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なぜマツダは低迷脱却で最高益、ソニーは依然、大赤字?過度の円安依存が製造業を滅ぼす

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/05/02 01:05 Cyzo

 マツダの2014年3月期決算(13年4月~14年3月)決算は売上高が22%増加の2兆6922億円、営業利益は過去最高となる3.4倍の1821億円。営業利益率は2.4%から6.8%に大幅に改善し、売上高ではマツダの4倍以上である本田技研工業(ホンダ)を上回る。同じく増益要因の最も大きいものが「為替影響」で1127億円、続いて販売増による効果が550億円と、ホンダの533億円を上回っており、マツダがいかに利益率の高い車の販売を、値引きせずに増やしているかを物語っている。

 このように、つい最近まで業績低迷に喘いできたマツダが、一気に過去最高益を計上し、円安効果が一段落した15年3月期も過去最高益を更新する見通しを示すまでに回復した背景には、「モノ造り革新」という、単なる製造現場の「カイゼン」を越えた究極の「コンカレントエンジアリング」(設計から製造にいたる全業務を同時並行的に処理することで、量産までの開発プロセスを短期化する手法)への取り組みがあったのだ。

 例えば、エンジンのシリンダーブロックなどを機械加工するラインでは、一工程当たり14台の汎用マシニングセンター(MC)が並ぶが、これは「モノ造り革新」前までは専用機の「トランスファーマシン」で加工していたのを、汎用機による「フレキシブル生産」に切り替えたからである。専用機はひとつの部品を素早く製造する「大量生産」には適しているが、「変種変量」への対応は弱いと判断して変えたためだ。

 この「変種変量生産」を実現するため、エンジンの設計構造の一つで冷却水が通る穴の部分に「セミクローズド」と「オープンデッキ」の2方式があったものを後者に、同様に「ベアリングブロック」と「ロアブロック」の2方式も後者にそれぞれ統一した。設計の初期段階から構造と工程をワンセットで考えることで、共通化しなければならない製品のハードポイントを最小化したのだ。これにより、搬送基準や加工基準も統一化でき、同じラインで複数の商品が流せるようになった。

 一方で、各社が共通化している「ボアピッチ(隣り合うシリンダー同士の中心間距離)」は、性能追求のために排気量の大きさによって変えることにした。要はマツダの「モノ造り革新」とは、固定要素と変動要素を、設計と工場が一体になって明確にし、車の特色を失わず、かつ性能を下げずに固定要素を増やすことで、生産の効率性を高めていく考えなのである。だから単純な部品の共通化とは違う。

 同時にこれは、車格や排気量の違いを超えて各ユニットの基本コンセプトを共通化して標準構造にし、相似形の設計にすることで少ない投資で多様な商品を生み出していく発想でもある。一例としては、エンジン制御系のソフトウエアも177種類あったものを原則1種類までに減らして大幅に開発期間を短縮した。

 マツダの「モノ造り革新」の仕組みを因数分解していくと、製品構造に関して相似形や共通化の設計を推進する「コモンアーキテクチャー構想」と、高効率かつ柔軟に生産現場が対応する「フレキシブル生産構想」に分けられる。

 こうした構造改革を積み上げて、マツダの今の業績ができ上がったのである。円安差益とは所詮「あぶく銭」であり、企業の自助努力とはほとんど関係ない。しかし、その「あぶく銭」とはいえ、それをうまく「実現利益」として活用していくためには、マツダのような自助努力による構造改革が不可欠といえるだろう。

●円安に安住せず、海外事業を強化

 マツダと対照的な会社がソニーではないか。外貨売上高が多いソニーも為替の変動に影響を受けて業績に追い風が吹くはずなのに、ソニーは14年3月期も当期純損失を計上した。その要因は、テレビなど主力のエレクトロニクス事業で同じようなリストラを逐次的に繰り返しているため、円安差益がリストラ費用で相殺されてしまい、「実現利益」にならないからである。

 一方、マツダは現在の円安局面に安住していない。むしろ危機感を強めている。そして利益が出始めた今だからこそできることがあると、次の一手に向けて動き始めている。日本で生産して海外に輸出するビジネスモデルで儲けようと思っているわけではない。為替が1ドル=77円水準でも利益が出るのならば、国内工場を活用して輸出したほうが得策ではないかと考えられがちだが、マツダは海外事業の強化に打って出ている。すでに今年1月、海外生産拠点で同社最大のメキシコ工場を稼働させた。合弁などを除いてマツダ主導で海外工場を新設するのは実に27年ぶりである。

 マツダは中長期の展望からメキシコに拠点を設けた。若くて有能な労働力が豊富であることに加え、メキシコは世界約50の国や地域とFTA(自由貿易協定)と結んでおり、フリートレードで世界のほぼ半分の自動車市場にアクセスできるからだ。日本国内は少子高齢化によって、自動車市場も今後縮小し、工場で働く若い労働力も不足するリスクが高くなる。こうした中で、国内に留まっていては国際競争で負けてしまうという危機感がマツダにはある。円安に安住しない中長期の展望を考えての判断ともいえるだろう。

●常識を否定したことで生れた「イノベーション」

 ところが、円安効果の一服感から、危機感が薄れ、日本に留まっていても製造業は大丈夫という安易な考えに流れている企業もある。また、視野の狭いナショナリズム的な発想とつながって、国内に留まることが「美徳」と考える風潮も強まっている。しかし、多くの企業がこうした雰囲気に安易に流されていることには疑問を感じる。企業は業種、規模を問わず常に自助努力して、環境の変化に対応しなければ生き残れない。その姿は、ガラパゴス島の鳥が、餌の昆虫などが住む環境が変われば、嘴の形を変えて生きながらえてきた様子と似ている。動物の場合は、生存本能のようなものが働いて自然に変化したのだろうが、企業の場合は、変わっていこうという強い意志が経営者と社員にあれば、意図して変貌を遂げることができるのではないか。

 筆者は取材中、マツダの経営者や社員からは「変わらないと生き残れない。そのためには、これまでの常識を否定する」といったような声も聞かれた。こうした発想こそを学ぶべきではないか。

 日本ではアベノミクスによる効果で景況感はよくなっている。しかし、その構図を見ると、金融政策によって円安に誘導したり、ばらまき予算でゼネコンが復活したりと、旧態依然とした手法を展開することで、なんとか持ちこたえているといったイメージが拭えない。イノーベーティブ(革新的)には見えない。企業が本当に生き残りを考えるのであれば、アベノミクスに過度の期待は持たないで、近未来を見据えながら自助努力するしかない。マツダが取り組む構造改革は、地味ながらも「イノベーション」(革新)である。(文=井上久男/ジャーナリスト)

※画像はマツダ本社(「Wikipedia」より/Taisyo)

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