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タッチパネルにより「物理ボタン」は消えゆく運命なのか?

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2014/05/16 ITMedia

 スマートフォンやタブレットなど、近年はタッチパネルの普及が目覚ましい。液晶ディスプレイを搭載したさまざまな機器がタッチ対応になり、それが当たり前になったことで、むしろタッチでないほうが不自然に感じられる状況も生まれつつある。タッチ対応していない機器なのにうっかり画面をタップしてしまった経験は、多くの人にあるだろう。

 タッチパネルの普及に伴い、減少しつつあるのが物理ボタンだ。例えばAndroid端末の場合、かつてはホームボタンなどに物理ボタンを採用した端末も多かったが、現在のAndroid 4.x系列ではホームボタンや戻るボタンなど、すべてがタッチ操作に置き換わっている。電子ブックリーダーも、かつてはボタンだらけの製品が多かったのが、昨今はどこをどう触ればメニューを表示できるのか分からないくらい、ボタンレスの製品ばかりだ。

 ここ数年のこうした動きは、ハードウェアやインタフェースの歴史に刻まれるようなダイナミックな変化だが、単にタッチスクリーンの精度が増したとか、ユーザビリティを追求したという理由だけでは、急速にボタンがなくなる説明として不十分だ。実のところ、昨今の物理ボタンの減少には、単にタッチパネルで代用できるからという理由以外に、メーカー側のさまざまな事情も絡んでいる。今回はこの動きについて見ていこう。

●主たる要因は「コスト」と「故障率」

 物理ボタンをそのままタッチパネルに置き換えた場合、かえって使いにくくなる点も多い。具体的には、ボタンを押した際の感触がないことや、隣のキーとの区切りを指先で読み取りにくいためにミスタイプを誘発しやすいことで、特に文字入力の頻度が高いユーザーに、タブレット向けの外付けキーボードがもてはやされる要因にもなっている。

 にもかかわらず、タッチ操作に一本化され、物理キーが姿を消しつつある背景には、物理キーを完全になくしてしまうデメリットを上回るメリットがタッチパネルにあり、かつメーカーの利害と一致しているからだ。

 真っ先に挙げられる要因がコストだ。物理ボタンの場合、自社で製造するにせよ、外注に作らせて買うにせよ、部品として独立している限り、必ず部品1個あたりのコストが計上される。これらがタッチパネルという一組のモジュールに収まってしまえば、それだけコストが浮く。

 さらに部品点数が少なくなることで、在庫管理の手間も減り、発注や入庫時の検品、棚卸しといった作業も削減できる。製造にあたっても、部品が独立せず一体化していれば、1つ1つの部品のチェックをしなくとも、通電を中心にチェックすればよいし、組み立てミスも減る。メーカーにとってはメリットだらけなのだ。

 もう1つの大きな理由は故障率だ。物理ボタンは機械部品が動いて信号を伝える構造上、外部からの突発的な衝撃に弱く、また摩耗するために寿命が短い。また物理ボタンがあるということはその周囲には隙間があるわけで、そこから粉塵(ふんじん)や水滴といった異物が侵入することで、動かなくなる危険性を秘めている。

 その点タッチパネルであれば、こうした物理的な衝撃にも強く、故障が発生するにしても突発的な故障ではなく、耐用回数の限界に基づいた寿命であることが多い。ボタン単位で部品が存在せずにタッチパネルを含めた1つのモジュールとして構成されているため、基準となる年数を迎える前に故障が起こった場合、そのモジュールを供給している部品メーカーに責任を負わせやすい、という事情もある。

 余談だが、PCおよびその周辺機器が故障する原因のうち一定の割合を占めるのが、ペットによるいたずらだ。飼っているインコがキーボードのキーをはがしてしまったという悲劇的な写真はネットでおなじみだが、それ以外にも小動物がケーブルなどをかじったり、尿をかけたりといった要因で動かなくなって修理センターに持ち込まれる機器の数は、PCおよび周辺機器メーカーが受け付ける修理品のうち、少なからぬ割合を占めている。

 これらはかなり非衛生的な状態で送りつけられることも多く、検査を行う現場の人間を悩ませる要因になっている。ペットが加えたダメージの多くは、飼い主であるユーザーにとって身に覚えがないため、製品そのものの不具合を疑い、メーカーに故障品を送り付けて検査を要求してくることが多いのだ。中にはペットが尿をかけた機器を「異臭がする」とメーカーに送りつけてくる人もいたりする。

 ペットが原因のこうした故障はほんの一例だが、機器から物理ボタンをなくすことに始まり、発熱を抑えて放熱用のスロットをなくし、かつコネクタなどにフタをつけて防塵防滴仕様にすれば、外部からの異物侵入による故障は限りなく減らすことができる。従来はどれだけ防塵防滴を心がけても物理ボタンの存在がネックになっていたのが、タッチパネルの普及によって、ようやく物理ボタンをなくせる土壌が整ったというわけである。

