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『カルテット』が描こうとする“夢と才能”の問題 坂元裕二は現代日本をどう切り取る?

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/18 株式会社サイゾー

 TBS系の火曜夜10時枠で、坂元裕二の新作ドラマ『カルテット』がはじまった。ドラマファンがもっとも注目する脚本家・坂元裕二の新作が見られるということと、松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生という旬の俳優が出演するため、放送前から注目が集まっていた作品だ。 参考:坂元裕二脚本『カルテット』に寄せる絶大な期待  第一ヴァイオリン奏者の巻真紀(松たか子)、第二ヴァイオリン奏者の別府司(松田龍平)、チェリストの世吹すずめ(満島ひかり)、ヴィオラ奏者の家森諭高(高橋一生)の4人の音楽家はカラオケボックスで偶然知り合い意気投合する。そして弦楽四重奏(カルテット)をやることになり、別府の祖父が所有する軽井沢の別荘で共同生活を送ることになるのだが、4人はそれぞれある秘密を抱えていた。  90年代には『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)、00年代には『わたしたちの教科書』(フジテレビ系)と、時代々々に応じた名作を世に送り出してきた坂元裕二だが、近年は、アダルトビデオを制作する大企業に乗っ取られた田舎町を舞台にした『モザイクジャパン』(WOWOW、2014年)、日本社会に蔓延する女性差別に立ち向かう女性たちの連帯を描いた『問題のあるレストラン』(フジテレビ系、2015年)、東日本大震災を間に挟んで描かれる若者の青春群像劇『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系、2016年)と、センセーショナルでスケールの大きな問題作が続いていた。  対して、『カルテット』は、4人の主要人物の関係性を中心に物語が紡がれていて、登場人物も少なく舞台も限定されている。過去の三作が持つ、なんとかして現代日本の輪郭をえぐりとろうというような切迫感はなく、松田龍平や高橋一生の持つ緩い空気感もあってか、一見すると力の抜けたコンパクトな作品に見える。しかし、それはあくまで表層的なことであり、気の利いた会話劇の節々からうかがえる登場人物の労働環境や過去のエピソードからは現代日本の空気がうかがえる。  個人的にツボに入ったのは4人が演奏することになるライブレストランで働く来杉有朱(吉岡里帆)が言った「私、元・地下アイドルなんですけど、しょっちゅう炎上してました」という台詞。「元・地下アイドル」という言葉の面白さもあるのだが、これが単なる思いつきの設定ではなく、カルテットの4人の境遇とリンクしたものであることが、わかってくると見ていて、だんだん恐ろしくなる。  物語は、実は世吹すずめが、巻の夫の母親から雇われた探偵的存在で、失踪した夫は、実は巻真紀に殺されたのではないかという疑惑が提示されて第一話は終了する。おそらく家森も別府も何かの秘密を抱えており、話が進むごとに全貌が明らかになっていくのではないかと思うのだが、そういったミステリー的な引きとは別に気になるのは、坂元裕二が描こうとしている“夢と才能の問題”だ。  ライブレストラン「ノクターン」が募集していた演奏家の枠に申しこもうとした4人だったが、すでに余命9ヶ月のピアニスト・ベンジャミン瀧田(イッセー尾形)が契約していた。「余命9ヶ月」という触れ込みが嘘だと知った巻は、店主にベンジャミン瀧田の正体を話して彼をクビにすることで、自分たちの仕事を獲得する。そのことに対して4人の間で不協和音が生じる中、巻は自分の気持ちを語る。 「私達アリとキリギリスのキリギリスじゃないですか。音楽で食べていきたいっていうけど、もう答え出てると思うんですよね。私達、好きなことで生きていける人になれなかったんです。仕事にできなかった人は決めなきゃいけないと思うんです。趣味にするかそれでも、まだ夢にするのか。趣味にできたアリは幸せだけど、夢にしちゃったキリギリスは泥沼で、ベンジャミンさんは夢の沼に沈んだキリギリスだったから嘘つくしかなかった。そしたらこっちだって、奪い取るしかなかったんじゃないですか?」  この台詞は、音楽に限らず、好きなことで食べていこうと思った人間なら、老若男女にかかわらず直面する現実だろう。謎が多く、先の展開が読めない作品だが、“夢の沼に沈んだキリギリス”たちがどのように生きればいいのかについて、格闘するようなドラマになってほしいと願っている。(成馬零一)

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