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『スモーク』製作総指揮・井関惺が語る、日本映画界への危機意識「中国行きの最終電車はもう出た」

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/12/17 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 『ジョイ・ラック・クラブ』『女が眠る時』のウェイン・ワン監督が1995年に発表した映画『スモーク』が、12月17日より『Smoke デジタルリマスター版』として劇場公開される。作家のポール・オースターがニューヨーク・タイムズに発表した短編小説『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』をもとに、作者自ら脚本を書き下ろし、ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハートらが出演した本作は、都会で暮らす男女それぞれの嘘と真実、過去と現在が交差する中で生まれた不思議な絆を描いた人間ドラマだ。リアルサウンド映画部では、本作の製作総指揮を務めた井関惺氏にインタビューを行い、製作当時の貴重なエピソードから、現在の日本映画界の課題についてまで、じっくりと語ってもらった。 参考:『君の名は。』エグゼクティブプロデューサーが語る、大ヒットの要因と東宝好調の秘訣 ■「客層を限定せずに宣伝したことがヒットに繋がった」 ーー21年前の公開当時、日本では恵比寿ガーデンシネマ1館だけで9万人を動員する大ヒットを記録しました。当時のヒットの理由をどう分析しますか? 井関:僕もそこまでヒットするとはまったく予想していなかったんですよ。公開当時は25週間にわたって半年以上も上映しましたから。当時のミニシアターブームもヒットの一因だとは思うのですが、宣伝手法が大きかった気がします。僕は過去に宣伝を担当したことがあり、宣伝のこともいろいろわかっていたので、余計な口出しは1番やってはいけないなと思っていました。ただ、最初にひとつだけ、宣伝担当の方に「年齢や性別で客層を決めつけないでくれ」ということを言ったんです。今もよく映画の宣伝で行われていることですが、年齢や性別で客層を限定してしまうのはよくないと思ったんです。F1層やM2層などではなく、今回は“スモーク層”を探し出してくれと。実際にそのような層がいたかはわかりませんが(笑)、最初から客層を限定せずに宣伝したことが、非常に効果的だったのではないかなと思います。 ーーそもそも当時、どのような経緯で本作の製作に携わることになったのですか? 井関:当時、僕はNDF(Nippon Film Development and Finance)という会社で、『ハワーズ・エンド』や『クライング・ゲーム』などの映画の製作をしていたのですが、ある日ユーロスペースの堀越謙三氏から、「ウェイン・ワンが企画を持ってきた。自分のところではどうにもならないから、話を聞いてくれないか?」と電話がかかってきたんです。それで会いに行ったら、ウェイン・ワンがニューヨーク・タイムズの1ページをビリビリと破いたようなものを持っていて、「これを映画にしたい。一緒にやらないか?」と言ってきたんです。それで作家の名前を見たら、ポール・オースターと書いてありました。僕はそれにひたすら興奮して、「やろう! やろう!」と見境なく言ってしまったんです。 ーー特に何も考えずに? 井関:そうなんです。堀越氏は呆れていましたよ(笑)。当時はそういう話をたくさんいただいていたのですが、ほとんどの場合はお断りしていました。NDFをやっていた約10年間に届いたシナリオや企画の数は5〜6000本。1日2件くらいのペースで、毎年500本ほどの企画が届いていたんです。その中で「やりましょう!」となる企画はほとんどない。しかもウェイン・ワンの提案は、シナリオでも企画書でもなく、ただの新聞の切り抜きで(笑)。 ーーポール・オースターの作品だったということが大きかったわけですね。 井関:当時、僕は一種の“ポール・オースター病”みたいなものにかかっていたほど彼の作品が大好きでした。それに、ウェインが才能のある監督だということはわかっていたので、2人を組み合わせれば、何か新しいものが確実に生まれるだろうと感じたんです。当たらないかもしれないけれど、一部の人にはすごく好かれる映画になるだろうなと。実は当初、短編『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』だけではなく、ポール・オースターのニューヨーク三部作のひとつ『幽霊たち』を組み合わせたストーリーになる予定だったんですが、尺がどうしても3時間とかになってしまった。でも彼は作家ですから、そう簡単に自分が作ったものを曲げない。そしたら、ロバート・アルトマンにシナリオを読んでもらう機会ができて、「長い」「2つの話をやるのは無理だ」ということを言われました。それがきっかけで、ポール・オースターはシナリオを書き直し、最終的にあの様な形になったんです。 ■「お金がない日本の映画界には人が集まらない」 ーー先ほど、本作のヒットの要因のひとつとしてミニシアターブームを挙げられていましたが、今はシネコン全盛期で、日本映画界を取り巻く環境も大きく変わっていますよね。現在の日本映画界をどう見ていますか? 