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てるみくらぶ問題は「安物買いの銭失い」ではない 被害ライターが伝える教訓

エキサイト Bit のロゴ エキサイト Bit 2017/05/03 ネルソン水嶋
© Excite Bit 提供

3月末からしばらく、世間はまさしく「てるみくらぶ狂想曲」といった様相を見せていた。

テレビでも新聞でもネットでもその名前を見ない日はなかった…が、最近は鳴りを潜めつつある。

しかし、だからといって被害者の状況が好転した訳でもなんでもない。

今もなお苦しんだり、返金に奔走したり、諦めたりと、状況はさまざまだ。

かく言う私も、実はその被害者のひとりである。

倒産のほぼ2週間前、てるみくらぶにベトナム旅行大人二名分を申し込んだ。支払金は148,800円。

話題が落ち着いてしまった今だからこそ、当事者として世間に強く広く伝えたいことがある。

そこで、弁護士の方や経営者の方に話を聞きまとめた話を前後編の二回に分けて書くことになった。

前編の「親孝行のはずが15万円消えた!てるみくらぶ被害ライター、弁護士に返金可能性を聞く」につづき、後編は、事件の原因と私達が得るべき教訓について書きたい。

シュプレヒコールのごとく叫ばれつづける「安物買いの銭失い」は、思考停止で本当の原因を曇らせる。「てるみくらぶが原因だけど、利用者もダメだよね」と考えているままでは、あなたもいつか同じ轍を踏むかもしれない。この事件から、私達の買い物という行為そのものの安全が危ぶまれていることに気づいてほしい。

結婚記念日に、ハワイ旅行5日間36万円…被害はケース・バイ・ケース

相原さん(仮名)は、旦那さんとの結婚8年目を記念して、てるみくらぶで5日間のハワイ旅行を申し込んでいた。ビジネスクラスで行くハイアットリージェンシーオーシャンフロント、二人分で36万円。3月16日に申し込み、振込期限が翌日だったので一括振り込み。事件が世間に露呈する一週間前と考えると、てるみくらぶが全員でないにしろまったく予想していなかったとも思えない。

報道を知り25日のうちにすぐキャンセル申し込みをして完了メールを受け取ったが、返金される様子はまったくない。そのあと、警察、消費者センター、破産管財人、司法書士などに相談して回ったが、唯一破産管財人の方からキャンセルが有効になる可能性があると言われたくらいで、色よい回答はもらえなかった。JATA(日本旅行業協会)にも問い合わせ、弁済金の手続きを申請。ウェブサイトから情報を送信、6月から順次送られる書類に必要事項を記入して送り返し、そこではじめてJATAの審査によって返金の有無が確定される。しかし、そこまでしたところで返金される金額は1%程度といわれている。相原さんの旦那さんはショックで急性胃腸炎になってしまったそうだ。

てるみくらぶ・社長の山田氏が会見で発した「旅行中の方は自力で帰って来てください」という言葉があまりにセンセーショナルだったため、その点ばかりが取り沙汰されているが、今回の被害は実にケース・バイ・ケースだ。現地で航空券の予約やホテルがキャンセルされた人をはじめ、申し込んだものの催行の有無ばかりではなく返金すら望めない人、ほぼ一週間後には入社予定だった内定者、事情を知らされていなかった社員、航空会社やホテルといったてるみくらぶの取引先、会員からの相談に追われているカード会社…。

誤解を恐れずに述べれば、まるでこれは災害だ。てるみくらぶの未払い・倒産という事象に端を発して、あらゆる立場の人が時間の経過とともにそれぞれの形で不幸を被ってゆく。ただ、当然ながらこれは自然現象ではない。人の判断が引き起こした事態という意味では、災害以上にどうしようもこうしようもあったはず。その点では、「人災」と名付けられるに相応しいのかもしれない。

「安物買いの銭失い」という声はお門違い、原因は「自転車操業の泥沼化」

「安物買いの銭失い」…「安かろう悪かろう」…今回の件に関連して、これらの言葉を本当にあらゆるところで見聞きする。が、それは「利用したところサービスが悪かった」といった失敗談にされるべき指摘で、今回の件に関してはまったくのお門違いだと考えている。格安と倒産リスクの間に因果関係はない。

