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ソフトバンク、なぜ「成長限界説」広がる?巨額買収の米社不振と、財務体質の悪化

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/05/01 Cyzo

 ソフトバンクの好業績が止まらない。

 直近の2014年3月期第3四半期(13年4-12月)連結決算は、売上高が前年同期比94.4%増の4兆5617億円、営業利益が同46.3%増の9242億円、最終利益が同58.1%増の4882億円。これで同社が長年の目標としてきた「営業利益1兆円達成」が、14年3月期通期で確実となった。

 それにも関わらず最近、株式市場関係者の間で「ソフトバンク成長限界説」が強まっている。その根拠になっているのが、昨年7月に買収した米スプリントの事業の先行き不透明感だ。

 ソフトバンクが2月12日に開催した14年3月期第3四半期決算説明会の中で、孫正義社長は「株式を上場して20年。振り返ると昨日のような気がするし、随分遠くまで来たものだとの思いもする」と、94年の上場当時を懐かしみながら、この20年間に売上高が100倍、営業利益が300倍、時価総額が50倍に拡大した成果を満足げに披露。そして業績については「まだまだだ。これから本気で伸ばしてゆく」と強調した。

 だが、足元では好調なはずの国内事業が、減速の兆しを見せている。

 昨年1年間で見ると、同社の契約件数の純増は344万件で、KDDI(au)の280万件、NTTドコモの119万件を大きく引き離した。ところが、昨年10-12月に限ると、同社の契約件数の純増は69万2000件で、前年同期の86万1000件から19.6%も減少している。また、14年3月期第3四半期決算の営業利益も、9242億円のうち携帯通信事業の営業利益は前年同期比22.7%増の5146億円。一見好調だが、これはガンホー、ウィルコム、イー・アクセスなど買収企業の営業利益を新規連結した結果に過ぎない。これら買収分を除いた既存ベースでは9%増程度にとどまる。「業績拡大の原動力になってきたスマホの息切れが原因」(証券アナリスト)といわれている。

 昨年9月にNTTドコモが米アップルのスマートフォン(スマホ)・iPhone販売に参入した影響で、同年10-12月のソフトバンクのiPhone販売台数は69万台となり、前年同期比86万台を大幅に下回った。市場関係者の間では「今年からはスマホ拡販による従来の成長戦略は通用しないだろう」との見方が有力だ。

 それにもまして深刻なのが、米スプリント事業の先行きだ。前出アナリストは「結局スプリント事業は軌道に乗せられず、巨額の借金だけが残る最悪事態を想定せざるを得ない」との見方を示す。

●苦戦続きのスプリント

 スプリントは95年に中堅携帯電話会社のセンテル買収により通信事業に参入、3G(第3世代携帯電話)の全米サービス展開で通信キャリア大手に成長した。ところが、00年前後に起きた米国の第2次通信業界再編で、ベライゾン・ワイヤレス(以下、ベライゾン)とシンギュラー・ワイヤレス(後のAT&Tモビリティ)が米国市場の1位と2位に台頭、携帯電話の新規契約者獲得競争が激化した。この中で両社は携帯データ通信サービスの充実や通信エリアの拡大などに活発な先行投資を続け、当時3位のスプリントと4位のネクステル・コミュニケーションズとの差を広げていった。

 これに危機感を持ったスプリントは携帯電話事業に資源を集中するため、04年に固定電話事業を売却する一方で、ネクステル・コミュニケーションズを買収。現在のスプリントになったが、この買収がその後の同社を苦しめる結果になった。

 買収でスプリントはトップ2社と加入者数の差を縮めたが、スプリントはCDMA、ネクステルはiDENと通信方式が異なっていたため、買収による相乗効果を発揮できなかった。

 そこでスプリントはWiMAX(超高速インターネット通信)サービス事業者のクリアワイヤと提携し、WiMAXサービスに参入した。それで事業がさらに混乱した。音声通信サービスではCDMAとiDEN、データ通信サービスではCDMA2000とWiMAXの計4方式のサービス運用をしなければならなくなったからだ。

●広がる大手2社との差

 同社はスマホ事業でも苦しんだ。

 07年に登場したアップルのiPhoneは約4年間、AT&Tモビリティ(以下、AT&T)が独占販売した。これにベライゾンはグーグルのアンドロイドで対抗、スマホ競争が激化した。このため、両社はスプリントの買収による通信サービスに不満を持っていた旧ネクステルユーザを狙い撃ちする「くら替え作戦」を全米で展開、スプリントから旧ネクステルユーザが大量に流出した。これで再びトップ2社とスプリントの加入者数の差が広がった。

