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『続・深夜食堂』は究極の“飯テロ”映画だ 思わずヨダレが出てしまうストーリー

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/11/05 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 「食べたいものがあったら、何でも言ってよ」。お馴染みのマスターの言葉にのせて、ツヤツヤに輝いた黄色いたまごがアツアツの鉄板に注ぎ込まれ、ジュージューと半熟にとろけ出す。ふっくらと柔らかい色味になった頃、香ばしい匂いとともにあたりに立ち込める優しい湯気。常連客のひとりが、目の前に出されたぽってりとしたふわふわのたまご焼きに丁寧にお箸を入れ、口いっぱいに頬張った。思わず、私のお腹が「グー」と鳴る。今にも垂れてしまいそうなヨダレ。あのたまご焼きに食らいつきたい、今すぐに。そう思わずにはいられない、『続・深夜食堂』はまさしく“飯テロ”映画だ。 参考:池松壮亮の演技はそろそろ“名人の域”に 『続・深夜食堂』で見せた実力と真価  深夜になると開店する、繁華街の路地裏にある小さな食堂「めしや」。その店を営むマスター(小林薫)が、作り出す料理はどれも見るからに絶品のものばかり。どこか懐かしい雰囲気が漂った街並みと趣のある店内。そこで展開される悲喜こもごもな人生ドラマが、また味わい深い。私の心の奥底にくすぶっていた、愛情に似た生温かい“ナニカ”が刺激され、ふつふつと湧き上がる。と、同時に“食欲”がこれでもかと掻き立てられ、大合唱をはじめるお腹。そこで今回、『続・深夜食堂』に登場する3つのエピソードとともに、そのお題となる3品を紹介したい。 ■焼肉定食

 フライパンの上で炒められているのは、画面越しにでも香ばしい匂いが漂ってきそうなほど、きれいな焼き色がついたジューシーな豚肉。もやしと玉ねぎとともに、甘辛いタレがたっぷりと絡まったお肉に、シャキシャキな千切りキャベツを添えて、豪快に口に運ぶ。程よく脂が乗ったお肉の味を忘れぬうちに、ふっくらとした白米を勢い良く口にかき込む女性。

 喪服を着るのがストレス発散という一風変わった女性・範子(河井青葉)は、出版社で編集者をしており、仕事でストレスが溜まると、気分転換に喪服を着て街を出歩き、シメに「めしや」で焼肉定食をたべる。そんなある日、本当の通夜の席で喪服の似合う渋い中年男(佐藤浩市)に出会い心惹かれていく模様を描く。後味が残るような濃さとボリューム満点の、パンチが効いたエピソード。 ■焼きうどん

 ツヤツヤと水々しいおうどんとともに、人参やピーマン、キャベツ、もやし、お肉といった彩り豊かな具材たちがフライパンいっぱいに炒められ、ジュージューと音を立てる。全体的に香ばしい焦げ目がついたら、アツアツの鉄板の上へ。仕上げに、踊る鰹節と淡いピンクの紅しょうがを添えて出来上がり。青年が、お箸で麺をすくい上げ、「フーフー」と冷まし、勢い良くズズズッと口いっぱいに頬張る。

 近所のそば屋の息子・清太(池松壮亮)は、好物の焼きうどんをすすりに「めしや」に足を運ぶ。そんな清太は、父亡きあと、店を切り盛りする母親・聖子(キムラ緑子)が子離れしてくれず、年上の恋人さおり(小島聖)との結婚を言い出せずに悩んでいた。思わずクスッと笑ってしまう滑稽さと、1人ひとりの感情が絡まりあった複雑さの中にも愛が詰まった物語。 ■豚汁定食

 「めしや」の看板メニューである“豚汁定食”。お鍋にゴマ油をしき、鮮やかなピンク色をした豚肉をサッと炒める。そこにちぎったぷるぷるのこんにゃくや、ゴロッとした根菜など溢れんばかりの具材を放り込み、ダシを注ぐ。最後に味噌をじっくり溶かして具材に染み込ませ、フワッと湯気が立ち込めたら、食欲をそそる刻みネギと、お好みで唐辛子を。アツアツな豚汁を包み込むように持って、丁寧にゆっくりとすする。ホフホフとしながら大根を咀嚼し、キラキラ輝くスープを体内に染み渡らせる。

 お金に困った息子に頼まれ、九州からやってきた夕起子(渡辺美佐子)。息子の同僚という男性に大金を預けたというが、話を聞いた常連客たちは、“来て来て詐欺”ではないかと心配する。だが、あまり気にも留めない様子で、豚汁定食を美味しそうに頬張っている夕起子。迎えにやって来た義弟(井川比佐志)が夕起子の身の上話を明かしたことから、思いがけない真相が明らかになる。じんわりと心に染み渡り、人の優しさに生で触れたようなあたたかさがあるエピソード。  素朴だが、どれも輝きを放った料理は、どことなく母親の手料理のような愛情を感じさせる。そんな料理を提供してくれる「めしや」に憧れを抱く人は少なくない。同作でフードコーディネーターを務めるのは、『かもめ食堂』や『海よりもまだ深く』の飯島奈美氏。飯島氏はインタビューで「スクリーンの中であっても、料理は温かいものであれば温かく、冷たいものは冷たく出したいと思っています。松岡(錠司)監督も『深夜食堂』では、観客の五感を刺激するように料理を映すことを大事にされていて、(中略)前作の『ナポリタン』で使った鉄板をまた使って、焼きうどんがアツアツの出来たてで美味しそうに見えるように工夫しています。脚本に載っていない料理でも、季節感を出すことを大事にしているので、今回は夏に『鶏ささみの梅酢焼き』『キスの天ぷら』、秋に『キノコのホイル焼き』など作っています」(引用:『続・深夜食堂』パンフレット)と語っている。  飯島氏や松岡監督の細部まで手を抜かず、とことん追求する姿勢こそが、『深夜食堂』の魅力を最大限に引き出していると同時に、物語に深みを与えているに違いない。また、だからこそ同作は観客の五感をダイレクトに刺激し、食欲を掻き立てて止まないのだろう。  『続・深夜食堂』は空腹をもたらす一方で、心を満腹にしてくれる。そんな“飯テロ”映画だ。(戸塚安友奈)

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