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『ハードコア』監督が語る、“一人称視点”アクションへの挑戦 「観ていて楽しい感覚を重視した」

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/03/31 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 全編を一人称視点で撮影したアクション映画『ハードコア』が4月1日より公開される。本作は、2015年にトロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門でプレミア上映され、ピープルズチョイス・ミッドナイトマッドネス賞を受賞しているアクション映画。事故で手足を失った主人公・ヘンリーは、妻と名乗る女性・エステルの手でサイボーグ化されている途中に謎の組織に襲撃されてしまう。その襲撃によって誘拐された妻を取り戻すべく、ヘンリーが超人的な身体能力を駆使して壮絶な戦いに身を投じる模様が描かれていく。  リアルサウンド映画部では、本作の監督を務めたイリヤ・ナイシュラー監督にインタビュー。FPSゲームと本作の関係性や革新的な撮影に挑戦した理由を語ってもらった。 参考:怪獣大戦争興行編! 『キングコング』はハリウッド版『ゴジラ』や『シン・ゴジラ』に勝ったのか? ーー鑑賞中は『コール オブ デューティ』や『バトルフィールド』など、近年話題を集めるFPSゲームをプレイしているような感覚がありました。FPSゲームから着想を得たのだと思いますが、映画とゲームの差別化はどのように意識しましたか? イリヤ・ナイシュラー監督(以下、ナイシュラー監督):もちろん、FPSゲームは僕もすごく好きだよ。そういったFPS作品からも非常に影響を受けているし、インスピレーションを取り入れながら撮影を進めていった。けど最大の違いは、ゲームと違って自分でコントロールできないところさ。自分が展開を握りながら進んでいくわけではなく、されるがままに、誘われるがままに、ただただヘンリーと一緒に冒険の道を行くという意味では、ゲームをプレイしている感覚とはまた違ってくると思うね。あとは当たり前のことだけど、CGIで作ったキャラではなく、生身の俳優たちが演じているので、その分エモーショナルというか、感情面がより豊かに感じられる表現が出来ているんだ。もちろんビデオゲーム好きにとっては非常にたまらない部分もあって、あっちこっちにFPS好きゲーマーが「あ!」と言うようなネタが散りばめられているから、それはそれでゲーマーの観客にとってはお楽しみのひとつかな。あえてここでネタバレにはしないから、ぜひ映画を観ながら見つけてほしいな。 ーーそもそも、なぜこのような作品を作ろうと? ナイシュラー監督:2013年の春頃に自分のバンドの「Bad Motherfucker」というミュージックビデオを撮ったことがきっかけなんだ。その時は映画にする計画はまったくなくて、単にミュージックビデオとして作っていただけなんだけど、それがたまたまYouTubeにアップしたら一気に火がついて(笑)。その2日後くらいには、(プロデューサーの)ティムール(ベクマンベトフ)から電話がかかってきて、「素晴らしい。すごく気に入った。これを90分くらいの長編に引き伸ばして一人称で語られるアクション映画をつくってみないか?」と提案されたんだ。だけど、それを聞いた時は、あんまりイケてないアイディアだと思ったんだ。 ーーすごく挑戦的な試みだと思います。 ナイシュラー監督:そうなんだ。そもそも90分の長編を全部一人称でやるってかなりキツいし、正直に言うと、映画として誰がそんなのを観たいかって思ったんだ。しかも僕はその時、もともと1本目の映画を既にプリプロに入って計画中だったんだよ。80年代を舞台にしたスパイもので。そっちの映画に取り組んでいたこともあって、ちょっと難しいかなと思ったんだけど、ティムールが熱心に「全部一人称視点で語られる、誰も今までにチャレンジしたことのないアクション映画を作ってみたくないか? 君自身も観客としてそれを観たくないかい?」と言われて……まぁ、そう言われてみればそうだよなぁっと思って(笑)。ジェームズ・キャメロンみたいな監督が撮ったらもっと素晴らしい作品になったと思うんだけど、残念ながら彼は今アバターの続編を撮影中なので、彼のスケジュールが合わなかったから僕に役がまわってきたんだと思うよ(笑)。 ーー技術的な問題はありますが、それを差し引いても企画の内容が面白ければ、誰でも自由に映画作品を制作出来る時代になったと感じますか? ナイシュラー監督:まさしくそう思うね。デジタル時代ということもあって、僕の場合はYouTubeという媒体を通して、映画製作が実現したわけだ。パソコンのソフトとか色んなものを駆使して、映像や音楽をはじめとする様々な創作作業をできる時代になったのは素晴らしいことだと思うよ。ただその半面、もういままでのような言い訳が出来なくなった部分もある。