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『紅白』は二度オリンピックの夢を見るか? “原点回帰”への動きを読む

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/12/31 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 今年2016年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合・以下、『紅白』と表記する)は、「誰が出るか」よりも「誰が出ないか」という話題のほうが先行している感がある。  宇多田ヒカル、KinKi Kids、THE YELLOW MONKEY、PUFFYなどずっと待望されていたアーティストの初出場、視聴者の投票で本日の出演メンバーを決める「AKB48 夢の紅白選抜」、今年4月にデビューしたばかりの女性アイドルグループ・欅坂46の初出場、「PPAP」動画で世界的に話題を集めたピコ太郎や大ヒット映画『シン・ゴジラ』の特別企画といった話題もあるにはあるが、それ以上に不出場の歌手やアーティストに目が向いている印象だ。こういう年も珍しいだろう。  その最たるものがSMAPである。ただ彼らの場合、解散発表にあたってNHKも出演を強く望んだが辞退したという経緯で、他とは事情が異なる。だがそれ以外でも、和田アキ子の落選、細川たかしの卒業宣言があった。  和田は1970年初出場で出場回数39回、細川は1975年初出場で出場回数がやはり39回。つまり昭和から出場を重ねてきた「番組の顔」的大ベテランである。その二人が、かたちは違うとは言え『紅白』から姿を消した。これは2013年の北島三郎、昨年の森進一の卒業宣言から続いてきた流れでもある。細川もコメントしたように「世代交代」、平たく言えば「若返り」である。特に今年は、紅組司会が有村架純、白組司会が嵐の相葉雅紀のコンビということもあって、その印象は強い。  その背景には、スタッフも明言しているように、今年が改革4か年計画の初年度であるということがある。2019年がちょうど第70回の区切りの年ということもあるが、2020年が東京オリンピック・パラリンピック開催の年であることも大きい。「そのことと『紅白』のあいだになんの関係があるのか?」と思う方もいるかもしれないが、そこには実はとても深い関係があるのだ。  『紅白』の史上最高視聴率はどの年だったかご存じだろうか? 正解は1963年で、81.4%。テレビ離れを指摘する声もある現在では、ありえないような驚異的な数字である。  その1963年の『紅白』は、翌1964年に開催される東京オリンピック前夜祭とも言える内容だった。オープニングは、まだ「寅さん」を演じる前の渥美清が聖火ランナーの扮装で登場、舞台上の聖火台のセットに点火するところから始まる。審査員にもオリンピック選手村総責任者に決まった貞閑晴(さだか・はる)が選ばれていた。そしてエンディングに出場歌手全員で歌ったのが、この年ヒットした「東京五輪音頭」。番組の最後に「蛍の光」以外が歌われたのは、後にも先にもこの年だけである。その場面はいま見ても、明るい未来を信じる国民の熱気がひしひしと伝わってくる。時代は高度経済成長期を迎えていた。  その意味で、今年スタッフが「2020年」を目標に定めたのも不思議ではない。白組で出場する福田こうへいが「東京五輪音頭」を歌うことになっているのも、その証しだ。また、ゆずが歌う「見上げてごらん夜の星を」も1963年の『紅白』で坂本九が歌ったその年のヒット曲だ。そこには、近年40%前後にとどまっている視聴率の上昇を「夢よもう一度」と願う気持ちもないわけではないだろう。  だが先ほどもふれたように、テレビを取り巻く状況は50年以上前とは大きく変わっている。そのことをスタッフも知らないはずはない。大切なのは、それを踏まえて時代に適応した新しい『紅白』のコンセプトを再構築することだ。そのための改革であり、4か年計画ということであろう。  実際、『紅白』の中身も1963年の頃と比べて大きく変わってきている。  