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イオンシネマが子ども映画を重視するワケ 『劇場版 ゆうとくんがいく』に込められた戦略とは

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2014/06/12 東洋経済オンライン
イオンシネマが子ども映画を重視するワケ © -C-東洋経済オンライン イオンシネマが子ども映画を重視するワケ

  4年に1度のサッカーのW杯イヤーを迎えた2014年。イタリアの名門サッカーチームFCインテルに所属する長友佑都選手をモデルにした子ども向けのアニメ作品『劇場版 ゆうとくんがいく』が、5月31日から全国のイオンシネマにて独占上映されている。

  この“ゆうとくん”が主人公の成長物語は、全国のケーブルテレビおよびCS放送で放送中のディズニーXD のショートアニメがベースになっている。第一線で活躍する現役サッカー選手を、日本で初めてアニメ映画の主役に抜擢し、さらに選手本人が監修を行うという本格的な作品作りを行っている。

  実はこの作品、映画館「イオンシネマ」を運営するイオンエンターテインメントが自ら配給する作品で、全国のイオンシネマで公開されている。今回、イオンエンターテインメントの小金沢剛康プロモーション部部長に、業界ナンバーワンのスクリーン数を誇るイオンシネマを擁する同社が、なぜこうした作品を配給するのか。その取り組みと狙いを聞いた。

 ――もともとこの『ゆうとくん』は1分ぐらいのショートムービーから派生したものですよね。

 CSのディズニー・チャンネルで放送されていた60秒のショートアニメで、それが全部で26話ありました。もともと当社はそこにはかかわっていなかったのですが、そういう番組があることは知っていました。そんなとき、(制作プロダクションの)白組さんと、これを映画化するのはどうか、といった話があり、そこからスタートしました。

 ――ファミリー層向けの企画ですね。

 基本的にイオンシネマは郊外型の出店が多く、車でご来場していただくことが多いので、自然とファミリー向けの劇場になっています。実際、ファミリー層のシェアは高いので、そういう意味では、会社としてもかなり気合いを入れてやっています。ですから、もともとは1分のショートアニメではありましたが、最初から、映画にしてお客さまたちに楽しんでいただける作品にできる自信はありました。

 ――長友選手を主人公にしようというのは、白組からの企画だったわけですね。

 そうです。ただ、私どもも長友佑都選手が学生時代に苦労したことは知っていましたからね。そういった苦労をしたとしても、世界ナンバーワンサイドバックと呼ばれるまでに成長して、世界で活躍することだってできるんだよと、子どもたちに伝えたかった。長友選手はどちらかといえば、努力型の人ですよね。ですから、長友さんを題材にしたアニメと聞いたときに、われわれも少しホッとしたところはありました。

 ――頑張って夢をかなえるという話は、子どもたちにも共感してもらえそうですね。

 やはり子ども向けの作品なので、わかりやすいほうがいいんですよ。特に小さい男の子なんかは、たとえ作品の冒頭で主人公が負けたとしても、それから努力を重ねて、最後に勝ったとなれば、まるで自分のことのように喜んでくれますからね。だからこそ、ぜひともファミリーで見てもらいたいと思っています。

 ――イオンシネマが子ども向け作品に力を入れる理由について教えてください。

 理由は2つあります。ひとつは、立地的な条件や、車を中心としたアクセスの面などから、ファミリー層が非常に多いということ。

 それからもうひとつは、映画業界そのものの観客動員数がずっと横ばいになっているという状況の中で、映画人口は増やしたい、と考えたことです。もちろんリピート率を増やしましょうとか、シニアの映画館離れを防ぐために、きちんとわかりやすいサービスを導入しましょうとか。いろいろと考えてはいるのですが、それよりも映画館デビューそのものの早期化を図ったほうが早いのではないかと思ったのです。

 たとえば「初めて見た映画は?」と聞いたときに、「ドラえもん」や「ポケモン」と答えるお子さんは多いのですが、それも「5歳か6歳のとき」と答えるケースが多い。だったら、それを3歳から普通に映画館に来られるようにしたらどうだろうかと考えました。やはり映画館に慣れてもらうことが必要になるわけです。極端に言えば、1歳くらいから日常的に映画館に行っていれば、映画館そのものが身近なところになる。そういった空気を作っていくことが、大事なミッションなのです。

 ――お子さんに映画館に来てもらうための試みのひとつとして、作品によっては、場内を明るくして上映していると伺っています。

 『ゆうとくん』ではそれはやりませんが、1~2歳の子どもたちに楽しめるようなコンテンツを上映するときには、3つの試みを行う場合があります。まずは場内を明るめにすること。音を小さめにすること。そして温度設定をよりこまめにやるということ。お客さまにはあらかじめ、そういう映画ですよ、ということを告知しておきます。

 この3点に気をつけることになったのも、グループインタビューやネットでの調査なども含めた、ママたちの生の声をいろいろと聞いてみた結果なのです。お子さんが『アンパンマン』を見たいと言うので、映画館に来たのですが、いざ映画館に入ったら暗いし、音が大きくて、やっぱりだめだったと。映画館っていい意味でも悪い意味でも非日常的空間ですからね。ロビーに来た瞬間からもう緊張しちゃうという。