今の時代、やり方はどうにでもなるんだから、本当にアイディアがあって本気でやりたいのなら、さっさとカメラを持って町へ出ていけって言われてしまうからね。そういう時代になってきたな、と。 ーー資金については、クラウドファンディングで集めたそうですね。 ナイシュラー監督:予算的なところは大きく変化したと思うよ。昔は16mmの白黒の映画を撮るだけでも1万3000ドルくらいかかっていたけど、今1万3000ドルあったらデジタルカメラでものすごい壮大な、ブロックバスターみたいな映画が出来ちゃうと思うよ。非常に時代は変わったなと思う。ただ、キャノンのDXみたいな素晴らしいカメラなど、優秀な機材が手軽に手に入るようになって大騒ぎしていた時期もあるけど、やたらめったら撮っても、良いものが撮れるわけじゃないんだ。照明の使い方とか、プロ的な技術をちゃんと勉強してから撮らないと映画にはならない。そういった意味では、いいアイディアさえあればすべての人間が優秀な映画監督になれる、とは言い切れない部分もあるんだ。 ーー様々な武器を使用した戦闘や、パルクールを取り入れた逃走劇など、アクションシーンに迫力があって素晴らしかったです。本作にも様々なアイデアが取り入れられていたと思いますが、特に注力したところは? ナイシュラー監督:自分が1番注力したところは、あくまでも最初から最後まで観客がヘンリーから離れないこと。ずっとヘンリーと一体化したまま最初から最後まで突っ走れるような映像を心掛けたんだ。ヘンリーの感情に寄り添いながら、彼の行動も鑑賞者自身の身体で体験しているように思ってもらえたら嬉しい。とにかく展開がものすごく速いから、アクションシーンは自分で何度も実験したよ。自分自身もカメラをかぶって、走ったりとかして(笑)。ヘンリーが一体何をしているのか、どこに向かっているのか、さっぱり分からないくらい速すぎると、そこで観客の気持ちも離れてしまう。観客がついていけるようなスピード、その辺を非常に注意したかな。編集で10%くらい遅くスローダウンさせるなど、撮り終わった後に強弱をつけることもあった。  ただ、速すぎると思うシーンも、実際にヘンリーと同じ行動を自分がとってみたら、そのままのスピードであることも多いんだ。ヘンリーが追われたり、走ったりするスピードはリアルなスピードになっていると思う。そもそも一人称の映像作品は、綺麗で見やすいものではないはずなんだ。綺麗で見やすい映画が観たいんだったら、普通の映画を観なさいって観客にも言うしね(笑)。映像の美しさというよりも、観ていて楽しいと思う感覚を重視したんだ。 ーー従来にはない革新的な映像作品を作ることは勇気がいることだと思います。 ナイシュラー監督:勇気がいる以前にバカだったというのもあるかな(笑)。もちろん勇気が必要だったし、撮影をスタートしてすぐに「ちょっとこれ、無理かもしれない」と一瞬挫折しそうになった時があったんだ。撮影を進めるのをビビってしまった。これ以降、自分が考えているような方向にはもっていけないんじゃないか、不可能なんじゃないかって。自分も含めて、スタッフはみんな素人で、誰も映画作りに携わったことがない人たちばかりだったからね。でも、“無知は力なり”ではないけれど、知らないからこそみんなで意見をぶっつけあい、その場で色んなアイデアを出しあったからこそ、前に進むことができた。  そして、最初の数十分撮った映像を見て、ひょっとしたらこれは頑張って続けたらいけるかもしれない、と思えたんだ。なんだかわからないけど引き込まれる、人の目を釘付けにしてしまう力が映像にはあった。そこで、間違いじゃないことを確信することができた。あとひとつは、ちょっと開き直った部分もあったよ。世の中には懲りずに駄作を作り続けている監督もいるから、失敗してもなんとかなる(笑)。世の中にはろくでもない映画がたくさんあるからね。万が一この映画がすごい駄作に終わったとしても、別にそれで人生が終わるわけじゃない。そういう開き直りも若干あったかな。 ーー監督としてのプレッシャーはありましたか? ナイシュラー監督:自分で自分にプレッシャーをかけるという意味で、これが大コケしたら2作目、3作目はないと思うようにしていたよ。自分はバンドだけじゃなくて、映画監督として今後もやっていきたいと考えていたからね。世の中に出てどうなるかは分からないけど、せめて自分で納得できる映画にしようと意気込んでいた。なにせ2013年の春から始めて、3年間自分の人生を費やしているわけだから、もしも納得のいかないものになっていたら悔しいだろう? それに、やっぱり映画作りっていうのは、2人がしみじみキッチンで座って会話しているだけの映画だとしても、作るのは大変なんだ。特に今回は予算的にもスケジュール的にもタイトだったからね。それでも、一人称で語られる誰も観たことのない作品が、ロシア映画として世界中で公開されるかもしれない、という期待が僕らの1番のモチベーションになった。アメリカでは拡大公開で3000スクリーン近くの規模感で上映されたし、ましてや日本でも公開されるなんて、自分にとっては本当に嬉しいことだし、すごく喜んでるよ。(泉)

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