古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

エル ELLE【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2017/08/23

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 チラシに「世界初の気品あふれる変態ムービー」とある。変態ムービーに気品があるとは思えないが、ともかく、ごひいきのイザベル・ユペールが出ている。この女優は、どのような役柄でも、達者にこなす。「エル ELLE」(ギャガ配給)は、「氷の微笑」を撮ったオランダの監督ポール・ヴァーホーヴェンが、フランスで撮った新作である。さぞ、サスペンスたっぷりの、エロチックなシーンを見せてくれるのではないか。これだけの予備知識だけで、見たいと思う。

© Provided by Excite.ism

 今年開催されたフランス映画祭で上映、真っ先に見た。とにもかくにも、これはおもしろい。ほとんど、イザベル・ユペールのひとり芝居だが、女性のさまざまな側面がくっきり、あきさせない。原作がある。映画「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」の原作者、フィリップ・ディジャンの小説「oh...」の映画化である。

© Provided by Excite.ism

 イザベル・ユペールは、ゲームソフトの製作会社の社長ミシェル役。ミシェルは覆面をした男にレイプされる。だが、警察には届けず、なにもなかったかのように振る舞う。母親とその若い愛人、会社の部下たち、息子とその婚約者、別れた夫、向いに住む夫婦と、ミシェルの周囲は、いずれもいわくありげ、欠陥を抱えていたり、一癖二癖もある人物ばかり。そこに、かつて凶悪な犯罪を犯したらしいミシェルの父親の影が忍び寄る。ミシェルは、自らの手で、犯人探しを始める。そして、衝撃の真実が、つぎつぎと明らかになっていく。

 フィクションとしての骨格、構造が、よく出来ている。なによりも、ドラマが展開するにつれて、ミシェルが、いったいどのような女性なのかが、ますます分からなくなっていく。だから、おもしろいのだろう。

 映画は、いわばなんでもあり。サド、マゾ、レズ、セクハラと、一歩まちがえば、アンモラルで低俗な映画になりかねない。ミシェル役をイザベル・ユペールが演じたからこその気品が漂う。コピーの「気品あふれる変態ムービー」は、あながち間違ってはいない。

© Provided by Excite.ism

 映画には、さまざまなジャンルがあり、どのような映画でも、とりあえずは、どれかのジャンルに分類される。「エル ELLE」もまた、どれかのジャンルに分類されるとは思うが、これが難しい。エロチック・サスペンス、でもない。強い女性が活躍するミステリー、でもない。女性の心理、生理を描いた心理劇、でもない。人間の俗物ぶりを糾弾したドラマ、でもない。さらに、艶笑コメディふうのシーンや、辛辣なセリフが多く、思わず苦笑い。そんなコメディでも、ない。

© Provided by Excite.ism

 ポール・ヴァーホーヴェン監督は、多くの伏線を張り、意外な展開の提示を楽しんでいるかのように、観客を刺激し、翻弄する。なにしろ、犯す人物、犯される人物の異なる立ち位置が、逆転さえする。いってみれば、犯された女性ミシェルの犯人探しだが、それほど熱心に犯人を探すわけでもなく、ミシェルは、むしろより異常な状況に、身を置くように振る舞う。

 だから、事件の真相が判明するにつれて、ミシェルの本性がすこしずつ露わになっていくが、同時に、ますます、ミシェルという女性の複雑怪奇さが際だってくる。

© Provided by Excite.ism

 当初、監督は、アメリカの女優を使っての製作を考えていたらしい。ところが、かなりアブノーマルなヒロインを演じる女優がいない。イザベル・ユペールは、フィリップ・ディジャンの原作を読んだときから、映画化するなら、ミシェルを演じたいと思ったそうだ。原作者もまた、イザベル・ユペールをイメージしながら、小説を書き進めたらしい。

 いくつかの偶然が重なっての映画化である。ポール・ヴァーホーヴェンが、犯されるイザベル・ユペールを撮る。いいではないか。60歳を超えているイザベル・ユペールは、下半身が露わ、胸をはだけての、文字通りの体当たり演技。女の性を、これでもかとばかりにさらけ出す。