●インタフェースやローカライズの観点でも物理ボタンは不利

 まったく別の観点で、物理ボタンに加えてタッチパネルが優れている点がある。それはインタフェース設計の自由度の高さだ。

 例えばAndroid4.x端末では、端末を90度回転させると、それに連動してホームボタンや戻るボタンが画面の下部に来るようキーレイアウトが書き替わる。また画面の内容に応じてボタンの種類を差し替えたり、あるいはボタンそのものを非表示にして画面の領域を広く取るといったことができる。これらはいずれも、物理ボタンでは不可能な仕様だ。

 もう1つ見逃せないのが、ローカライズの容易さだ。製品を国外で販売する場合、機器本体の表示言語をその国の言葉に変える必要がある。例えばボタンに書かれた「戻る」というラベルを「Back」に変更するといった具合だ。作業自体の難易度はそれほど高くないが、在庫管理の観点では、国内仕様の製品と海外仕様の製品、同じハードウェアであるにもかかわらずシルク印刷だけが異なる2種類の製品を在庫として持たなくてはいけなくなる。

 そもそもボタンのシルク印刷は、製品が完成してから行われるわけではなく、部品を製造する工程の中に含まれる。そのため、シルク印刷の内容を変えるとなると完成品はおろか仕掛かりの部品までもが倍の在庫を持つことになり、よほどの量を売らない限りは、労力に見合った対価が得られない。物理ボタンをなくしてタッチパネルに統合し、ラベルもスクリーン上に表示するようにすれば、ソフトウェア上で切り替えられるようになり、こうした問題が一気に解決するのだ。

 一昔前まで、こうしたボタンのローカライズに対応するため、テキストラベルを使わずにアイコンを使ってユニバーサル化する試みがあちこちでなされていたが、うまくいっていたとは言い難い。その点、すべてがタッチ化すれば、根本的なところから一気に解決できるわけだ。後はソフトウェア上でラベルを変更できるようにし、出荷先の国に合わせて書き換えるか、あるいはユーザー自身に選ばせればよい。

●物理ボタンはますます肩身が狭い世の中に

 以上、複数の要因を見てきたが、これらはいずれもタッチパネルの精度が上がって主インタフェースとして信頼に耐えうるものになり、製品を開発する側もノウハウがたまり、タッチパネルそのものの価格も下がり、そしてユーザーも慣れるといったサイクルによって実現したものだ。

 キーボードに代表されるように、物理キーであるがゆえのメリットはいまだ健在だが、ここまで見てきた数多くの要因が、タッチパネル化による物理キーの排除を後押ししている。この流れが後戻りすることは、今後はちょっと考えにくいだろう。

 では物理ボタンが今後完全に消え失せてしまうかというと、これもまた違う。いざ故障が起こった際に修理が簡単なのは物理ボタンのほうだからだ。それゆえ現場での素早い対応が必要になる工業用の機器などでは、物理ボタンからタッチパネルへの移行はごく限定的なものになると考えられる。

 また当然のことながら、タッチパネルに通電するためのボタン、つまり電源ボタンは、防塵防滴といった加工が施されることはあっても、基本的にこのままの形で残り続けるだろう。

 さらに民生用の機器でも、ここまで述べてきたメリットを上回る別の理由があれば、継続して物理ボタンが使われるはずだ。例えば「iPhone 5s」は、ホームボタンには今なお物理ボタンを用いているが、ボタンとしての機能に加えて指紋認証の機能が追加されていることが、タッチパネル化しない理由の1つとなっている。

 タッチパネルそのもので指紋認証を行う技術もすでに存在はしているが、まだ普及に至ってはおらず、コストなどもネックになるものと考えられる。タッチパネルでは実現できないプラスアルファを、可能なコストの範囲内で追加するために、物理ボタンを維持することが最善の選択肢として判断されたということだろう。

 もっともiPhone 5では、先日もスリープ/スリープ解除ボタンが良品交換の対象になるなど、まさに本稿で述べてきた物理ボタンであるがゆえのデメリットをさらけ出す格好になっている。そもそも無償交換という施策を、新製品が出るたびに繰り返していては、製品どころか事業の存続に関わってくる(こうした場合、部品の製造元である外注先メーカーに交換コストを全額負担させる可能性はあるが)。

 今回はホームボタンではないものの、ホームボタンで同じような不具合が繰り返し発生し、それが検品の強化や内部の改良で改善できないと判断された場合、たとえ機能的には後退しても、物理ボタンの廃止が行われる可能性はある。物理ボタンにとっては、ますます肩身が狭い世の中になっていきそうだ。

[牧ノブユキ,ITmedia]

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