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パッケージソフトの“機能追加”に期待すると失敗する

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2016/11/20
パッケージソフトの“機能追加”に期待すると失敗する: 今存在しない機能に期待しても意味がない……今回はそんなお話です © ITmedia エンタープライズ 提供 今存在しない機能に期待しても意味がない……今回はそんなお話です

 「今はその機能はありませんが、ソフトウェアなので何でも作れます。大丈夫です!」

 さて、これまで4回に渡って、外資系パッケージソフトの導入で失敗しないための方法を解説してきました。読者の皆さんは、上のような言葉を聞いてどう考えますか? 「それなら安上がりで済みそう」「そんなうまい話があるはずが……」など、その感想はさまざまかと思います。

 今回は外資系、国産を問わずに当てはまる、製品選定の場面でパッケージソフトウェアとSIを混同したために陥る失敗例を見ていきましょう。

●失敗事例3:パッケージソフトウェアを「SI」とカン違い

 社内にITシステムを導入する場合には、複数社にRFP(提案依頼書)を提示して、コンペになるのが一般的です。提案する側は、自社の製品を採用してもらおうと、長所はできるだけ強く印象付けられるように、短所があればどうやってそれを克服するか、または影響を最小化するかを説明します。

 例えばあなたが、とあるシステムを調達するプロジェクトの責任者だとしましょう。今回は展開のスピードを重視し、従来のSIによるスクラッチ開発ではなく、パッケージソフトウェアを選定するように経営層から指示を受けています。RFPを複数社に提示し、その回答を評価したところ、この業界では一流企業で名が通っている2社に絞り込むことができました。

・提示した要件を全て満たしているが、若干予算オーバーのA社

・提示した要件のうち、必須なものをいくつか満たせていないが、価格が魅力的なB社

 A社は投資に対して効果が得られるという試算を示していますが、経営層を説得するという「壁」がありそうです。

 一方のB社は、相談を持ち掛けたところ、担当営業が役員と出てきて「今は実現できていませんが、ソフトウェアですし、開発すれば実現できる機能です。しかも、それを当社の開発ロードマップに入れてしまえば、費用を負担いただく必要もありません。われわれもそうなるよう精いっぱい働きかけますので、ぜひ当社を選んでください!」とアピールしてきました。

 さて、あなたはA社とB社のどちらを選択しますか? 「機能は将来開発してくれると言っているし、追加費用もいらないと言っているのだから、B社でもいいんじゃないか」と思ったなら、パッケージソフトウェアとSIを混同している可能性が高いです。結果、その機能が実現されずに、パッケージソフトウェアを入れた目的を達成できない、というケースも数多く耳にします。

●今ない機能を作り出す“錬金術”は存在しないと考えよ

 パッケージソフトウェアとSIの違いについては、第1回でも説明しましたが、その根本的な差は、ビジネスモデルです。パッケージソフトウェアは、共通の課題や希望を持ったできるだけ多くのユーザーにそのライセンス(使用許諾権)を買ってもらうことで収益を得るのに対して、SIは特定の1社、または1部門の要求に応じて、その顧客のためだけのシステムを開発し、その開発にかかったもろもろの費用をその顧客のみから回収します。

 従って、通常パッケージソフトウェアは特定の一社の要望だけを取り入れるということはありません。私の経験では、外資系のパッケージソフトウェアで“今存在しない機能”を将来できると提案したことはありませんでした。そもそも、パッケージソフトウェアの契約は「使用許諾」であり、今ない機能に対して許諾することはありませんし、今後開発することを保証することもできません。

 実際のところ、何を開発するか決めているのは開発部門であり、外部で決定することはできません(もちろん、意見交換やお客さまの意見をフィードバックする機会はありますが)。組織のR&R(Role and Responsibility、役割と責任)やP/Lが明確に定義されるのが理由の一因です。なので、特に外資系企業でそのような提案をしているところがあったら、気を付けた方がいいでしょう。

 国産の場合だと、開発者やその責任者が各国に点在している外資系企業よりは、開発部門と、営業やサービスなどフィールド部門の間のコミュニケーションはとりやすいかもしれません。少し話は逸れましたが、要するに、今存在しない機能で契約するというのはSIと同じということです。それであれば、最初からSIとして進めればいいのであって、それをパッケージソフトに求めるのは本末転倒です。

 なぜ、SIではなくパッケージソフトウェアを選ぼうとしているのか。製品を検討する際には、それを繰り返し問い続けるべきでしょう。とはいえ「いやー、うちにはうちのやり方があるし、全くいじれないというのも困るなぁ」と考える人もいると思います。

●「カスタマイズ」でできること、できないこと

 ソフトウェアの目的にもよりますが、エンタープライズ向けのソフトウェアは、そういったお客さまの要望に応えるために、ある程度のカスタマイズを許容するように設計されたものもあります。洋服や家に例えると、セミオーダーのようなイメージです。しかし、カスタマイズできるからと言って「今ない機能が提供できるようになる」ということにはなりません。

 キャラクターやストーリーがあらかじめプログラムされ、買ってそのまま遊べるRPGと、キャラクターやストーリー自体を自分でカスタマイズできる制作ソフトとの違いと言えば分かりやすいでしょうか。後者のソフトを使って、誰でも名前を知っているようなクオリティのゲームを作るのがどれくらい難しいか、想像できると思います。

 別に「カスタマイズ」の機能そのものを否定しているわけではなく、カスタマイズには、相応の専門スキルが必要だということです。エンタープライズ向けのパッケージソフトウェアであれば、プロフェッショナルサービスと呼ばれる(日本ではあまりなじみのない言葉ですが)、そのソフトウェアの専門家集団がいるのが一般的です。

 彼らが、その専門技能を駆使して、あなたの要望を実現するのに最適な方法を提案し、実装を支援してくれるでしょう。外資系企業であれば、日本国内にそのような部門を持っているかどうかもチェックすべきポイントです。それでは最後に、本日紹介したポイントをおさらいしましょう。

1. 「今ない機能」を前提に(期待して)パッケージソフトウェアを購入してはいけない

2. パッケージソフトウェアにない機能を実現したいならば、SIを検討したほうがよい

3. カスタマイズ可能な機能を提供しているものがあるが、その場合は専門家の支援を受けたほうがよい

 今回は、パッケージソフトウェア選定時に陥りやすい失敗例と、そうならないためのポイントを紹介しました。次回は「無料」という言葉に潜むワナについてお話しする予定です。お楽しみに。

●著者紹介:吉丸新一郎

 日本ヒューレット・パッカード株式会社 プロフェッショナルサービス コンサルタント / シニアアーキテクト。自社のエンタープライズ向けソフトウェア、特にハイブリッドクラウド管理、データセンター運用自動化製品を専門とした導入コンサルティングを担当。

 製造業システム子会社でのデータセンター事業企画・運用、ベンチャー企業での新規事業開発および運用を経て、ソフトウェア利用者の立場をサプライヤーの立場に変え現業に従事、現在に至る。

 趣味は音楽鑑賞(ジャズやクラシック)や歌舞伎やオペラの観劇など。旅行が好きで、食べ歩きが得意ジャンル。

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