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アンコール!アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2016/12/14

 この12月17日(土)から来年の1月13日(金)まで、シアター・イメージフォーラムにて、タイの映画監督、アピチャッポン・ウィーラセタクンの特集上映が始まる。題して「アンコール! アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016」。

 上映作品は、すでに一般公開された「ブンミおじさんの森」(2010年)、「世紀の光」(2006年)、「光りの墓」(2015年)の3作品に加えて、長編初監督になる「真昼の不思議な物体」(2000年)、東京フィルメックスで最優秀作品賞を受けた「ブリスフリー・ユアーズ」(2002年)、やはり東京フィルメックスで最優秀作品賞と、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受けた「トロピカル・マラディ」(2004年)の6作品である。

 ほかに、特別上映として、アピチャッポン監督がマイケル・シャオワナーサイと共同で監督したミュージカル・コメディの「アイアン・プッシーの大冒険」(2003年)が上映される。さらに、関連上映として、アピチャッポン監督の故郷であるタイの東北部、イサーン地方を舞台にした「トーンパーン」(1976年)と、「東北タイの子」(1982年)の2作品。

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「ブンミおじさんの森」

 アピチャッポンは、タイの映画監督であるだけではなく、美術作家でもある。映画のどのシーンにも、アート作家としての美意識、世界観が強烈ににじみ出ている。ひとことで言うと、豊穣なイメージ。当初、「ブンミおじさんの森」に魅せられた。そもそも、人間の記憶とはどういったものかが、豊かな自然のなかで綴られる。19年前に妻を亡くしたブンミおじさんは、腎臓病が悪化、すでに死期を悟っている。ブンミおじさんは、妻の妹を自らが経営する農園に呼び寄せる。そこに、亡くなった妻や、数年前に行方不明になった息子が、姿、形を変えて現れる。やがて、ブンミおじさんは、愛するものたちといっしょに、森の中に入っていく。大きな自然の前では、人間などは、まさにちっぽけな存在。生きとし生けるものは、すべて土に、自然に戻っていく。サスペンスにあふれ、豊穣なイメージが、相次ぐ。

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「世紀の光」

 驚きは続く。次に見た「世紀の光」にも引き込まれた。まるで、白昼夢でも見ているような感覚におそわれる。緑豊かな田舎の病院と都会にある白いトーンで統一された病院で、ほぼ同じようなシーンが出てくる。医師といえども人間である。恋をするし、言い寄られることもある。映像は静謐なのに、見ているほうの感情は、揺さぶられ、飛び跳ねているよう。

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「光りの墓」

 さらに、「光りの墓」では、寓意を込めたメッセージがあふれる。やはり病院が舞台。兵士たちが原因不明の眠り病で入院している。そこに、前世や過去の記憶を知る能力を持った女性が登場する。病院の場所は、はるか昔、王の墓だった。病室には、世の汚濁を吸い取るかのようなパイプがあり、その色が変化する。

 アピチャッポン監督は、こういった、一見、不思議な映画を撮る。不思議だけれど、なぜか、その映像世界、語り口に引き込まれてしまう。以前に撮った映画を見てみたくなるのも当然だろう。「真昼の不思議な物体」を見た。タイの東北部の村、行商人の女性が出てくる。撮影しているカメラマンに促され、女性はある物語を語り始める。それが、少年たちや伝統演劇の劇団員たちが、物語を受け継いでいく。タイトル通り、ある女性のスカートから、不思議な物体が飛び出していく。ドラマともドキュメンタリーともいえるが、どちらでもあって、どちらでもない。ひょっとしたら、これまた、すべて夢かもしれない。モノクロームの荒れた粒子が、妙にリアル。いったい、この次は、どのような映像が出てくるのか。見る側の緊張が続く。

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「トロピカル・マラディ」

 「トロピカル・マラディ」は、愛し合う男性ふたりが登場する。ただし、映画を貫くトーンが、徐々に変化していく。映画の空気感は、やがて不穏なものに変貌していく。変貌して当然である。中島敦の「山月記」をひもとくまでもなく、人間は、自意識だけで、虎や猛獣になることさえあるのだから。

 「アイアン・プッシーの大冒険」は、共同監督のマイケル・シャオワナーサイが、女装のスパイ、アイアン・プッシー役で出演している。スパイは、富豪の邸宅にメイドとして潜入し、大騒動を起こす。ミュージカル仕立てのエンタテインメント。随所に、アピチャッポンのセンス、好みが入り込んでいる。

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「トーンパーン」

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「東北タイの子」

 アピチャッポン監督の故郷、タイの東北部イサーン地方がどのようなところかが分かる作品が「トーンパーン」と「東北タイの子」。「トーンパーン」は、70年代にじっさいにあったダム建設問題からヒントを得た作品。「東北タイの子」は、同名小説の映画化で、干上がった土地で暮らすイサーンの農民の貧しさが伝わってくる。70年代、80年代のタイでは、すでにレベルの高い映画が撮られていることが分かるだろう。

 アピチャッポン映画の魅力に、タイ映画の名作が堪能できる。この年末年始、おすすめの見るべき特集上映と思う。(文・二井康雄)

<作品情報>

『アンコール! アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016』

シアター・イメージフォーラム

2016年12月17日(土)~2017年1月13日

公式サイト

(C)Kick the Machine Films

(C)Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films / Geißendörfer Film-und Fernsehproduktion /Match Factory Productions / Astro Shaw

(C)The Isan Film Group

(C)Five Star Production Co., Ltd.

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