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『スター・ウォーズ』公開40年、アメリカはどう変化した? サエキけんぞうの『ローグ・ワン』評

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/12/29 株式会社サイゾー
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 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は、前作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で「お?スター・ウォーズ、大人が見ても手応えありの内容になったじゃん!」と思った人にとって「さらに更新」との感慨をもたらしてくれる作品だ。  この作品、シリーズ全体の時系列の位置づけとしては「『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の直前に当たる物語」と、説明されている。「新たなる希望」なんてあったっけ?と思ったら1977年に公開された第一作目に最近は「エピソード4/新たなる希望」という副題がついていた。つまり紀元前を描いた作品ということだ。しかし約40年前の映画の内容をよく覚えてないという人でも、単独の作品として観ても十分に面白い。  40年間でアメリカは変わった。40年前はベトナム戦争が終わったばかりだった(1975年4月)。それが大きな傷跡を残したことは『プラトーン』などの映画でご存じな方も多いと思う。そうした歴史が”娯楽作品”に反映されるのにはさらに時間がかかる。今回のスター・ウォーズは、ハリウッドが40年間かかって、ベトナムでの体験がエンターテインメントに波及効果を与え、深みをもたらしたことが大人をシビれさせるポイントになっているのだ。  ベトナム戦争が終結した70年代は、女性が社会に台頭しているとは言いがたかった。『結婚しない女』という、夫に捨てられた主婦が夫以外の男と情事を経て自立する物語なんて作品がヒットしたのが1978年。隔世の感がある。女性がバリバリ闘う最初期のヒット作品は1986年に公開された『エイリアン2』あたりだろうか。それでも、80年代は女性が闘うことは、まだ珍しかった。スター・ウォーズは3作目『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの(復讐改め)帰還』が83年だったから、初期イメージは男社会の中で確立されたのだ。  しかし今作の主人公は、ついに女性のジン・アーソである。『エイリアン2』のシガニー・ウィーバーばりにバリバリ強いとかではなく、女性らしい内面が表現されている。それも「いわゆる女らしさ」にとどまらない。  彼女の育ての親、ソウ・ゲレラは、ジンに尋ねる。「銀河に帝国軍の旗が輝くのを、お前は我慢できるのか?」と。それは悪と闘うスター・ウォーズのテーマである。それに対してジンはなんと答えるか? 「見なければいい」  これにはシビれた。この切り返しは女性の生活感覚を鋭くとらえている。男子が同じセリフをはくならば、単なる利己主義と思われるだろう。しかし、様々な境遇を経た女性が懊悩を抱えながら吐く言葉としては、やけに納得できる。女性の状況把握は生活に根ざしている。「おマンマ稼ぐのにアタシャいっぱいいっぱいだよ、我慢もクソもないよ」って感じだろう。  そんなジンが、救い出した小さな子どももいたはずの街が壊滅していく様子を目の当たりにして、帝国軍と敵対する意志を持ち始めることになるという筋立ては、男の生理を超え、たとえ男尊女卑の男であっても、女性が主人公であるこの物語の中に取り込まれていくのを感じざるを得ないだろう。  『フォースの覚醒』に続く女性主人公の他に、もう一つの新しい要素は、かつてアメリカが敵対したベトコンを思わせるレジスタンスなど、アジア人の台頭である。これ、どうやって攻めるんだろう?勝てるの?と思わせる、絶望的闘いの始まりも、まさにゲリラの発動を思わせる。  帝国に屈しないとの意志表示を示す、そんな反乱軍のメンバーが、怪しくてふるっている。スパイ行為をしてきた人、生来任務につかされていた人、離反してきた人など、ヤバい人ばかり。矛盾の固まりである戦争の実態を見据えた設定だ。現実に前線に立ち、有効な働きを示す多くは、清濁あわせ飲む影を持つ男達なのだ。そもそも誰が「悪を決める?」という問題もある。日本のヤクザ映画や黒沢明の『七人の侍』も想起させる正義の相対性が物語に盛り込まれているのだ。  2000年代には開戦の大義名分、大量核兵器が見つからなかったイラク戦争によって、世界の警察アメリカの威信は大きく揺らぎ、戦争映画もここまで変わった。70年代の西部劇風スター・ウォーズとの大きな差が本作にはよく表れている。  アジア性を代表するキャラクターには、修行僧のように棒一本で闘う、香港のアクションスター、ドニー・イェンが演じるチアルートがいる。盲目という設定は、なかなかに大げさであるが、密教の秘術でも扱うかのように銃撃戦の中で落ち着いてふるまい、光線を避け、棒一本で敵をぶちのめし、信じられない技を繰り出す姿は、見ていて爽快である。シリーズの新機軸であり、今回の白眉といっていいだろう。  そして戦いのシーンも海辺やジャングルが突然の爆撃で戦地に変貌するところは、中東やベトナムを彷彿とさせ、思わずあのベトナム戦争映画の先駆『地獄の黙示録』のディレクターズカット版も彷彿とさせる混沌としたリアルさも備えている。戦闘シーンについては、演技を実況的に撮っていった手法や、大胆な撮り直しを行なわれたことなど、様々な苦心が伝わってきた。  先端の技術として感心させられるのは、タワーの上端などの俯瞰シーンで、背景となる遠景を異様なリアルさで映し込むテクニック。しかもそれが惜しげもなく瞬間的な描写だったりするので目が離せない。戦闘のクライマックスはまさにハリウッドならではの必見映像の秒刻みとなる。  それらの映像は、コンピュータグラフィックスによってもたらされている面が大だと思う。現実的な情景を描いている映画でのCG使用はどこか興ざめな部分があるが、スター・ウォーズのようなオトギ話的な物語では、CGが使われていることがマイナスにならない。どこかノスタルジックで寓話的な仕上がりがいい。その興奮が頂点に達するのはラストで、その崩壊情景は今まで味わったことのない規模感覚、深みを持っている。

 『オデッセイ』や日本の『シン・ゴジラ』などSF映画は、進化を止めないが、本作もそれらに負けず、新しい感慨をもたらしてくれる。ラストに現れる例の登場人物の美貌に「おお? どうやって元通りの顔に?」と驚いたままの頭で、1977年の第一作を続けて見たら、どんなタイムトリップが待っているのか楽しみである。(サエキけんぞう)

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