商品の値付けは、てるみくらぶが収益を最大化できると考えた上での結論。オプショナルツアーで稼いでいたのか、格安ツアーを呼び水にして高額商品で稼いでいたのか、航空券の大量購入によって割引またはキックバックを受けていたのか…ビジネスモデルは想像しかできないが、本来自身が考える、倒産とは最も程遠い結論だったはず。が、現実に倒産してしまった以上は紛れもない経営判断ミス。だから、今回のことを「安物買いの銭失い」として片付けていると、対岸の火事どころではなくいつか火中に遭っても気付かなくなる。では、ミスとは具体的にどういうことか。経営者の知人たちから話を聞いているうちに、その正体が見えてきた。

旅行商品の原価率は、抑えてもせいぜい85%、純粋な利益は2%程度とのこと。商品の特性から在庫を抱えないという利点はあるが、一方でキャッシュフローに対してはシビアにならざるを得ない。そのため、資金力のない内は「申込者からは先払い」「手配先(航空会社やホテルなど)へは後払い」の徹底こそが会社が生き残っていく上でのセオリーであるという。言い換えるなら、手配先への支払いは、必ずその名目で受け取ったお金を以って行われなければいけない。それを社内の経理など収支を管理する部署が徹底している限り、少々乱暴に言えば経営状態は健全ということになる。

しかし、お金は物であり数字でもあるので、ある支払いは別の名目で受け取ったお金でも可能。この行為がいわゆる自転車操業のはじまりで、原価率が大きいほど「転んだら(未払いが発生したら)アウト」の状態で走り続ける羽目になる。報道されている通りならば、「新聞広告を出したが集客できなかった」という事態こそが、てるみくらぶという自転車をつまづかせた最大の石だったのかもしれない。

しかし、中小企業は自転車操業が珍しいことでもない。「健全じゃないから自転車操業はやめましょう」と言ったところで、経営者の方からは「簡単に言うな」と言われるだろうし、てるみくらぶに同情する経営者の方もいるだろう。が、今回の事態をたとえるなら、転んで走れなくなったのみならず、そのまま9万人を巻き添えにして怪我を負わせて治療代は払えないといったようなもの。意図したものであろうがなかろうが、世間から批難されることは当然の結果だ。

買い物に「リスクマネージメント」を意識しよう

現金一括払いを求める会社は自転車操業が疑われるので要注意!

これはあちらこちらで言われているので今更だろう。

しかし、そうではなく、しかも粉飾決算が行われていた場合、一般的な消費者に経営状況を見抜く術は無い。だったらどうするかというと、非常に当たり前ではあるが、どんなときでも「後払い」を実践するしかない。

クレジットカードを利用して、支払い時期を商品・サービスの提供後に極力ずらす。現金払いや口座への入金であれば、まずお店を選択する基準に「後払い(提供後の支払い)が可能かどうか」を取り入れる。もちろん、これは逆に店や会社のリスクにもなるので必ずできる話ではないが、善良な消費者にとって後払いがありがたいことには間違いない(当然、経営側からすると「やめてくれ」と言いたい話ではあろうが、結局どちらかが損し得る)。

そこでどうしても商品・サービスの提供前に支払わなければならない場合は、カードの分割払いを利用することで前払いの金額を少しでも減らす。もしものときの株の損切りのようなもので、提供日のあとに支払われる予定だった金額分は会社が倒産したとなると支払い(引き落とし)を止められるかもしれない。カードも会員の相談に手厚いところを選び直すことも良い。提供会社の資本も重要だが、カスタマーセンターの評判はネットでいくらでも出てくる。それらを鵜呑みにすることは良くないが、参考程度に見るのなら有用だろう。

そもそも、旅行に関しては自分で手配する方法もある。可能であるなら、仲介業者を挟まないということもひとつの手段だ。現地での行動が不安なら、今や現地に住む日本人や日本語話者に案内を依頼できるサービスだって充実している。旅行会社に一括してお願いできることは非常に楽だし、それが旅行会社の本分だとは思うが、その会社が倒産してしまっては元の木阿弥。自分で管理が可能なら、サービスを組み合わせることもリスク分散だ。

私達には、一生のうちに何度か大きな買い物の機会がやってくる。旅行も然り、家、車、学校…。個人の買い物にリスクマネージメントが必要となったことにはどこか無情さを感じるが、自分の財布は自分で守らねばならない。今回被害に遭われた方の中には、100万円を超える被害金額の方もいるだろう。その悔しさと恨みたるや想像を絶するものだろうが、せめてこの体験を余すことなく教訓に活かし、今後の大損を防いだであろう勉強代として考え、少しでも元をもぎ取ってほしいと願っている。私はそうするつもりだ。

(ネルソン水嶋)

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