© Provided by Excite.ism

 内容、テーマをめぐって、賛否両論あるだろう。その見方が分かれるかと思うが、フランス人好みの艶笑話に、オランダ人の才能が、絶妙に味付けしたセクシャルなおとぎ噺。いささか常軌を逸しているからこそ、複雑な欲望を秘めた人間存在の内奥に迫ることも出来る。イザベル・ユペールの輝きが、このおとぎ噺に大輪の花を添える。

●Story(あらすじ)

 猫が見つめている。女性のうめき声。覆面をした男が、女を犯している。男が立ち去る。なにごともなかったかのように、女は床に落ちた食器や下着を、ゴミ箱に捨て、バスタブにつかる。血がバスタブに浮かぶ。

 女の名はミシェル(イザベル・ユペール)。ゲーム・ソフトの製作会社の社長である。犯された直後、息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)が訪ねてくる。ミシェルの額の傷を気遣うが、ミシェルは、自転車で転倒したと嘘をつく。ヴァンサンは、妊娠した恋人ジョジー(アリス・イザーズ)がいるのに、いまだフリーターで、やっとファストフード店に勤めることになったばかり。

 ミシェルは、医者に診てもらうが、警察には届けようともしない。警察には、よほどの不信感があるらしい。

 翌日、ミシェルは、いつもと変わらない様子で出社する。ミシェルの親友で、共同経営者でもあるアンナ(アンヌ・コンシニ)とともに、ゲームソフトの新作をチェックする。ミシェルは、エロチックでグロテスクな画面を見ても、「まだまだオルガスムが足りない」とダメ出しする。ミシェルは、デザイナーの言い分を無視する。

 ミシェルは、母親のエレーヌ(ジュディット・マーレ)のアパートに小切手を届けに行く。エレーヌは若い愛人と戯れている。「再婚するかも知れない」というエレーヌに、「母さんを殺す」と真顔で答えるミシェル。

 ミシェルは、レイプ犯に備えて、とうがらしのスプレー、斧、拳銃を準備する。

 ミシェルに、差出人不明のメールが届くようになる。着ているブラウスの色まで言い当てて、まるで、ミシェルの一挙一動を観察しているかのようだ。

 暴行にいやがらせのメール。犯人は誰か。ミシェルの周囲は、容疑者だらけだ。社員からは、ほぼ全員、ワンマンなミシェルは嫌われている。アンナは、「みんなから、恨まれているわ」と言う。ミシェルの別れた夫で、ヴァンサンの父親であるリシャール(シャルル・ベルリング)は売れない小説家だ。まだミシェルに未練のあるリシャールは、以前、ゲームの企画を持ち込んだことがあるが、拒否されたことを恨んでいるはず。明らかに金目当ての、母親の愛人にも、ミシェルは、恨まれるような態度で接している。ミシェルは、妊娠中で反抗的なジョジーもまた、気に入らない。

 ミシェルは、向いの家に住むパトリック(ロラン・フィット)とレベッカ(ヴィルジニー・エフィラ)夫妻と、日頃、近所つきあい程度の挨拶はかわすが、どこかパトリックの視線が気になっている。ミシェルは、双眼鏡でパトリックの家をのぞき見し、股間に手をのばし、自らを慰めたりする。

 ミシェルの会社で、とんでもない事件が起こる。女性がグロテスクかつエロチックに襲われるゲームソフトに、ミシェルの顔が貼り付けてある。社内のパソコンすべてに、てある。呆然としたミシェルは、この犯人も突きとめようと画策する。

 ミシェルが10歳だったころ、父親は、おぞましい罪を犯した。その容疑で服役中だった父が、仮釈放を申請したニュースが流れる。

 ミシェルと共同経営者のアンナ、ミシェルとアンナの夫、ミシェルと息子のヴァンサン、ミシェルと息子の婚約者のジョジー、ミシェルと隣人のパトリック夫妻、ミシェルと母親のエレーヌなどなど、ミシェルの周囲を、さまざまな人物がとりまく。やがて、ミシェルの本性が、次第に明らかになっていくのだが……。(文・二井康雄)

<作品情報>

「エル ELLE」

© 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY

TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET

LOUP

2017年8月25日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

公式サイト

© Provided by Excite.ism

エキサイトイズムの関連リンク

エキサイトイズム
エキサイトイズム
image beaconimage beaconimage beacon