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ネスレが仕掛けるオフィスコーヒー客争奪戦 独自のアンバサダー制度を導入

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2014/05/01 東洋経済オンライン
アンバサダーに無料で貸し出されるネスカフェ「バリスタ」(一番右の白いマシン)と「ドルチェグスト」(手前4台) © -C-東洋経済オンライン アンバサダーに無料で貸し出されるネスカフェ「バリスタ」(一番右の白いマシン)と「ドルチェグスト」(手前4台)

 ネスレ日本がオフィスコーヒー需要の獲得に力をいれている。

 3月中旬、都内のあるホテルの一角に800人を超える人の熱気が充満していた。集まったのは、「ネスカフェアンバサダー」と呼ばれる人たちだ。ネスカフェアンバサダーとは、「バリスタ」「ドルチェグスト」など1万円前後のコーヒーマシンを、職場で使うことを前提に、ネスレ日本から無料で借りている顧客のこと。ネスレ日本は、アンバサダーにマシン専用のコーヒーパックを販売して収益を得ている。

 この日は、ネスカフェの製造元であるネスレ日本が、アンバサダーたちをホテルに招待して「サンクスパーティ」を開いた。パーティ会場のステージには、同社の高岡浩三社長に続き、タレントや芸人が次々と登場。ビュッフェ形式の食事に加え、同じくネスレが手掛ける「キットカット」の新商品試食コーナー、写真撮影コーナーなど、さまざまなブースが用意し、アンバサダーたちをもてなした。

 サンクスパーティが開かれるのは今年で2度目。今年は3月から開催されており、全国10カ所でアンバサダーやその家族・友人を計約5000人招待する予定だ。ネスレ日本がアンバサダーたちを手厚くもてなすのは、アンバサダーが単なる顧客ではなく、ビジネスパートナーともいえる存在だからだ。

 ネスカフェアンバサダーは、親会社ネスレの意向ではなく、ネスレ日本が独自に始めたシステムだ。2012年11月に本格的に始めて以降、登録者数は増え続け、現在は9万人以上になっている。

 アンバサダーが購入するコーヒーパックの値段は1杯当たりに換算すると20円。職場の人がマシンを利用した場合は、飲んだ分のコーヒーパック代をアンバサダーが回収する。

 オフィスでの需要を狙った食品ビジネスに目をつける企業は少なくない。代表例が、菓子大手の江崎グリコが展開する「オフィスグリコ」だ。オフィス内に菓子箱を置き、サービススタッフが来て商品の補充や代金回収、メンテナンスなどを行う。

 ただ、ネスカフェアンバサダーとオフィスグリコには大きな違いがある。ネスレ日本はコーヒーパックの購入や補充などを、自社の販売員ではなく顧客であるアンバサダーにすべて任せている。オフィス需要を取り込みたいが、多大な人件費をかけたくはないとの理由から、「人の善意に賭けてみることにした」(高岡社長)。ただ、「最初にアンバサダーになった人は『みんな飲んでくれるか』『代金は回収できるだろうか』という不安があるだろうし、毎月コーヒーパックを買うのも面倒くさいはず。僕らも不安に思ってスタートした」。

 日本のコーヒー消費量は1人1週間あたり平均10.73杯。そのうち2割強は職場や学校で飲まれる(全日本コーヒー協会、2012年、中学生以上79歳までを対象)。

 「オフィスでは、コンビニのコーヒーか、自動販売機の缶コーヒーが強い。ネスカフェは家庭では強いが、オフィスでは飲まれておらず、長年の課題だった」(高岡社長)。

 アンバサダー制度の導入によって、それが少しずつ改善している。アンバサダーになった男性は「わざわざ外のコンビニにコーヒーを買いに行くよりずっと楽だし、なにしろ安い。オフィスに悪い人はいないので、代金も回収できている」と話す。

 アンバサダーに販売したネスカフェが飲まれている場所は「オフィス」(45%)がトップ。そのほか、「病院」(12%)、「カルチャースクール」(3%)など、オフィス以外にも広がりつつある。「想定の倍以上のスピードで広がっている」と、ネスカフェアンバサダービジネスユニットの津田匡保部長は驚きを隠さない。

 アンバサダーの役割は、職場でコーヒーマシンに設置するだけではない。津田氏は毎月のように、ネスレ日本の本社がある神戸や東京にアンバサダーを集め、少人数のグループインタビューやアンケートを実施。新商品のアイデアなどについても意見を求める。「ズバズバと本音を言われることが多い。アンバサダーは(職場の人に)ネスレの製品を広める立場。一般の消費者と違い、責任感が生まれるのだろう」(津田氏)。4月にはアンバサダーの声を反映させた紅茶の新商品「ティーアロマ」が誕生した。

 大企業などを対象にマーケティングの支援を行うアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦取締役CMOは、ネスカフェアンバサダーの仕組みを「非常に効率的なマーケティング」と評価する。アンバサダーになる人は、既存顧客の中でもネスカフェやコーヒーのコアなファンだ。周りの人に宣伝したり、クチコミを企業に返したりする傾向も強い。マス広告に比べるとリーチできる人数は少ないが、その分、着実にファンを増やすことができる。

 「テレビCMは数千万人に届くが、全員の心に深く刺さるかどうかは別問題」と徳力氏は言う。「コーヒーのCMを見ても、普段コーヒーを飲まない人は“自分は対象でない”と無視してしまうかもしれない。ただ、職場で自分の知っている先輩にコーヒーを勧められたら、“飲んでみようかな”と思う可能性は高まる」(徳力氏)。つまり、対象人数は少ないものの、クチコミの力で心に深く刺さる宣伝が可能になる。ネスレ日本の場合、テレビCMを併用することで、さらなる認知度向上を図っている。

 アンバサダーを使ったマーケティングは、世界のトレンドとなりつつある。米国でも数年前から主にフェイスブックなどのSNSでアンバサダーを募り、クチコミによる宣伝効果を狙う企業が増えてきた。

 「日本でも昨年あたりから、アンバサダーに関心を持つ企業は明らかに増えている」と徳力氏は話す。たとえばソニーモバイルコミュニケーションズでは、2013年12月に自社の携帯電話「Xperia」を一定期間使ってもらい、ブログなどでクチコミを広げてもらうアンバサダープログラムを開始。これまでに約3500人が参加した。

 ネスレ日本はすでに、アンバサダー制度を使った次の一手を考えている。今年の夏に向けて、バリスタのようなホットコーヒー専用マシンだけでなく、小型の冷蔵庫を提供して「ネスカフェ ボトルコーヒー」(PETボトル)を補充するサービスを検討している。

 ただ、コーヒーをめぐる競争は激しさを増している。昨年、コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンが、いれたてコーヒーを100円で販売する「セブンカフェ」を本格展開。職場に持ち帰る人も多く、現在では1店舗あたり平均100杯を売り上げる大ヒット商品となった。他のコンビニも追随して、いれたてコーヒーの販売を強化している。

 ネスレ日本の今後の課題は、アンバサダーのモチベーションを保ち続けられるかどうかだ。今のところ、「アンバサダーをやめる人はほとんどいない」(ネスレ日本広報)が、マシンを設置しても職場で使われなかったり、職場の人からの代金回収がうまくいかなかったりすると、継続利用されない可能性がある。

 アンバサダー制度をどこまで浸透させることができるか。ネスレ日本の勝負はこれからだ。

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