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デジタル時代に考えるべき、アナログの感性と情報の使い方

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/01/26
デジタル時代に考えるべき、アナログの感性と情報の使い方: 「情報」をうまく使う人とは? © ITmedia エンタープライズ 提供 「情報」をうまく使う人とは?

 筆者が企業から受けるコンサルティングの依頼の中に、新人教育がある。ただ、企業によっては現場に足を運ぶ頻度が多くても月に数回程度、メールやメッセンジャーでのやり取りを求められる場合も多い。実際に足を運んで依頼企業の文化や習慣を理解してから講義などを行いたいが、それが難しい場合は依頼に応じるべきか悩む。

 そのような制約の伴う依頼を引き受けた場合でも、受講者がなるべく落第しないように気を付けているが、実際に指導するとやはり個人差が出てくる。そこで2016年に実施したアンケートの結果を分析してみると、デジタルとアナログの情報活用において、ある傾向が見えてきた。

●優れた人にみられる「情報」の活用手法

 まだ因果関係をきちんと分析しきれていないが、その傾向とは、「洞察力」が優れている受講生の情報活用にあった。洞察力に優れた受講生は、ニュースソース――ここでは情報セキュリティに関する話題の入手先――にデジタル情報とアナログ情報をバランス良く活用しており、一般の受講生に比べてもその差は圧倒的だ。

 デジタル情報とは新聞のデジタル版やまとめサイト、動画共有サイトなどであり、アナログ情報とは新聞や雑誌といった紙媒体である。どちらかを一方的に利用している受講者は、例えペーパーテストには強くても、知識を応用した洞察力や問題解決能力はかなり低い傾向を示した。サンプル数が少ないので参考程度だが、この結果はとても興味深い。

 筆者は、このような傾向があるのではないかと以前から予想しており、アンケートを実施したことがある。受講生でもニュースソースは複数確保しているだろうと思い、アンケートでは「あなたが思いつく限りのニュースソースを挙げてほしい」と尋ね、さらに「その中で重点的に利用していると思うものを3つだけ挙げてほしい」と質問した。

 その結果、一人の受講生が閲覧するニュースソースの数は14ほどだった。これは思いつく範囲で挙げられた数となることから、本当に活用しているものを把握する目的で上位3つを回答してもらったわけだ。そこで挙げられたニュースソースの傾向から、受講生を次の3つのグループに分類した。

・3つともデジタル情報のみを挙げたグループ

・混在しているグループ

・3つともアナログ情報を挙げたグループ

 洞察力に優れた受講生が「混在しているグループ」に多いことは、上述した通りである。

●デジタルとアナログの使い方

 目的の情報をピンポイントで入手する場合には、検索性などに優れるデジタル情報が最も早いだろう。一方でアナログ情報は、目的の情報をピンポイントで入手するというより、その周辺にある情報を含めて入手してしまいがちになる。新聞や雑誌で目的の記事を読もうとして、隣に掲載されている全く関係のない記事に、つい興味が向いてしまうようなことだ。しかし情報量は、「目的情報+アルファ」となるアナログ情報の方がデジタル情報よりも圧倒的に多いだろう。

 それでは、両方の情報ソースをバランス良く活用している人は、なぜ洞察力に優れているのだろうか。筆者は、「直線的な情報」のデジタル情報と「ごった煮状態の情報」のアナログ情報がほど良く混ぜ合わさると「とてもおいしい情報」になるのでは――と考えている。

 余談になるが、例えばその昔、音楽を入手する方法はほとんどレコードだった。「ドーナツ盤」と呼ばれるレコードには、ヒット曲とその裏面(B面)に同じ歌手の別の曲があった。「抱き合わせ販売」にも近いものだが、「B面がどういう曲か?」というおまけ感覚の聞く楽しみがあった。しばらく聴くと、表面のヒット曲よりB面のマイナーな曲が方が好きになるということが往々にしてあり、かなり楽しめるものであったこれは「ごった煮状態の情報」のアナログ情報の典型例といえるだろう。

 また書店では、本のタイトルを隠して帯に感想や特徴だけを表示して陳列するケースがある。本の購入はある意味で究極の一点買いだ。本のタイトルを隠されることは購入客にとって怖いが、感想や特徴だけを見て「むしろ読んでみようか」と意識してしまう。売り手のその発想はすばらしく、結果は好評だという。

 これらは、デジタルにはない感性だ。デジタルの情報は、あくまで対象物をピンポイントで探すことや利用することに長けている。そこに紐付くキーワードもはっきりとしており、ぼやけたものはない。

 しかし人間には、そのぼやけた要素に「快い」と思う感性がある。デジタル全盛のこの時代に、この感性をうまく取り入れたと思われるビジネスが出てきた。大手レンタルショップのTSUTAYAが始めた「Notジャケ借り」である。

 作品のタイトルを隠し、感想だけを記載する。「オチが2通り存在するダークファンタジー」とか、「大切な人のためなら何をしてもええんのか?」などの感想メッセージが並んでいるだけなのに、顧客はこれを見てレンタルするという。

 恐らくレンタルされる作品のほとんどが「新作」であり、「旧作」は全く見られないのだろうが、「旧作」の中にある本当に素晴らしい名作を顧客にぜひ見てほしいという企業側の願いと、商売としても「旧作」の回転率をアップできるという点で、とても良い発想ではないだろうか。

 筆者は、この発想もデジタル優先の感性からは出てこないだろうと思う。デジタルに侵された頭脳だと、「そんな回りくどいことをせず、タイトルをきちんと書きなさい」という発想をしてしまうのではないだろうか。そこには古からアナログの感性に慣れ親しんできた“生物としての本質”が抜けてしまっているような気がしてならない。

 デジタルが持てはやされる時代にこそ、アナログを「余計な情報」「くだらない情報」と考えず、まずは「清濁併せ呑む」精神で頭脳に取り込んでみてはいかがだろうか。まさしくデジタルとアナログの「ごった煮」から、「とてもおいしい」、新しいものを創造できるに違いない。それは設計者や技術者、芸術家のような創造的立場の人に求められる基本的な姿勢でもあるだろう。

 現代の若者に「想像力がない」「洞察力が不足している」という遠因には、「ごった煮」のアナログの一部を切り取ったデジタルへの依存があるのかもしれない。だからこそ、アナログの本質を見極め、その良さを取り込めるようにしたいものだ。「今の時代、アナログなんて非効率」と思うようなことが、実は魅力あるモノ・コトにつながるのではないかと感じる。

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