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『ケイゾク』形式はケイゾクできる? 『IQ246〜華麗なる事件簿〜』に見るキャラクタードラマの功罪

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/10/30 株式会社サイゾー
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■海外ドラマや人気サスペンスのパロディ満載だが、独自のテーマは?  ほぼ出そろった秋の連続ドラマ、テレビ朝日の2大看板シリーズ『ドクターX ~外科医・大門未知子~』、『相棒season15』を除くと、日曜劇場『IQ246〜華麗なる事件簿〜』(TBS)が初回視聴率13%で首位に。第2話も12.4%と好調だ。  このドラマは、主演の織田裕二が“天才的な頭脳を持つ貴族の末裔”である沙羅駆(しゃらく)というこれまでにない役柄に挑戰し、そのエキセントリックな演技で賛否両論を呼んだ。また、ネット上では、ディーン・フジオカが演じる執事がかっこよく、土屋太鳳が演じる沙羅駆の護衛係である刑事もかわいいという反応が多く、視聴者の萌えを呼び起こすキャラクタードラマとしてはまずまずの成功を収めている。  『IQ246』は、<法門寺 沙羅駆(ほうもんじ しゃらく)/織田裕二=シャーロック・ホームズ>や、<和藤 奏子(わとう そうこ)/土屋太鳳=ワトソン>など、キャラクターの名前からして明らかに『シャーロック・ホームズ』シリーズのパロディだ。名作や人気作のパロディ/パスティーシュ作品の中にも、ベネディクト・カンバーバッジが主演する英国のドラマ『SHERLOCK/シャーロック』など優れた作品は存在するが、このドラマに関しては、それでもどこかで見たような設定、場面が多く、まるで既存作品のパッチワークのようにしか見えない。原作を持たないオリジナルドラマの新作なのに、既視感に満ちているのだ。  本家コナン・ドイルの小説は、既に欧米でもパブリック・ドメインの扱いになっていて、著作権上、問題はないかもしれない。しかし、女性監察医の森本(中谷美紀)が沙羅駆にほれこみ、彼に頼まれると職務違反をしてでもその要望に応えようとするなど、『SHERLOCK―』の独自設定とも共通する点が多い。第2話で展開した薬物による自殺強要事件は、ドイルの小説『緋色の研究』より、『SHERLOCK―』の第1話「ピンク色の研究」と設定が近かった。ちなみにホームズの相棒ワトソンが女性に変更されているのも、アメリカのドラマ『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』と同じアレンジだ。コナン・ドイルの二次創作的作品である『SHERLOCK―』などをさらにパロディにするということは、ドラマの作り方としては安易だと言わざるをえない。  それならいっそ英国BBC局など権利元に許諾を取って、日本版『SHERLOCK―』と銘打ったほうがよかったのではないだろうか。日本のテレビ局ではこの数年で海外作品の日本版を作る動きが進み、今クールでも、ドイツのドラマを原作とする『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ)、ウクライナのドラマの日本版『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK)が放送されている。コンプライアンス意識は進んでいるはずなのだが、本作はそれに逆行するやり方とも言える。  他にも、『IQ246』には、日本の『相棒』や『古畑任三郎』の影響も色濃く出ていて、織田裕二の過去作品のパロディも満載だ。コントのようなドラマと割り切って見る分には良いのだろうが、何を描きたいのかテーマもビジョンも見えず、民放屈指の伝統枠である日曜劇場の作品としては物足りなく感じられる。おそらく本作の企画が通った背景には、同枠2月クールの『99.9-刑事専門弁護士-』がヒットしたということもあるだろう。「日曜の夜には、気軽に楽しめる作品を」という狙いは正解だと思うが、それでも『99.9』には刑事裁判の高すぎる裁判有罪率という問題提起もあった。『IQ246』には現実とリンクする何かがあるのだろうか。 ■『ケイゾク』方式は今も有効なのか? 織田裕二はそのフォーマットにハマっているのか?  もうひとつの要素として、『IQ246』が既視感に満ちているのは、TBSで断続的に作られてきたオフビートなサスペンスの路線にあるからだ。TBS植田博樹プロデューサー(以下、植田P)の制作とあって、植田Pが堤幸彦監督、脚本家の西荻弓絵と組んだ『ケイゾク』以来のテイストもふんだんに盛り込まれている。男女のコンビによる捜査もの、繰り返される小ネタとボケツッコミなどが共通。『ケイゾク』の中谷美紀が出演していることもあって、『ケイゾク』色が強く感じられる。  このオタク的でライトノベルにも通じる世界観には、最近まで固定ファンがいた。植田Pと堤監督、西荻が組んだ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(2010年)は、内容的にも『ケイゾク』の続編的作品。映画版も作られ、多くのファンに支持された。しかし、2015年に植田&堤コンビが制作した『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』、前クールの金曜ドラマ『神の舌を持つ男』は、両作とも視聴率が平均5%から6%台と振るわず、視聴者の盛り上がりも見えなくなってしまった。いったいこれまでと何が違うのか? と考えたとき、そこには明らかに脚本家・西荻弓絵の不在がある。西荻が植田&堤コンビから離れ、テレビ朝日で書いた『民王』シリーズがスマッシュヒットするのとは対照的に、このコンビの作品は視聴者の支持を得られなくなっているのだ。  そして今回、植田Pが制作した『IQ246』、そもそも主演の織田裕二はこの世界観にハマっているのだろうか。本作での演技で分かるとおり、織田裕二はその存在自体が良くも悪くも“異質な”人である。彼は代表作の『踊る大捜査線』シリーズにしても、近作の『連続ドラマW 株価暴落』などでも、窮屈な組織の中にいて硬直した状況を突破していく、そんな役どころが似合う。リアリティのある設定にいるからこそ、その異質な存在感が「この人ならこの状況をなんとかしてくれる」という期待感を生むのだ。そんな彼に「IQ246の天才で貴族の末裔」という始めから現実離れした異質な役をやらせても面白みは生まれないし、トゥーマッチに感じられてしまう。これは『相棒』の水谷豊にも言えることで、組織の中にいる教師役や刑事役なら魅力的だが、マッシュルームヘアのエキセントリックな天才作家を演じた映画『王妃の館』は不評だったという問題と通じるのかもしれない。  『神の舌を持つ男』は映画になり、『RANMARU 神の舌を持つ男 鬼灯デスロード編』として12月3日に公開されるが、ドラマが支持されなかった作品がどうして映画になるのか。そこには既定路線という思考停止や、制作陣の過去の成績による楽観的なマーケティングという甘さはないのか。さらには、そうしてベテランのスタッフが優遇される裏で、ドラマや映画を作りたい若手の機会が失われていないのか。そんなことまで心配になってしまうテレビ業界の現状が変わることを期待したい。(小田慶子)

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