井関:先日、中国を中心とした海外へ日本映画を輸出しようという政府による会合が行われたのですが、政府のやっていることなんて遅すぎると思ったんですよ。中国行きの最終電車はもう出ちゃいましたよ、と。それに、映画は政府の号令でやるものではない。おそらく、政府は中国と合作協定を結ぼうとしていると思うのですが、いま日本が合作協定を結んでいる国はカナダだけなんです。ほかの国とは結んだ試しがない。一方、お隣の韓国は10年前には中国に狙いを定めていて、役者や監督、資本家なども中国に行っているわけですよ。ところが、サード配置という国境を超えた中国と韓国の問題が起こってしまった。そのせいで、いま韓国人が中国の映画界から追放されてしまっているわけです。現在はその隙間が空いているので、日本も入り込める可能性が非常に大きい。だけど、日本にも尖閣諸島など、中国と対立する問題がたくさんあるからすぐ追い出されてしまいますよ。これは悪い意味ではなく、ハリウッドもそうですけど、みんな商売でやっているので文化交流なんて考えていないんです。もちろん結果的にそうなりますけどね。 ーー最近では、日本映画のガラパゴス化や資金面の問題など、是枝裕和監督が日本映画界に警鐘を鳴らすインタビューも話題になりました。 井関:それには僕もまったく同意見でした。是枝さんのおっしゃっている通りだと思います。映画監督だけではなくて映画プロデューサーにもお金が入ってきませんから。それは個人的に儲けようということではなく、お金がないところには魅力がないということなんです。魅力がないと、才能も集まらなくなってしまう。それは日本人に才能がないというわけではなく、漫画、音楽、ファッション、CMなどいろいろなところに才能は集まるけど、食っていけない状態が続いている映画界には残念ながら人が集まらないということなんです。だから個人的には、映画を当てて誰かひとりでも大金持ちになってくれればいいと思っています。そうすると、それをロールモデルにして、人が集まってくるようになるんじゃないですかね。変な言い方になりますけど、映画は勝負をして勝った人間が報われないというか、負けるケースが圧倒的に多いので。 ーーガラパゴス化というのも感じていますか? 井関:もう何10年も前からその通りですよね。ある特定の会社だけが食っていけて、どんどん肥大化しているわけですから、小さい会社はシェアを奪われてどんどん食っていけなくなる。『スモーク』公開当時にミニシアターブームがあったと言いましたが、その頃の配給会社の数って、せいぜい20社ぐらいだったんです。でも、この間調べたら、いま配給会社の数は200社を超えているんですよ。 ーーそんなに多いんですか? 井関:もちろん年に1本しかやらないような会社も含めてですけどね。それにしても多すぎると思います。僕は昔、シネマスクエアとうきゅうという、ミニシアターが注目されるようになったきっかけと言われる映画館の立ち上げの協力をしたのですが、始めるにあたって、当時ミニシアターの草分け的な存在だった岩波ホールの総支配人である高野悦子さんにご挨拶に行ったんです。そしたら、高野さんに「1日に3人しかお客さんが来ない日々が1年続きますが、我慢できますか?」と言われまして。我々もそういう時代を乗り越えながらようやくブームに乗ることができましたが、ブームに乗っかってたくさんのミニシアターができるわけですよ。すると、ミニシアター作品を配給する配給会社もどんどん出てきて、その配給会社から独立した人がまた新しい配給会社を立ち上げてどんどん増えていく。映画館が増えることによって邦画の数も増えていきますから、映画1本あたりの制作単価はどんどん下がっていくわけです。 ーーなるほど。 井関:先日、ジョリー・ロジャーという、1000万円以下で映画制作を引き受けることを売り物にしていた映画会社が倒産しましたが、1000万円以下というのは本当にスタッフはお金をもらえているのかというレベルなんです。実際、お金をもらえていなかった人もたくさんいたらしいですが。ですからそういう意味でもガラパゴス化というのは相当問題だと思います。でも、40年以上この業界で生きている僕らの責任というのもあるわけなんですよね。現状をちっとも変えることができなかった。いい歳して批判だけしているのもしょうがないので、本当に何とかしなければいけないなと。 ーー具体的にはどのような解決策があるのでしょうか? 井関:映画会社というよりも、サラリーマン会社の構造みたいなものが問題ですよね。その最大の原因である製作委員会方式をなくさないと、なかなか先に進めないんじゃないかと思います。ただあれはやっている人たちにとってはすごく居心地のいいシステムなので、なくなるとは到底思えない。だから製作委員会方式とは違った形で大儲けするような人が出てこないとなかなか難しいですよね。そういう意味では、21年前の『スモーク』なんかはすごくいい例だったと思いますよ。自分は今回のデジタルリマスター版の制作に携わっていませんが、21年ぶりにまたこうやって劇場で公開してもらえるのは嬉しいことですし、製作総指揮の立場としてもとてもありがたいなと。リアルタイムで観た人も、ソフトで観た人も、観たことがない人も、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。(宮川翔)

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