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サーバ保守部隊は生まれ変われるか? PoC内製化を目指す旭硝子の挑戦

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/06/15
サーバ保守部隊は生まれ変われるか? PoC内製化を目指す旭硝子の挑戦: AGC旭硝子 情報システム部の浅沼勉氏 © ITmedia エンタープライズ 提供 AGC旭硝子 情報システム部の浅沼勉氏

 「われわれはバージョンアップ部隊ではなく、業務改革の担い手だ」――。そんな思いから、2015年にAWSへの移行に踏み切ったAGC旭硝子。現在では、基幹系376を含む450を超えるインスタンスがAWS上で稼働中だという。

 AWSの導入前には大規模なデータセンターを核にビジネス基盤を構築してきた同社。AWSの導入によって、何がどのように変化したのか。AWS Summitに登壇したAGC旭硝子 情報システム部の浅沼勉氏が語った。

●2年間、止まることなくAWSへの移行を継続

 浅沼氏は2年前のAWS SUMMIT 2015でも「メインフレームからクラウドへ」というテーマでAWSに関する同社の取り組みを紹介している。今回、同氏が語ったのは、“その後”の話だ。

 AGC旭硝子がAWSの採用を決めたのは、2014年の8月。実際のサービスでは、2015年6月にIRMソリューション、2016年1月にSAPの利用をAWS上で開始している。結果、AWS導入当初には78だったインスタンスが、現在では基幹系376、基幹系外76の合計452にまで増えている。浅沼氏によればAWSのインスタンスは、「2日に1台くらいのペースで増えている」という。同社では、今後もAWSの利用を推進していく計画だ。

 基幹系をAWSに移行することで、同社ではオンプレ運用時に比べて約3割コストが下がったという。しかも、これにはデータセンターの費用と運用削減費用が含まれていないため、実際のコスト削減効果はそれ以上になる。

 しかしながら、同社がAWSの導入に踏み切ったのは、コストダウンが第1の目的ではない。同社が目指したのは、“デジタル化による社内文化の刷新”だ。基幹システムを含む社内システムをAWSに移行することで業務のスピードが上がり、社内改善のアイデアを効率的に実現化するためのシステム導入も可能になるという。

●AWS利用にまつわる3つのテーマと「ALCHEMY」

 AGC旭硝子では、AWSの利用に際して「標準化」「DC戦略」「クラウド×情シス」という3つのテーマを軸にシステムの構築・運用がなされている。

 同社では、基幹系で376インスタンスがAWSで起動し、62のシステムが稼働している。特徴的なのは、これらで使われるソフトウェアやソリューション、開発・保守を行うベンダーなどが統一されておらずバラバラなことだ。それでも、同社のサービスは次々とオンプレミスからAWSに移行できた。そのカギは「標準化」。同社では、この運用法を実現するために「超基幹特化型標準化」というシステムデザインのイメージを考案した。

 前職がSIerである浅沼氏の印象では、ベンダーの中にもAWSを完璧に理解している人はまれだという。また、「文書によるガイドラインは拘束力が不十分で、さらにテクノロジーが進化するスピードをフォローするには向かないと感じていた」と振り返る。そこで同社では「ALCHEMY(アルケミィ)」と呼ぶ仮想的なサービスを創造し、これを介してAWSのサービスをユーザーに提供することにした。

 ALCHEMYは、“AGC旭硝子の社内向けプライベートクラウド”と考えると理解しやすい。新しいサーバが必要なとき、一般のユーザーはインフラの担当者に申請を出す。すると、ALCHEMY上にセキュリティ設定済の仮想サーバが与えられることになる。ガイドライン文書ではなくALCHEMYという標準的なサービスの“型”を作り、AWSのサービスは必ずALCHEMYを通す。こうすることで、セキュリティをはじめ、ガイドライン文書をはるかに超えるコントロール性と堅牢性を実現している。

 「基幹システムをAWSに載せることを最初から決めていたので、セキュリティが重要です。ガチガチにしたい」(浅沼氏)

 ALCHEMYを介した同社のシステムでは、サーバの作成はもちろん、セキュリティの設定やAWSコンソールの操作も一般のユーザーにはできない。一部は申請によって操作可能になるものもあるが、基本的に利用可能なサービスはかなり絞り込んでいる。そのため、高いセキュリティを実現できているのだ。

