至る作品は少なかったが、アイデアは尽きなかった。

 艦砲射撃もその1つだった。戦艦を「←」「→」キーで操舵し、敵艦の弾幕を回避しながら狙い撃つ――そんなシューティングゲームが、当時のユーザーの心をつかんだ。

 ポイントは「育成要素」を取り入れたこと。04年春、制作ツール「Macromedia Flash MX」のアップデートで、Flash PlayerがユーザーPCのローカル環境にデータを保存する機能(SharedObject)が加わった。Flashゲームを遊ぶのを途中で止めても、データを引き継いで再開できる、いわば「セーブ機能」だ。

 早速、艦砲射撃に新要素を追加した。ステージをクリアするとポイントがたまり、そのポイントで兵装を購入して戦艦を強化していく「育成ゲーム」に変わった。セーブ機能を搭載したことで、1度プレイしたユーザーが、何度もサイトに足を運んでくれるようになった。

 サイト内のBBSには、感想や要望が毎日書き込まれた。次の日には反映するくらいの勢いで開発に励み、「更新しました」と報告するのが楽しかった。Flashに新しい機能が追加されるたびにこう思った。「これを使えば新しいことができるじゃん」

●「コンプレックスがあった」

 TANAKA Uさんにはコンプレックスがあった。絵を描くのが苦手だった。それでも「俺が描いた絵を見てほしい」。相反する思いがあった。

 Flashはそんなコンプレックスを除いてくれた。Flashではキャラクターの絵を1枚描き、手や足、首などのパーツごとに分割して動かせる。同じキャラの絵を複数枚描くと“別人”になってしまったが、1枚だけ、しかも動きを付けると「かわいく見えた」。

 09年に公開した「マテリアルスナイパー」(マテスナ)のヒロイン、スナ子はこうして生まれた。1枚のイラストを必死に描けば永久に使い回せると分かり、「Flash、最高」と思えた。マテスナを遊ぶユーザーは、1時間、5時間、10時間……と、スナ子と時間を共にする。BBSでは「スナ子かわいい」と評判だった。

 ただ、マテスナは「ステージ3.5」から先は未実装。完結しなかった。

 TANAKA Uさんには、作りかけの作品が多い。ゲームの中核となる部分(ルール、操作など)が「面白い」と思えるまでは妥協しない。しかし面白さに確信が得られると、残るのは大量の素材を用意する“肉付け”の作業だけ。そこで立ち止まり、満足してしまう。

 Flashゲームは、衝動が噴出したときに作るものだった。衝動の初速が保たれている間は快感が続く。中核が完成すると満たされる。そんな存在でもあった。

●「バブルが来た」

 マテスナを制作していた09年ごろ、勤めていたバンダイナムコエンターテインメント(06年入社)を辞めた。03年に開設した自分のサイトは、気付けば累計約2億PVに達していた。鬱気味だったこともあり、フリーランスのゲームクリエイターになると決意した。根拠なき自信が後押しした。

 転身直後はブラウザゲームを制作していたが、間もなく「ソーシャルゲーム」(ソシャゲ)ブームが到来した。グリー、モバゲータウン(現Mobage)が台頭し、ソシャゲ制作の仕事が続々と舞い込んできた。

 当時のそうしたソシャゲは、「Flash Lite 1.1」という携帯電話向けのFlash Playerで動くように作られていた。Flash Lite 1.1は、1998年リリースのFlash 4と同等の仕様で、当時からしても「ほぼ化石といっていいほど」の技術だった。

 ガラケー自体の制約も大きく、「容量が100キロバイトまで」「描画が極めて低速」「使えるスクリプトが少ない」など、できることが限られていた。技術が“逆戻り”する中で対応できるクリエイターは少なかった。TANAKA Uさんが学生時代から積み重ねた、Flashゲーム制作の知識が生きた。

 「ソシャゲ祭りだ。バブルが来た」。グリーやモバゲータウンのヒットを受け、異業種さえ、次々にソシャゲ事業に参入する事態で、TANAKA Uさんの仕事は「無限にあった」。過労のため、その後約1年間、また鬱状態になるほどだった。

●稼ぎ頭に変わりはない

 12〜13年ごろ、スマートフォンが本格的に台頭し始めると、グリーやモバゲーのソシャゲもスマホ対応が必要になった。

 10年には、米Appleのスティーブ・ジョブズCEO(当時)が「Flashはクローズドでセキュリティ上の問題も多い」と批判し、iPhoneでの採用をやめるなどしていたが、そんな状況下でも代替手段はあった。Flash Liteをjavascriptに変換し、スマホ上で再生できるようにする「ExGame」というツールだ。

 「Flashは終わりだ」――Flashを使ってWebサイトを制作する業界ではそんな声もあった。だが、ExGameのようなツールが存在し、ソシャゲ業界に“べったり”だったTANAKA Uさんは、ほぼ影響はなかった。需要は健在だった。

 以後、ソシャゲ業界のFlash需要は徐々に減っていったが、いまでもFlashを使う場面はある。キャラの動き、アイテム獲得演出などを検討するとき、Flashでプロトタイプを作る。試作段階では、開発中のゲーム上でリトライを繰り返すより、比較的編集しやすいFlashを使い、修正しながら検討するのが効率がいい。場合によっては、変換ツールを使ってアプリにそのまま実装することもある。

 一方、96年に「Macromedia Flash」として登場したFlash制作ツールは、すでにFlash以外の形式でも出力が可能に。15年には「Adobe Animate」と、Flashを冠しない名前に変わった。

 だからツール自体はいつまでも使える。“Flash”が稼ぎ頭であることは「今も昔も変わらない」。

●「マテスナ」再び

 ただ、すでにFlashで制作・公開した艦砲射撃、マテスナなどFlashゲームは、このままだと遊べなくなる。exeファイルでデータを配布し、ユーザーがローカルPCで遊べるようにしようか、それとも――TANAKA Uさんは思案する。

 「マテスナ、更新しないの?」――10年近くたった今も、ユーザーからはそんな要望が届く。実は、未完成ステージ案も、未実装キャラの設定資料も手元にはある。クラウドファンディングで資金を集め、リメーク作「マテリアルスナイパー2」としてリリースする計画も検討している。

 制作したFlashゲームの潮流は、プラットフォームを変え、いまも受け継がれている。

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