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『この世界の片隅に』ドイツでの反応は? “KAWAII”を超えた日本アニメへの関心

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/02/02 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 ドイツ西部の都市ケルンで1月28日(現地時間)、『この世界の片隅に』(英題: IN THIS CORNER OF THE WORLD)が映画祭「AKIBA PASS FESTIVAL」のプログラムのひとつとして上映された。『この世界の片隅に』のドイツ国内上映は同映画祭が初めての機会。さらに、昨年11月に海外配給が決定してから世界に先駆けた日本国外上映となる。ドイツの観客はどのように観たのか、また上映作品として選ばれた理由を探りに現地を訪れた。 ■『君の名は。』にはないストーリーテリング  AKIBA PASS FESTIVALは、日本のアニメを専門としたドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)向けのウェブサイト「AKIBA PASS」を運営する「peppermint anime」(ペパーミント・アニメ)が主催。『この世界の片隅に』は日本のアニメ15作品と共に、1月21日のドイツ・ハンブルクを皮切りに、ベルリン、ケルンなどのドイツ8都市を巡り、2月11日のオーストリア・ウィーンでの最終日まで各都市の映画館を移動しながら上映されていく。  筆者が訪れたケルンでは、14のスクリーンを備える大型シネコンの1フロアが映画祭に充てられ、賑わいを見せていた。会場の一角ではコミックスやアニソンCD、Tシャツなどのグッズ販売コーナーが設けられ、買い物に勤しむ日本アニメや漫画ファンも多い。『この世界の片隅に』が上映されるには少し雰囲気が違うのでは…と思い、主催者代表でペパーミント・アニメのマーケティングマネージャーを務めるセバスティアン・ホーン氏に尋ねると、にやりと微笑んだ。  その理由は、『この世界の片隅に』上映前スクリーンの前に立ったホーン氏のあいさつに表れていた。「大ヒットの『君の名は。』を上映してほしいというリクエストが多いのは承知しています。だけどまずは、『この世界の片隅に』を観てほしい」――ねらいは、“脱・定番アニメ”だ。コスプレしたくなるようなキャラが登場せず、“KAWAII”でもないということだろうか。  「その通りです。私たちは、日本のアニメをバラエティ豊かに発信したいと思っています。『君の名は。』は、良くも悪くもアニメとしてのクラシカルな設定です。つまり、ラブストーリーがあり、大きな事件があり、ハッピーエンディングと捉えることができる。対象的に『この世界の片隅に』は淡々と細やかに描かれた物語が運び、その結末はハッピーエンドとは呼べない。ユニークで美しいアートスタイルも特徴的です。2016年10月の東京国際映画祭で『この世界の片隅に』を観た(ホーン氏と同じ会社に務める)弟が、すごく美しいと絶賛してたことが今回の上映のきっかけとなりました」 ■感情にうったえかける情景とテンポ  「ひとつの映画のためだけに来場するのは珍しい」とホーン氏が目を細める先には、列をなし入場待ちをする観客の姿があった。かくして上映された『この世界の片隅に』は、ドイツの観客の胸にも深く響いたようだ。「正直、涙をこらえるのに必死でした」と話すのは、ルス・ウルシュレーゲルさん。ウルシュレーゲルさんは、「すずの感情がシェアされて、家族に起こったことがよくわかりました。また海のウサギや色とりどりの爆弾が描かれたシーンは、ペイントとして素晴らしかった」と振り返った。  映画祭の特色から、もともと日本の文化に関心を持っていたり来日経験があったりする観客も多い。マーク・ゾンマーアイゼンさんは、「広島のパートは、実際に日本を訪れ博物館も行ったことがあるのでショックではなかった」とリアリティーを追求した映像にも落ち着いた様子で話し、「予告編を見て良さそうだと思ってはいたが期待以上。本当にきれいな映像にびっくりしました。物語の流れがゆっくりで、これまで見聞きしていた日本の家族の暮らし方を詳細に知ることができました」と分析した。  「日本の歴史物はこれまでも観てきた」と話すのは、トリスタン・カミンズさんとジェラディーン・シュミットさん。筆者が声をかけた時は、ちょうどふたりで感想を話し合っている最中だった。「大戦中、表舞台とならない庶民の暮らしではどんなことが起こっていたかを知ることができて、深く染みた。どんなに良くないことがあっても、希望を失わず幸せを見つけていく様子に心打たれた。悲惨な状況であってもあしたや明後日は訪れ、悲しんではいられないし生きていかなければならないということを実感しました」  会場の2割程度に日本人らしき観客がチラホラと見られたのも、ほかのアニメにはない光景だったかもしれない。村崎薫さんと能村悠里(のむらゆうり)さんは、カミンズさん、シュミットさんと連れ立って訪れたドイツの大学に留学中という大学院生。村崎さんは、「長崎出身の祖母から『これでやっとゆっくり寝られる』と思ったと聞かされていた玉音放送に対し、すずが怒っていたというのが印象的でした」と異国の地で日本の歴史に想いを馳せた。 ■座敷わらしは「トトロみたいなもの」  歴史としてあるいはアートとして――戦争が舞台のアニメにも関わらず、映画として肯定的に受け止められたというのは、“何があっても生きていかなければならない”という世界につうじる人間の根源的な生きようが描かれていたからなのかもしれない。  一方で否定的とまでは言わないが、ドイツの観客が違和感を覚えた点を強いて挙げるとしたら、すずを演じた“のん”の声だ。ドイツで映画は完全吹替えが一般的で、字幕は稀。多くの声優が活躍をするが、子ども向け映画以外では男女ともにダンディーめの声が多い。前出のゾンマーアイゼンさんは「すずが子供時代は全く問題なかったけれど、大きくなってからも子供っぽい声色でおかしいなと思った」と指摘する。ただし最終的には、「スローテンポなキャラクターにマッチしてたと言えるのかもしれないね」と納得していた。  また流石にハードルが高いだろうと座敷わらしの部分について何人かの観客に訪ねてみると、案の定正確な意味はわからず仕舞いだったようだ。筆者が説明を試みると、「(子供にしか見えない)トトロみたいなものだね」と納得する観客も。思うに、毛むくじゃらの人さらいの描写やワニと結婚する兄のイラストと同じ程度に、「不思議だけど想像力豊かなすずにあって不自然ではないこと」として受け入れられたようだ。日本の伝承文化に知らず知らずに触れる、いい機会となったかもしれない。(シュルテ柄沢 亜希)

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