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アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み

Reuters のロゴ Reuters 2017/09/27

[北京 25日 ロイター] - 野球帽にブカブカの黄色いTシャツ姿の李毅杰さん(23)は、「ピッシー」の愛称で知られる中国では有名なラッパーだが、同国を支配するお堅い共産党の顔としては似つかわしくないルックスだ。

李さんのラップグループ「天府事変」は、習近平国家主席が掲げる世界における中国の国家主義的ビジョンとも重なる「紅色力量(Force of Red)」や「這就是中国(This is China)」といった楽曲を発表し、ファンや共産党青年団からの支持を得ている。

アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み © REUTERS アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み

来月開催される共産党大会で2期目の新たな5年間を迎える習主席のもとで、保守的な同党も、社会における自らの役割に新しい活力を与えようとしている。国が裕福になり、人の移動も増え、デジタル化が進むにつれ、従来の権力が試されている。

高学歴なミレニアル世代の多くが、厳しい雇用市場や大都市圏における住宅費の高騰に直面し、自身のキャリアや将来に希望を見いだせずにいるなかで、共産党も自身の現代化に取り組んでいる。

こうした努力の一環として、共産党はラップグループ「天府事変」のような自国のポップカルチャーも取り入れるようになった。だがその一方で、狭まりつつある許容範囲を逸脱したインターネット上のコンテンツやエンターテインメントに対する取り締まりを強化している。

もし党が「古いやり方に固執するなら、若者から拒絶されるだけだ」と李さんは言う。グループ名の「天府」は、出身地である四川省の州都・成都の辺りを指している。

「若者がもっと愛国心を抱けないのはなぜか、と声を上げる必要がある」と、李さんは北京で行われたインタビューで語った。

「われわれはこうしたシステムに入らなければならない」と李さん。「1990年以降に生まれた世代がシステムに入っていかなければ、国はどうなってしまうのか」

アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み © REUTERS アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み

中国政府も同じ考えだ。

同政府は、ほかにも男性アイドルグループ「TFBOYS(ティー・エフ・ボーイズ)」のようなバンドを活用している。10代のメンバー3人はそれぞれ、中国版ツイッター「新浪微博(ウェイボー)」で3000万人近くフォロワーがおり、党のメッセージを拡散させるのに役立っている。同グループは党青年団のイベントにもよく出演している。

「このようなプロパガンダは、聴衆のニーズに合っているという点で一歩前進している」と、北京外国語大学で副教授を務めた経験のあるメディア研究者の乔木氏は指摘。

「一般市民は今では、(共産党機関紙の)人民日報や(国営の)中国中央テレビ(CCTV)による古めかしい、説教じみたやり方を拒絶している」と同氏は説明する。

1990年代以降生まれの世代に人気の「ビリビリ動画」のアカウントでは、共産党の青年団が今年に入り、愛国的なラップミュージックの合間に国防省ブリーフィングのような従来のコンテンツを挟み込んだ動画を数多く投稿している。

また、イメージやサウンド、キャッチーな音楽が繰り返されるテンポの良いある動画では、当局に対するスパイと疑われる人物に注意し、通報するよう市民に求めている。

<紅色力量>

ラップグループ「天府事変」は2016年、時にののしるような言葉に満ちた歌に、愛国的な価値を込めることで、スターの座に上り詰めた。「紅色力量」という曲は、中国が自国の一部とみなす台湾の蔡英文総統を攻撃している。

「中国は1つだけ。香港や台北は同志だ」と同曲の歌詞にある。また、「遠く離れ、振る舞い方を忘れてしまった。犬でも感謝のあまり吠えながら、家に帰ることを知っている」と、蔡政権をののしっている。

アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み © REUTERS アングル:ラッパーが中国共産党の顔に、音楽で若年層取り込み

同曲のビデオはネット上で拡散し、ウェイボーのグループアカウントでは視聴回数が700万回を超え、党員9000万人強を数える共産党のエリートを育成する青年団の目に留まった。

天府事変が次に発表した曲「這就是中国」は、青年団が支援する音楽スタジオが制作をサポートした。これ以外、金銭的支援は一切受けていないと、同グループは言う。

南シナ海の領有権を巡り、国際的な仲裁裁判所が中国の主張を退ける判断を下したことを非難して、中国が昨年9月、実効支配する永興島に同グループを送り込み、音楽ビデオを撮影させて以来、両者の関係は深まった。

天府事変は現在、政府の宣伝関連機関に広くつながりをもっていると、李さんは説明する。アイデアを交換するため当局者からよく食事に招待され、そのお返しに、より健全な内容を求める政府の活動に沿うよう、行動を改めているという。

彼らが作る曲は臆面もなく中国を支持する一方、汚染された食品や汚職、環境汚染といった現代中国の抱える問題にも触れている。

「自分たちの曲に含まれた道理をわきまえた批判には意味があるが、やみくもに不満を言い続ける人たちは軽蔑する」と、李さんはロイターに語った。

だが、誰もが天府事変のファンというわけではない。

故毛沢東主席を称賛する同グループの曲は、混乱と暴力が渦巻いた文化革命(1966─1976年)を美化しているとして、ネットでは批判も見られる。一部の歴史家は、同革命で約150万人が命を落としたと推定する。

また、同グループを、政府から金をもらって愛国的なコメントをネット上に投稿する集団「五毛党(五毛は約55円)」と呼び、宣伝マシーンだとして一蹴する人たちもいる。

<異端>

中国では長いあいだ、反体制文化や破壊的芸術は異端であったが、習近平時代に入り、政治的に不適切と思われる資料を禁止したり政府批判を取り締まったりといった検閲によって、そうした文化はほぼ姿を消した。

国際的に最も認められている中国の芸術家、艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏は中国政府を厳しく批判したことで、軟禁生活を強いられ、2015年に母国を去った。同氏は2008年の北京五輪会場となった鳥の巣スタジアムの設計に携わっている。

かつてはロックンロールの反逆者たちも検閲を抑えるため行動を改めるか、わきに追いやられた。

艾氏とのつながりが疑われ、2011─14年に政府から活動を禁じられた音楽プロデューサー、左小祖咒氏は、政府の方針に従うことを選んだ1人だ。

「大変苦労したが、今では比較的社会に受け入れられるイメージを確立した」と、左小祖咒氏について彼の代理人はロイターに語った。慎重を要する問題ゆえ、代理人は同氏への取材を拒否した。

1989年に北京の天安門広場で起きた学生民主化運動の愛唱歌となった「一無所有」を作ったアーティストの崔健氏は、2014年に国営テレビの番組から降りた。この曲を歌ってはいけないと言われたのが理由だと、同氏のマネジャーは当時語っていた。

その一方で、党の方針を受け入れた映画や音楽は国による支援の恩恵を受け、中国の巨大なファン層を獲得していった。

明らかに愛国主義的な映画「戦狼2」は7月の公開後、中国で興行収入の首位に立った。それには、国営メディアの強い後押しも一役買っている。

グラミー賞を主催する米レコーディング・アカデミーは先月、受賞アーティストによる中国ツアーを企画しているが、「ポジティブで健全なイメージのアーティスト」しか宣伝できないと語った。

ラップグループ「天府事変」の李さんは現在、来月の共産党大会を控え、曲作りに励んでいる。そのタイトルは「習近平国家主席への手紙」だ。

だが、李さん自身は党に属していない。反抗的な若者にはいくぶん敷居が高いらしい。

「あまりに面倒で複雑なので、入党申込書が書けない」と李さんは語った。

(Pei Li記者、Tony Munroe記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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