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『あなたのことはそれほど』は『逃げ恥』への強烈なカウンターだーー春ドラマ意欲作を読む

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/05/07 06:00 株式会社サイゾー
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 今期の新作ドラマは保守的な作品がほとんどの中に、いくつか意欲作が目立つ。 参考:劇団EXILE 鈴木伸之、体育会系男子の魅力! 『あなたのことはそれほど』不倫男役が憎めない理由  まずはフジテレビ。月9の『貴族探偵』と木10の『人は見た目が100パーセント』を見ているとキャスティングに力を入れていると思う。特に『人は~』でブルゾンちえみを起用するスピード感は流石だと思った。しかし、イケメン二人(with B)を従えて自信満々に振る舞う彼女に世間は喝采を送っているのに、リア充女子に劣等感を抱く女子モドキを演じさせている理由がわからない。渡辺直美に太っていることにコンプレックスを抱いている女性を演じさせて、ダイエットに挑戦するドラマを作るようなものである(今のフジテレビなら作りかねないのだが)。  どちらも演出に力が入っているのはわかるが、それが見事に空回りしている。特に『貴族探偵』はミステリーのお約束をいじって滑りまくった『神の舌を持つ男』(TBS系)の失敗から何も学んでいない。おそらく今のフジテレビは脚本家の作家性ではなく企画の面白さで勝負したいのだろう。しかし、その題材がミステリーとマニュアル型恋愛ドラマということ自体が古臭い。そんな中、金城一紀が脚本を担当する『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』は奮闘していると言えるが、設定に新味は感じられず、現時点では物足りない。  一方、日本テレビとTBSは、過去作の続編やリメイクといった焼き直しがほとんどだが、野心的な作品もわずかだが存在する。  日本テレビの水10の『母になる』は、同枠で放送されていた坂元裕二脚本の『Mother』と映画『八日目の蝉』にあった子どもを誘拐した女が偽の親子として逃避するという話を実の母親の立場から描いた作品。  亀梨和也と山下智久が共演する『ボク、運命の人です。』は、二人が12年前に共演した『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)と脚本の金子茂樹が書いた山下智久主演の『プロポーズ大作戦』のセルフリメイクに見える。  一方、『野ブタ。』の河野英裕がプロデュースする『フランケンシュタインの恋』は、スタッフの座組みから『妖怪人間ベム』にあった異形の存在の視点から人間を語るというモチーフをティム・バートン監督の『シザーハンズ』テイストのファンタジードラマとして描いた作品となっている。いずれも完成度の高い良く出来た作品だが、セルフリメイクによる保守性の方が際立って見えてしまう。  むしろ、注目すべきは深夜に放送されているバカリズム脚本の『架空OL日記』だろう。『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)や『黒い十人の女』(日本テレビ系)では、シュールなシチュエーションを生み出す発想力が注目されていたが、『架空OL日記』は、平凡な日常を淡々とスケッチしていく精密な生活描写にこそ、彼の本領があることがとてもよくわかる。おそらく前作の『住住』(日本テレビ系)で、何かを掴んだのだろう。バカリズムがOL役を演じていること以外は平凡な日常なのに、とてつもなく異常なことが起きているように見える問題作である。  TBSは、日曜劇場が警察版『半沢直樹』と言える『小さな巨人』、金曜ドラマが定番化している湊かなえ原作の『リバース』は、安定感があるが新味はない。対して、絶好調なのが火10だ。いくえみ綾の少女漫画をドラマ化した『あなたのことはそれほど』は、最近流行りの不倫を題材にした恋愛ドラマなのだが、波瑠が演じるヒロインの渡辺美都が不倫に至る動機が学生時代に好きだった人と再会したからというだけで、葛藤が一切ないまま、肉体関係を持ってしまう。  この枠のヒット作となった『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)がとりこぼした結婚と恋愛(あるいは性愛)の分離は可能か? という難題に関して、本作は容赦なく踏み込んだ結果、『逃げ恥』に対する強烈なカウンターとなっている。ちなみにチーフ演出は『逃げ恥』と同じ金子文紀。こういう作品を作れること自体が今の火10の勢いの証明だろう。  そしてテレビ朝日。刑事ドラマの続編モノばかりで保守的と揶揄されがちなテレ朝ドラマだが、そんなテレ朝から、巨匠・倉本聰が手掛ける『やすらぎの郷』という、今期一番攻めているドラマが出てきたことには、驚きと同時にある種の必然性を感じる。高齢者向けのドラマという発想自体は、視聴者の高齢化を考えれば、いつ生まれてもおかしくなかっただろう。しかし、そのために番組編成を変えて新設枠を作り昼帯の2クールドラマを始めたことは、大きな改革である。  2010年代の朝ドラ一人勝ちの状況に対して何の手も打てなかった民放ドラマがやっと対朝ドラシフトの帯ドラマを打ち出してきたのだ。内容面でも尖っていて、高齢化することを単純に嘆くのではなく、高齢化という状況を受け入れた上で、今までとは違う“若い老人像”を打ち出している。  新しいことをやろうとしているフジテレビが滑りまくる一方で、高齢者向けに寄せて保守性に居直るテレ朝から、こんな怪作が生まれるのだから、世の中わからないものである。(成馬零一)

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