 ――子どもは興奮しますからね。

 ママからはいろんな意見をいただきましたが、中でも「場内が暗い」「音が大きい」という2つが群を抜いてトップでしたね。それならば場内をやや明るくして、音を少し小さくしましょう、といったことなのです。

 そのほか、ベビーカーに座っていれば、それなりに落ち着いているから、できればベビーカーのまま入って、そのまま座らせたい、とか。あるいは、上の子が3歳で、その子はなんとか我慢できるのですが、下の子は1歳で預けられないから、抱っこしようとするのだけど、泣いてしまう。だからベビーカーでそのまま入って、その子だけ寝かしておきたいとか。いろいろなお声をいただきましたが、それらを全部かなえたらどうなるだろう、というところからスタートしたのがこの試みですね。「多少泣いても騒いでもお互いさまですよ」といった空気の中で上映してみるのが、いいんじゃないか、ということになりました。

 ――それから温度を調節をこまめにやるとおっしゃっていましたが。

 もちろんひとつの映画館に9~10のスクリーンがあるため、常時、人間が張り付いているわけではないのですが、それでもチェックは細かくやっています。しかし、子ども向けのプログラムのときとなると、さらにチェックの頻度を高めています。かなり細かく温度と湿度を見て、あとは体感で判断して、こまめに温度調整を行います。

 ――最適な温度というのはあるのですか?

 こればかりはスクリーンの大きさやお客さまの数、季節によっても変わるので一概には言えませんが、26度がベストのときもあれば、25度がベストのときもあります。それから劇場の構造によっても、風の回り方がかなり変わってきます。これは温度だけでは計り知れないものがあるため、そこはスタッフが実際に体感した温度を基に判断しています。

 ――料金的な部分ではどうですか? たとえば『れっしゃだいこうしん』は子どもの入場料が500円だったと思うのですが。

 そこは本当に悩みどころです。『れっしゃだいこうしん』は1歳児や2歳児が多く、映画館デビュー的な意味合いが強い作品なので、トライアルという意味合いを込めて500円にしています。どうしても家族全員で見ていただきたい作品ではありますから、どこまでなら値段が下げられるのか、という収支計算は、けっこう緻密にやります。やはりお母さんは家族単位で入場料を計算するので、親の金額を下げるのはひとつの方法かなと思いました。それとわかりやすいということから、オール1000円という値段設定になりました。

 やはり制作のコストとかそういったものも含めての計算になりますから、入場料の価格帯は本当にバラバラですね。このコンテンツはこんな作りだから500円ですとか、はっきり言えない部分もあります。ただ、500円なら見るけど、1000円なら見ない、というふうになっても意味がない。その辺は過去の作品を振り返りながら価格設定をしています。

 ――子ども向けアニメと言えば、シリーズ化されて成長するものが多いと思います。将来的にシリーズ化するようなアニメを作ろうといったお考えはありますか?

 それは当然ありますね。とにかく今までは、いろいろなジャンルの作品をやってきましたが、そのうちで、シリーズでいけそうなものが2つ生まれました。ひとつが先ほどお話した『れっしゃだいこうしん』シリーズ。もう6作品を作りました。最初は本当にお客さまが少なくて「失敗したな」と思っていましたが、2回目をやってみたところ、前回よりは入った。それからは、やっていくごとに、いろんなものを改善していって。そうすると、それだけお客さまが入るようになったのです。

 ただし、これは前に映画を見た子どもたちがそのまま、また来るわけではないわけのです。結局、多くの子どもたちが電車の趣味を卒業してしまうわけですから。それから次の世代にリフレッシュされるまでのちょうどいいタイミングが1年である、ということにも気づきました。それから1年ごとにやっていくわけなのですが、やはり数字が上がっているのです。それは宣伝の仕方を覚えたということもあるかもしれません。まずはこれがひとつ。

 そしてもうひとつは「こどもの映画館シリーズ」です。前回は『沖縄美ら海水族館』を取り上げたのですが、この座組で第2弾を近いうちにやろうと思っています。それから夏が終わったら第3弾、第4弾というものも想定しています。もちろんドキュメンタリーにこだわっているわけではないのですが、自然と今、そんな感じになってきています。

 ――イオンシネマといえば当然、ファミリー路線が基本ラインだとは思います。その一方で、IMAXが人気を集めるなど、高付加価値化の波が来ているように思います。そのあたりの考えを教えてください。イオンシネマでは、幕張などに巨大スクリーンのULTIRAや、高音質のドルビーアトモスなども投入されています。

 劇場のスペックも含めてお客様を呼ぶことはもちろん重要なことなので、取り入れるところは取り入れて。その努力は惜しまないようにはしています。

 高級感という意味では、どちらかといえば、コンテンツのほうがそういったことは意識しているのかもしれません。たとえばイギリスのロイヤルオペラハウスから、バレエの中継を行ったりとか。少し着飾った方々が来るような、そういったライブビューイングのようなものも、取り組みのひとつとしてやっています。もちろんコンテンツによるのですが、オペラや落語なども上映してきましたし、これからもそういった動きは継続していこうと思っています。

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