1963年の『紅白』では、東京オリンピックと「東京五輪音頭」を見ればわかるように、世の中の動きとその年のヒット曲は密接に絡んでいた。私たちが『紅白』について抱く「ヒット曲を通じてその一年の世の中を振り返る」というイメージは、その頃出来上がったと言っていい。  だが、いまや『紅白』は、大きく様変わりしている。出場歌手は、その年のヒット曲を歌うよりは、過去にヒットした定番曲を歌うことが増えた。  今年で言うと、たとえば坂本冬美の「夜桜お七」(1994)、郷ひろみの「言えないよ」(1994)、石川さゆりの「天城越え」(1986)などはそうだろう。「天城越え」にいたっては、『紅白』で披露されるのはなんと10回目になる。X JAPANの「紅」(1989)、高橋真梨子の「ごめんね…」(1996)、TOKIOの「宙船」(2006)、絢香の「三日月」(2006)、いきものがかりの「SAKURA」(2006)、また初出場ではあるがTHE YELLOW MONKEYの「JAM」(1996)、KinKi Kidsの「硝子の少年」(1997)にも似たことが言えるだろう。  つまり、最初にふれたベテラン歌手の不出場もあり、想定される視聴者層はより若くなったかもしれないが、ノスタルジーの色合いが濃いこと自体は変わらない。  そこには時代の変化もある。よく指摘されるように、いまやヒットの仕方も多様化している。今年、2005年以来の出場を果たしたAIが歌う「みんながみんな英雄」(2016)や初出場の桐谷健太の「海の声」はCMで話題となり、配信で大ヒットした楽曲である。さらに同じく初出場のRADIO FISH「PERFECT HUMAN」も配信限定シングルであり、YouTube動画で大きく火が付いた。また同じく初出場のRADWIMPSが歌う「前前前世[original ver.]」は、メガヒットしたアニメ映画『君の名は。』の劇中曲だ。  それは裏を返せば、年齢や世代を問わず誰もが知るヒット曲が少なくなったということでもある。近年の『紅白』は、そうした時代の変化に対して、2013年の「『あまちゃん』“特別編”」での「潮騒のメモリー」のように、人気コンテンツに絡めた企画で補おうとしてきた。  その点で言えば、今年はなんと言っても星野源の「恋」が注目される。星野自身が出演して社会現象化した人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)では、エンディングで出演者たちが踊る「恋ダンス」が大きな話題になった。しかも審査員のひとりには同作で共演した新垣結衣も決まり、“「逃げ恥」シフト”は万全と言える。おそらく番組の目玉になるに違いない。  こうしてみると、今年も最近の傾向とそれほど変わっていないように見える。ただ、ひとつ改革との関連で目に付くのは「原点回帰」への動きである。  今年の出場組数は、紅白あわせて46組。昨年に比べて6組減った。平成に入って2部構成になってからはほとんどの年が50組以上の出場だったので、かなり組数を絞った印象だ。また近年恒例化しつつあったサプライズの特別出演も予定されていない。となると、当然一組当たりの持ち時間が長くなる。  そこには、“歌番組『紅白』”への「原点回帰」が読み取れる。もちろんその際には、世代の偏りなく見てもらえるようにする工夫も必要だ。石川さゆりと嵐というトリの組合せも、そのあたりに配慮した結果と言えるだろう。4か年計画のスタートにあたって、まずはもう一度スタートラインに立つことを選んだということではないだろうか。  いずれにしても、歴史的に見て『紅白』は大きな正念場を迎えている。しかもそこには、『紅白』にとって「過去の自分との闘い」、つまりどの部分の伝統を引き継ぎ、どの部分を新しくしていくかという難しさもある。だがそれでも『紅白』が未来もずっと続いていくためには、いまそれをやらなければならない。番組がこれからの4年の共通テーマとして掲げたのが「夢を歌おう」。その夢は、視聴者だけでなく『紅白』という番組のものでもあるのかもしれない。(太田省一) ※本記事は、2016年12月29日時点で発表されている情報をもとに執筆したものです。

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