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いま“チーム”で音楽を作る意味とは? MONACAの新鋭・田中秀和の台頭から考える

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/10/28 株式会社サイゾー
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 今秋より放送されているTVアニメ『灼熱の卓球娘』(テレビ東京系)のオープニング・テーマ「灼熱スイッチ」がすごい。 (参考:クラムボン・ミト×『アイマス』サウンドP内田哲也が語る、アイドルアニメ・ゲームに“豊潤な音楽”が生まれる背景)  <問いかけを君にスマッシュする>と歌い終えた後に突入するサビの最初のコードが「増三和音」で、いわゆる「不協和音」の部類に入る和音なのである。これは普通のポップスではあまり見られないコードであり、もし使われるとしてもそれは「経過和音」として、つまり、あるコードからあるコードへの遷移の過程で仕方なくそれらを繋げる目的で使われるパターンがほとんど。なので、この曲のようにサビのド頭に使われるケースはかなり珍しい。  しかし、楽曲が恣意的に技術操作されているだけでは「すごい」とはいえない。それが、ポップスに違和感なく組み込まれているのが「すごい」のだ。「灼熱スイッチ」の場合、「灼熱」「卓球」の素早く激しいイメージと、「娘」の可愛いイメージという、独特のミスマッチ感を表現するためにあえて不協和音を選んだことで、これがむしろ幼い女の子が頑張ってスポーツする萌え感を演出する、効果的な役割を果たしているように聴こえる。あるいは、<友情… それともライバル?>という歌詞に投影されているような、不安な感情をあらわす手段として用いられているといえる。  作曲・編曲は田中秀和。彼は音楽制作のクリエイター集団「MONACA」に所属する若手クリエイターの一人。田中は今春、別のアニメのオープニング・テーマでも、冒頭にこの和音を多用した楽曲を制作している。彼がこういった「攻めた」楽曲を作れる背景には、彼個人の資質はもちろんだが、彼とともに活動するMONACAのクリエイター陣からの刺激や、MONACAそのものの風土があるのではないだろうか。  MONACAは、ナムコを退社した岡部啓一によって2004年に設立された。翌年に同じくナムコを退社した神前暁が所属すると、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』の主題歌などを手掛けたことで注目が集まる。しかし、その頃はまだ「神前暁あっての」MONACAであった。MONACAが本格的にチームとして活動するようになったのは、所属スタッフが増えだした2010年頃からだという。TVアニメ『STAR DRIVER 輝きのタクト』(TBS系)において、初めて神前暁によるトータルのディレクションのもと、MONACAのクリエイター陣が団結して制作に臨んだ。今では10名近いクリエイターが所属し、アニメの劇伴からキャラソン、ゲームのBGM、TVドラマに至るまで活動の場を広げている。今年、MONACAにまつわる楽曲を生演奏で披露するイベント『MONACAフェス』が大成功を収め、クリエイターチームとしての新しい活動の形を提示したのも記憶に新しい。  こういったクリエイターチーム/サウンドチームという形態は、2000年頃から徐々に増えている。先駆けとなった「I’ve」をはじめ、水樹奈々の活躍の影の立役者と言っても過言ではない「Elements Garden」、現在のJ-POPを語るうえで欠かせない「agehasprings」、今やアイドルソングやアニソンのクレジットで見ない日はないといってもいい「SUPA LOVE」、東方Project関連のアレンジサークルが原型となっている「Arte Refact」、新興の「TRYTONELABO」など、音楽制作スタッフの組織化は今もなお進んでいるし、これらはまだほんの一部である。こうして見るとポップスの現場ではクリエイターがチームを組むことの方が主流のように思えてくるが、職業作曲家が個人活動ではなく、チームを組むことのメリットとはいったい何だろうか。あらためて、なぜいま、チームなのか? (1)タスクの分配  アニメやドラマ単位で音楽制作を依頼される場合、膨大な量の楽曲を一人で請け負うよりは、チームがまとめて担当する方がより自然だろう。少数の人気作曲家に仕事が集中し過ぎるのを回避できるし、無名のクリエイターにもある程度安定して仕事を与えられる。これは若手の育成にも繋がる。また、各クリエイターの得意分野に応じて適材適所の分担を行なえば、作品のクオリティーの向上にもなる(例えばアイドル曲ならアイドル好きのAさんに、ロックならバンド出身のBさんに、というふうに)。近年のコンテンツ産業の盛り上がりという意味では、クリエイターのチーム化はごく自然な流れといえるかもしれない。 (2)機材の共有/技術の継承  個人ではなかなか揃えるのが難しい機材や、取り扱いの難解なソフト等のノウハウを共有することで、よりレベルの高い制作を行なえる。とくに流行り廃りの激しい業界ゆえ、アンテナの広さ・敏感さは個人では限界がある。また、素人トラックメイカーの活躍著しい昨今の音楽業界においては、その裏で、「ちゃんとしたプロの仕事」の感触が求められもする。組織化は、より強固な職人の技を生み出すための手段として、時代に適応した結果といえるだろう。 (3)ブランド性  一個人が自身のみのネームバリューを高めることよりも、チームとして一つのブランドを成長させていくことの方がより容易く、やり甲斐のあるものと解釈することもできる。また、SNSで個人間が自由に繋がれる現代において、チームという形態はある意味では「ゲーム的」だし、またある意味では「社会的」だ。評価が得られなくても何度でも仲間を見つけて挑戦し直せるし、自分の成功は自分だけでなく他のメンバーを助けることにもなる。チームの役割は、個人の時代の裏返し的な側面があるのだ。  田中秀和がMONACAに所属したのは、ちょうど2010年のことである。まだ無名であった田中がシーンで存在感を示すのは、2012年にTVアニメ『這いよれ! ニャル子さん』(テレビ東京系)のオープニング・テーマ「太陽曰く燃えよカオス」を手掛けたときのことだった。ディスコ風味でダンサブルかつ中毒性の高い楽曲と歌詞は、当時のリスナーに急激に支持されることとなった。自身が影響を受けたダンス☆マンやつんく♂サウンドを織り交ぜたその音楽性は、グループ・アイドル全盛の現代を象徴するサウンドでありながら、その影には「もってけ!セーラーふく」で一躍時の人となった神前暁に師事し、神前のスタイルを踏襲した彼だからこその意味合いが潜んでいる。神前が作り上げたMONACAのブランドイメージ、そしてそれを受け継ぎ更新していこうとする若手クリエイターたち。そんな現場の空気が、音から想像できる。  「灼熱スイッチ」は、さきに挙げたMONACAのヒットソングの系譜と比べると、落ち着いた空気から始まる。イントロでいきなりリスナーを掴む構成というよりは、序盤は抑えて聴き手を引き込ませる作りだ。徐々に旋律がマイナー調を帯び始めると、件の不協和音を境に一気にサビへと雪崩れ込む。まさしく「スイッチ」の如くこの和音は機能し、激しいサビへのよい繋ぎとなっている。  個人が個人のためにブラッシュアップしてゆく姿はたしかに魅力的だろう。けれども、それがチームのブランドを継承するためのものに置き換わったとき、クリエイティブの幅はさらに広がる。今の音楽界に必要なのは、友情か、ライバルか。MONACAのこうした高い作曲力は、そんな問いかけをスマッシュしているわけだ。(荻原 梓)

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