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アクサ生命が気付いた「デジタル変革」の核心――それは人とITの“共存”

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/08/28
アクサ生命が気付いた「デジタル変革」の核心――それは人とITの“共存”: アクサ生命 執行役員 トランスフォーメーションオフィス本部長の不動奈緒美さん © ITmedia エンタープライズ 提供 アクサ生命 執行役員 トランスフォーメーションオフィス本部長の不動奈緒美さん

 企業のデジタル変革に注目が集まる中、2010年ごろからその取り組みを続けてきたアクサ生命。2014年には変革を指揮する部署「トランスフォーメーションオフィス」を新設している。その責任者を務める不動奈緒美さんは、米国でソフトウェア会社に勤めるなど、さまざまな会社を渡り歩いてきた経歴を持つ。

 アクサ生命に入ってからは、ITインフラ運用やファイナンス運用、情報セキュリティ管理といった職務を歴任。「保険会社でITシステムを担当するというのは、ビジネスを理解するということ。また、ビジネスもテクノロジーを最大限に活用することが重要」という考えのもと、ITとビジネスの橋渡しをする“指揮者”の役割を担っている。

 デジタルトランスフォーメーションには、ビジネスに合わせたテクノロジーと人の在り方、業務プロセス、働き方という全ての要素が同じペース、リズムで変わっていくことが重要――不動さんはこのように話す。

 「ITのバックグラウンドを持っているからこそ思うのは、人とテクノロジーの“共存”が重要だということです。スマートフォンやAIなど、次世代の技術が登場する一方で、社内にはまだレガシーなシステムやプロセスも残っています。遅れていると思う人もいるかもしれませんが、テクノロジーだけが先に進んでも、果たして人はそれを使いこなせるのか、という問題があります」(不動さん)

●ツールだけが変わっても、会社が変わるわけではない

 AXAグループ全体でデジタル化への取り組みが加速し始めた2010年ごろは、iPhoneが普及し始め、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSも登場し、社会全体がデジタル化へ舵を切った時期だ。ビジネスの現場もクラウドが登場し、多くの企業がIT化を進めることになった。しかし、アクサ生命は「ツールだけが変わっても、働き方や人の意識が変わらないと会社は変わらない」ということに気が付いた。

 生命保険は、1人のユーザーが数日や数週間おきに触れるサービスではない。小売業や外食産業、同じ金融業でも銀行などと異なり、顧客と接する機会が極端に少なく、要望に対応したとしても、ユーザー視点ではその成果を実感しにくい。それが、変革のスピードに差が出る原因だと不動さんは指摘する。

 「とはいえ、お客さまのリテラシーは進んでいます。今はもう60歳以上でもスマートフォンを持ち、使いこなしている方も多い。これから社会やお客さまのニーズが変わっていくときに、サービスや会社はどう変わっていくのか。そして、変わるためにどうあるべきかを考えたとき、デジタルだけではなく、もっと全体的な変革を考えよう、と方針を変えたのです」(不動さん)

 もちろん、テクノロジーに合わせて人も学ばなければならない。アクサ生命は2016年に、営業社員にタブレット端末を配布し、画面上に契約書や約款を提示して、電子署名で契約を完了できるシステム「AXA Compass」を導入した。その際には、約1年をかけて全国に展開。営業部門にユーザーテストを行って、得たフィードバックを基に開発を進めながら、ツールの改善とともにトレーニングを行ったという。

 生命保険だからといって、いきなり「では、データを取るために腕にチップを埋め込みましょう」と言ってもユーザーには受け入れられないだろう。つまり、ビジネスとしては通用しない。これは極端な例だが、時代の変化と顧客のニーズが、技術の進化に対して、どこまでついてきているかを把握するのは難しいのだ。

 「エンタープライズITの場合、既存のエンドユーザーの特徴や傾向を考えずにあまりユニークなテクノロジーやサービスを持つのは、逆にリスキーだと感じています。しかし、社会や文化、技術、そしてお客さまのニーズは今後どんどん変わるでしょう。それらにアジャイル(機敏に)対応できるようになるためには、自分自身がレジリエンス(強靭でしなやか)な体質になっていることがとても重要。これは人もテクノロジーも同じです」(不動さん)

●人とテクノロジーをどう協働させるか?

