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アルゴリズムがデフレ脱却の障害に AIがもたらす社会の閉塞感

Forbes JAPAN のロゴ Forbes JAPAN 2019/10/09 11:00 河 鐘基(ハ・ジョンギ)

© atomixmedia,inc 提供 アマゾン効果(Amazon Effect)という言葉がある。これはECサイト・アマゾンの成長・拡大の影響が、小売業界、ひいては政治や経済、社会全体の変化にもたらす効果・影響を指す。野村証券の証券用語解説集には、その効果について次のような説明書きが掲載されている。

「消費者の購買行動が実店舗からオンラインショッピングへと移行したことで、米国内の百貨店やショッピングモールが閉鎖に追い込まれるなど、既存の米消費関連企業が業績悪化や株価低迷に陥った。同社(アマゾン)による買収や新規事業拡大の影響は他の産業分野にも及んでいる」(野村証券・証券用語解説集)

ハーバードビジネススクールのAlberto Cavallo教授らは、アマゾン効果のひとつとして「物価上昇率の低下」もしくは「物価低下」があると指摘している。アマゾンを筆頭とした大手EC業者が行う熾烈な価格競争がオフライン店舗にも波及した結果、社会全体の物価上昇が低く抑えられるというものだ。少し拡大解釈すれば、アマゾン効果が「デフレ」の遠因になる可能性を示唆した指摘と読み替えてもよいかもしれない。

日本経済がデフレに悩まされている、もしくはデフレが及ぼす経済への悪影響などは、経済の専門家によって多く語られているので、ここで論じること割愛したい。ただ、アマゾン効果による物価上昇率低下に拍車をかける要因のひとつに、AIアルゴリズムの存在があるという論点は見過ごせない。

アマゾンのような大手ECサービス、もしくはウォルマートのような小売大手は、価格決定を合理化(=競争力を維持)するためにアルゴリズムを採用している。細かい運用の差はあるものの、検索サイトなどから価格比較結果を分析し、迅速に価格に反映していくという仕組みが基本だ。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドから多額の投資を受ける韓国の大手EC「クーパン」も、価格決定アルゴリズムで商品の値段を自動調整している。値段調整に用いられるのは、公式オンラインストアの値段、60日価格平均などさまざま情報で、関係者がメディアに実情を明かしている。

韓国では今年9月、月間の物価上昇率が史上初めて前年より−0.4%下回った。さまざまな議論があるが、専門家のなかでは、クーパンなどECサイトのアルゴリズムも要因のひとつになっているのではとの分析がまことしやかに語られ始めている。

なお、世界の株式市場においては、アルゴリズムによる超高速取引が暴落や混乱を招く引き金なっているという話は珍しくなくなった。日本の人工知能の専門家のひとりは、次のように話す。

「神のように完璧な人工知能が人間を支配するというシナリオは陰謀論やSFでしかない。しかし、無数のAIが互いに干渉し合った結果、人間には認識しづらい影響を社会に及ぼすというのはあり得る話だ。そして、金融の世界では実際にそれが起こっている」

消費税が増税され、デフレ圧力が高まるとされている現在、アルゴリズムによる”価格最適化”は日本経済にどのような影響を及ぼしていくのだろうか。EC率がまだまだ低く、これから市場が拡大していくとされている日本においては、真摯に目を向けるべき課題のひとつとなるかもしれない。

一方で、「効率化のための人工知能」(現在、実用化されているほぼすべてのAIがこの範疇)が孕むリスクも解明される必要がある。というのも、AIがもたらす効率化の果てに、人間が想像もしてなかったような「バットエンディング」が潜んでいる可能性は決して否定できない。

「仕事を奪う」という話題は表層の問題で、より構造的には「社会の閉塞感を強化する」という方向にAIが作用しないとは誰も言い切れないのだ。同時に「付加価値を生む人工知能」をいかに生み出すかという議論も、イノベーションを目指す研究者やビジネスパーソンのなかで深められるべきだ。

節約のための人工知能が飽和し始めた現在、富を生む人工知能の存在が強く求められている。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」

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