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『べっぴんさん』が急激に面白くなった理由ーー“無時代感”と50年代アイテムのバランスから読む

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/02/05 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 2017年に入り、折り返し地点を過ぎた『べっぴんさん』が急激に面白くなってきた。昨年末までの前半では、主人公すみれの少女期から、結婚と出産、そして戦後の混乱期を自らの手で築き上げた仕事で生き抜いていく女性たちと、その家族の姿を中心に、もっぱら主人公たちが作り上げたベビー用品ブランド「キアリス」が軌道に乗るまでが描かれた。 参考:『べっぴんさん』、実年齢とのギャップが醍醐味に? 若手俳優アンサンブルへの期待  1月9日から始まった第15週目から、一気に昭和30年代中盤、高度経済成長期の真只中に転換し、物語は後半に差し掛かった。それでも、この時代を象徴する代表的なものが、電話で「キアリス」が引き受ける、当時の皇太子妃・美智子さまのご懐妊に伴う納品依頼を受ける一場面のみというのが実にスマートだ。少なくとも第17週目までは、いわゆる“三種の神器”さえひとつも登場していないのである。  もちろん、「キアリス」のモデルであろう子供服メーカーが皇室御用達になるという重要な歴史は避けては通れない。その部分だけ時代感が強く表出することになったが、主題として描かれる家族の物語と、女性の社会進出は、現代にも共通するよう無時代的に描かれているというわけだ。この全体的な“無時代感”と、その中で選び抜かれた50年代末らしいアイテムのバランス感覚が絶妙なのである。  それを特に象徴しているのは、主人公すみれの娘・さくらが高校生になり、通うようになるジャズ喫茶「ヨーソロー」だ。繁華街の雑居ビルの、はっきりとは描かれていないが、おそらく地下にあると思しきこの古風な空間は、当時の若者文化を代表するアイテムであり、重要な舞台だ。集う人々の大人びた雰囲気に、初めて飲む珈琲の味。大人への階段を昇る、まさにその一歩として効果的に登場していくあたり、現代っ子にとって理想的な作り方である。  そして各々の登場人物が、当時の若者ファッションを見事に着こなすのも後半の魅力のひとつだ。さくらが想いを寄せる若者・二郎を演じる林遣都は、ロカビリーファッションに身をまとい、とりわけクールにドラムを叩く。時期的にも、石原裕次郎が井上梅次監督の映画『嵐を呼ぶ男』でドラムを叩いていたことに影響されているに違いない。また、百田夏菜子の息子役である森永悠希の、太陽族に憧れているのだがイマイチ冴えないという雰囲気も、当時よく見かけた若者の姿だろう。  何と言っても、再び姿を現わすことを待ちわびていた、松下優也演じる栄輔が、ナイトクラブに登場した瞬間はこのドラマの後半における最初のハイライトだ。彼が社長を務めるファッションブランド「エイス」は、まさにアイビールックの火付け役というわけだ。戻ってきてからの栄輔は、やけに虚勢を張って高良健吾演じる潔に対峙する。その一方で、蓮佛美沙子演じるゆりと再会した時や、さくらと向き合うときには、戦後間も無い時分の面影が垣間見える。今後は彼の存在がひとつの鍵となっていくのだろうか。  後半部で、第二の主役となるのが、さくらを演じる井頭愛海だ。2012年の全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞に輝いた、現在15歳の彼女。2013年の映画『おしん』での演技デビューから、昨年秋のスペシャルドラマ『望郷』の一編を経て、今回の大抜擢となったわけだ。メインの活動としては同コンテスト出身者で構成されたアイドルグループ「X21」と、モデル業といったところか。  母親への反発と、開放的な世界への憧れ、そして年上の男性への淡い恋心を持つ思春期の少女の姿は、現代の若者と何ら変わりない姿であり、演技経験が浅くとも問題ないだろう。それでも、ひとりぼっちで学校の廊下のベンチに佇む場面で放つオーラは、台詞だけでは物語れない感情を巧みに表現している。これは彼女の素質があってこそのものだろう。  それにしても、芳根京子と井頭愛海は、どことなく雰囲気が似ている。とくに大きな涙袋を含めた目元と、笑った時の表情は、よく見つけてきたと何度思ってしまったことか。ふと思い返してみれば、芳根京子はこの「X21」の最年長メンバーの吉本実憂と『表参道高校合唱部!』で同級生を演じていた。今回は同じグループのメンバーと、母娘役ということになるわけだ。  本作が始まるまでは、芳根京子に母親役ができるのか少々不安な部分もあった。それでも、前半部で仕事に没頭しながら時折少女のようなあどけない表情を残し、ぎこちなくも着実に人の親になっていく演技からは、改めて彼女のポテンシャルの高さを感じられた。そして後半部ではこれまで以上に難しい、実年齢で4つしか変わらない井頭との親子役だ。  とはいえ、メインヒロインが実年齢に関係なく、幅広い年代を演じ分けるというのが、朝の連続テレビ小説の定番である。主人公・すみれが百貨店展示のテーマとして“女の一生”に向き合ったように、女優・芳根京子は演技としてのそれに向き合い、手探りで答えを探している最中なのだろう。 ■久保田和馬

映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。

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