●必要な処理はアウトソーシングを利用

 AGC旭硝子のシステムは、1つのAWSアカウントに全システムを集約する形で構成されている。このアカウントは複数の部署や関連会社が利用する。そのため、各利用分に対する費用分担の仕組みが必要になる。

 この課題に関して同社では、TerraSkyとBeeXの協力を仰ぎ、これらの請求代行スキームを利用して請求書を発行するようにしている。

 ちなみに、ALCHEMYを介した同社のサービスは、日本国内のグループ会社や関連会社からも利用可能となっている。社内部署以外からでも申請があればサーバが使えるようにすることで、ビジネス全体のスピード上げている。

 こうした使用法では、利用者が頻繁に増減して課金処理が煩雑になる。しかし、利用料金の請求サービスを活用することでシステム全体がうまく機能しているようだ。

●WAN機能を独立させた「ネットワークセンター」

 AGC旭硝子では、将来に向けてAWSの利用を加速させている。この結果、インフラの中心となっていたデータセンターの規模が縮小している。

 かつては、同社でもデータセンターがハブとなり、各拠点をつないでいた。しかし、これからはAWSがダイレクトコネクトで接続される。また、SaaSもネットワークにつながり、データセンターにあったデータがAWSとSaaSに移る。これにより、データセンターよりもAWSとSaaSの重要性が増すことになる。これは同時に、WAN経路の重要性が高まっていることを示している。浅沼氏も「費用を掛けるべきは、データセンターではなくクラウドまでのWAN経路」と語る。

 クラウドまでのWAN経路の安全性・信頼性を担保するため、AGC旭硝子では「ネットワークセンター」という仕組みを構築している。これは、データセンターからネットワークの機能を切り離したものだ。具体的にはネットワーク網に「東WAN」と「西WAN」の2つを用意し、冗長性を確保している。

 現在、同社の拠点とサービスは、このネットワークセンターを介して行われている。これにより、かつてのデータセンターは規模が大幅に縮小し、フロア単位で確保していたデータセンターが、ラック単位の契約で賄えるまでになっている。

●サーバの保守・運用から解放された情シスは何をすべきか

 データセンターの規模が縮小すれば、保守や管理をすべきハードウェアも減少する。その時、情報システム部門がやるべきことは何なのだろうか。

 AGC旭硝子では、ハードウェアの保守運用から開放された情シスを、ビジネスで新たな競争力を生む源泉の構築に活用したいと考えている。具体的には「情シスに“PoCセンター機能”をインストールしたい」(浅沼氏)という。

 デジタル化を目指す際、生まれたアイデアを実現できるかどうかを試すPoC(Proof of concept:概念実証)は重要だ。アイデアからPoCに至る工程は、素早く何度も試す環境が必要となる。また、アイデアはいつ生まれるか分からないため、PoC機能を外注するとどうしても時間がかかってしまう。そこで浅沼氏は「自社内でプログラム開発も含めて全部できないか」(浅沼氏)と考えた。

 もちろん、システムの開発経験がない情シススタッフが、いきなりこの業務をこなすには無理がある。そこで同社では「トレーナー付き自社開発」のプロジェクトを立ち上げ、PoCでこういうことをやりたいというアイデアをアジャイルで開発するトレーニングを行っているという。

 トレーナーとしてサーバーワークスに協力を仰いだこのプロジェクトは、「2週間でここまでやりましょう」というスプリントのマネジメントで進行する。既にプロジェクト開始後3カ月が経過したが、「(マインドも含めて)結構、変わる」(浅沼氏)とのことだ。

 さらに同社では、「社内向けAWS教育」と題して「AWS認定ソリューションアーキテクト−アソシエイト」の資格取得をゴールとするプロジェクトも立ち上げている。

 「開発力を身につけても、アイデアが出てこないと仕方がない。アイデアは業務の知識とテクノロジーの両方を知らないと出づらいが、情シスは業務のことは分かっている。テクノロジーの部分をAWSの技術を学ぶことで格段に上げたい」(浅沼氏)。

 このプロジェクトでは、情シスの20%以上がアソシエイト資格を取ることを目標としており、浅沼氏は組織の文化が変化することに期待している。この、情シスが取り組むジョブチェンジのてんまつについては、続編でお伝えする予定だ。

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