 人とテクノロジー。どちらかが先に進みすぎても遅れすぎても、その効果は出ない。プロジェクトを進める際には、両者の調和が不可欠だ。AXA Compassでは、IT部門ではなく、営業部門がコストを管理し、プログラム全体をリードする形で開発プロジェクトを進めた。

 ビジネスサイドの要望、つまり人がやりたいことだけを追求すると、要件がどんどん膨らんでしまい、開発の時間も費用もかかる。利便性の高いテクノロジーの導入が必要である一方で、テクノロジーが人に合わせるのは限界があるのだ。

 どこをシステム化し、どこを運用でカバーするか。単にカスタマイズして機能を増やすのではなく、IT部門と営業部門が話し合い、テクノロジーを最大限活用したオペレーションを設計し、営業とIT部門とで構成されたプロジェクトチームがツールの導入時に営業社員にチェンジマネジメントとトレーニングを計画的に実施する形にした。そのため、社員全体のITリテラシーも高まってきているという。

 同社では、このほかにも、ITサイドとビジネスサイドが協働できるような仕掛けを試みている。プロジェクトが進行している期間中に、関係部署の社員が常駐できる専用の部屋を設置し、同じ部屋の中でそれぞれの仕事をさせるのだ。プロジェクトメンバーの半数程度が、入れ替わり立ち替わりで常駐する。人数は15人程度だ。

 そうすることで、自然とコミュニケーションが生まれ、お互いに知らないことを教え合い、距離が近づいていった。現在は試験的にいくつかのプロジェクトで試している段階だが、非常に良い結果が得られていることから、次年度以降もさらに増やす考えだという。

 「これだけITの進化が激しい今、ビジネス部門もITのことをよく知っているし、リテラシーも高くなってきている。テクノロジーを使ってどのようにビジネスをリードできるのか、そしてビジネス部門が何を求めているのかをIT部門が知ることが、相乗効果を発揮するための重要なポイントであると思います」(不動さん)

●「デジタルトランスフォーメーション」の先にある、保険の未来

 今やクラウド、ビッグデータ、AIという大きな波が、社会に引き起こす変化は無視できない。企業のデジタルトランスフォーメーションもそうした流れを意識したものだが、当然、生命保険の姿も変わっていくことになる。

 「一般的に、今まで保険会社は、お客さまが新規契約で保険に加入したいとき、あるいは保険金を受け取りたいというときに、紙ベースでやりとりをしていました。保険会社は受領した書類の内容をシステムに入力し、査定をしてお支払いをしていますが、これからはもっと早く保険金の請求ができたり、もっと早く保険に加入したりできる時代は間違いなく来るでしょう。紙ベースのやりとりも、今はオンライン請求へと変わってきています。テクノロジーの発展とともに、会話するレベルのスピード感で契約が進むようになるはずです」(不動さん)

 特に保険の給付請求については、既にアクサ生命でもさまざまな取り組みを行っている。例えば、過去の保険金の請求状況を調べ、どれくらいの金額でどれくらいの日数で払ったか、という記録を分析している。

 保険は、その種類によって請求に必要な書類やプロセスが異なる。例えば、死亡保険では死亡証明書を提出することが義務付けられている。

 一方で通常の医療保険などはどうだろう。5万円、あるいは3万円、10万円など、支払ってもリスクが少ないものならば、時間がかかる診断書や証明書の代わりになるものがないか。給付申請に迅速に対応できる仕組みを作れないか――アクサ生命は、2017年8月にオンラインで給付金請求を可能にするシステムを運用開始し、24時間365日、契約者専用Webサイト「My アクサ」で完結するサービスを導入した。テクノロジーが入りこむ余地はまだまだあるのだ。

 「即時加入や即時払いができるなど、テクノロジーというのはお客さまの利便性に合わせて使われるものであるべきです。本来、保険会社はお客さまに健康でいてもらうことが一番なので、そのためのサービスを提供するといった方向性も考えられます。ITによって、病気への対処から予防へと、保険の姿が変わっていくかもしれません」(不動さん)

 人とテクノロジーをどう共存させるか――。海外から日本へ、そしてB2BからB2Cの世界へ。さまざまな視点を経験する中で、不動さんはデジタルトランスフォーメーションを進めるにあたって重要な「考え方」を得た。

 「全体を俯瞰し、どこに課題があって、何を整理すれば物事が進むのかを考えることを意識しています。『これとこれがあるからできない』ではなくて、『何と何ができたら、何ができるのだ』と発想を変えなければいけません。そういう意味では、ビジネス部門、IT部門に関係なく、変わっていく時代や状況に機敏に対応し、適応する力を養うことが大事ですね。

 そして、もう1つ大事なのは想像力です。『自分たちが見えている範囲だけで、世界が終わっているわけではない』ということ。当たり前なことようで難しいです。そのためにも、他者と協力することが必要ですし、自らが生み出している価値を常に考え、目標として共有することが大切なのだと思います」(不動さん)

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