 スプリントは現行の苦しい3G事業に加え、11年頃から本格化した4G(第4世代携帯電話)整備競争でも苦戦している。同社は11年、通信ベンチャーのライトスクエアードとLTE(次世代高速携帯通信)サービスの再販契約を締結、さらにクリアワイヤともLTEサービス再販契約を締結した。

 ところが、ライトスクエアードはGPS(全地球測位システム)端末との電波干渉問題を解決できず、無線免許の取得に失敗し破綻した。頼みの綱のクリアワイヤも資金調達難でLTE整備の遅れが表面化している。

 4G整備競争で先行するベライゾンは13年末にはLTEサービス網の全米展開を完了、同社は14年以降、AT&Tとスプリントに4G競争を仕掛けてくると予想されている。AT&Tも豊富な資金力を背景にLTEサービス網の整備を続けており、15年中に全米展開完了の見込みといわれている。それに比べ、スプリントの全米展開は17年以降と見られており、着々と整備を進める大手2社との周回遅れが明らかになっている。

 スプリントは「4G戦争」の前哨戦でも敗れ、大手の地位確保が危うくなっている。米国通信業界の動向に精通する業界関係者は、「本来なら買収対象になっていたが、独占禁止法の関係からベライゾンやAT&Tは触手を伸ばせないでいた。Tモバイルの親会社のドイツテレコムも、投資家から米国市場撤退圧力を受けており、スプリント買収どころの話ではない。そんなところへ日本からソフトバンクがスプリント買収に乗り出してきたので、米国中が大騒ぎになった」という。

 スプリントの買収成功で、ソフトバンクは念願の米国携帯電話市場進出を果たしたものの、同社の前に立ちはだかる大手2社の壁は厚い。

 昨年7月のスプリント買収直後、同社はソフトバンクのビジネスモデルに倣い、音声・データ通信が使い放題のプランを一気に30%値下げした。「新生スプリント」をアピールするのが狙いで、消費者の好評を得たが、他の大手もすかさず追随したため、同社は大きな効果を得ることができなかった。さらに、「同社は通話品質が悪い」との以前の悪評が残ったままで、同社は13年第2四半期と第3四半期の2期連続で契約件数を純減させ、大手4社の中で独り負けを続けている。米国系証券のアナリストは「ソフトバンクの買収で社内が混乱している今が加入者を奪うチャンスと、スプリントは大手2社の草刈り場になっている」と指摘する。

●財務体質悪化の懸念も

 一方、スプリントを買収したソフトバンクは、財務体質の悪化にさらされている。スプリントの12年12月末の有利子負債は243億ドル。最終損益は6期連続の赤字が続いている。加えて、負債が40億ドルはあるといわれるスプリント子会社のクリアワイヤも連結対象になったため、ソフトバンクは諸々合わせ一挙に335億ドルの新規負債を抱えたといわれている。

 このため、昨年7月8日、米格付け会社のスタンダード&プアーズ(S&P)はソフトバンクの長期格付けをジャンク債扱いの「ダブルBプラス」へ2段階引き下げた。続けて7月18日、米ムーディーズもソフトバンクの格付けを「Baa3」からジャンク債級の「Ba1」へ1段階引き下げた。

 ソフトバンク自身の有利子負債残高も、スプリント買収時は2兆7582億円だったのが、買収後の9月末には8兆8401億円へと買収前の3.2倍に膨らんでいる。さらに、スプリントはLTEサービスのインフラ投資に、今後2年間で約1兆6000億円を必要としている。この間は投資先行のかたちになるので、ソフトバンクの有利子負債膨張が避けられない状況になっている。このため「14年3月期第3四半期の決算でも支払利息が1058億円と、前年同期の4倍に急増。これが15年3月期には約3000億円と、さらに増える見通し」(証券アナリスト)といわれている。

 大手2社に行く手を阻まれ、4位のTモバイルに猛烈な追い込みをかけられているスプリントの経営を立て直すためには、LTEサービス網の早期全米展開が欠かせず、その資金を調達するため今後もソフトバンクの有利子負債膨張が避けられない。これが、市場関係者の間で「ソフトバンク成長限界説」が強まるゆえんだ。

 この懸念に対して、ソフトバンク関係者は「スプリント買収後の当社のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)に対する有利子負債は3倍程度。ボーダフォン日本法人買収直後の5.6倍に比べればかなり低い。スプリントの経営立て直しも孫社長が現地で陣頭指揮をしている。今後の設備投資資金や運転資金も、スプリントのキャッシュフローで十分賄える」と意に介していない。

 市場関係者の懸念が現実化するのか、ソフトバンクの強気が今回も勝負を制するのか、今後の動向に注目が集まっている。(文=福井晋/フリーライター)

※画像はソフトバンク本社が所在する東京汐留ビルディング(「Wikipedia」より/Jo)

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