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パーソナル・ショッパー【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2017/05/10 08:00

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 霊能力のある人はいるかもしれない。死んだ人の霊を呼び出し、交信しようとする。昨年のカンヌ国際映画祭で、監督賞を受けたオリヴィエ・アサイヤス監督の「パーソナル・ショッパー」(東北新社配給)のヒロイン、モウリーンは、双子の兄ルイスともども、霊能力を持っている。兄妹は、生前から、どちらかが死んだ後、サインを送りあうように決めていた。パリ郊外の屋敷に住むルイスが、心臓発作で亡くなる。モウリーンは、ルイスにサインを送り、ルイスの霊と交信しようとする。

© Provided by Excite.ism

 一見、ホラーである。超常現象というらしいが、なにか物音が聞こえたり、水道から水が流れだしたり、エクトプラズムという霊のようなものが現れたり、コップが浮遊したりする。だが、映画が描き続けるのは、あくまでも、モウリーンのこころにひそむ不安や、恐怖、孤独といったことから抜け出そうとする、心理状態の変化である。

 ルイスの死後、モウリーンは、ルイスとの約束を果たそうと、パリに留まっている。仕事は、多忙なセレブ女性のキーラになりかわって、高級なドレスやバッグ、装飾品の買い物やレンタルを代行する。モウリーンの日常は、いたって地味で、皮のジャンパー、安物のセーター、ジーンズを身に、バイクに乗り、シャネルやフェンディなどのブランド店を駆け回っている。

 モウリーンには、オマーンでIT関係の仕事をしている恋人がいて、たまに、パソコンを通しての会話を重ねている。オマーンへ来るよう誘われるが、モウリーンはその気になれないでいる。

 ある日、モウリーンのスマホに、見知らぬ人物から、メッセージが届き出す。モウリーンは、その正体を知ろうと、返事を送る。モウリーンの行動が逐一、監視されているようなメッセージが続く。

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 モウリーンは、神秘主義者で抽象的な絵を描き続けていた女流画家、ヒルマ・アン・クラントの話を聞いたことから、どのような画家なのか、スマホで検索する。文学史では、自然主義作家に分類されるが、なんども降霊会を開いていたヴィクトル・ユーゴーの挿話が、再現映像で出てくる。いずれも、モウリーンの関心のありかが示される。

 モウリーンは、ルイスの霊と交信を続けているが、うまくいかない。同時に、スマホ画面の文字を追いながら、目に見えない人物に接触しようとする。さらにモウリーンは、クライアントのために購入した衣装やアクセサリを身につけるといった、パーソナル・ショッパーという職業でのタブーを犯していく。

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 モウリーンはルイス同様、生来、心臓の形がふつうの人とくらべて異なっている。いまは正常でも、いつどうなるか分からない不安を抱えてもいる。

 サスペンスたっぷりの運びで、どのようにドラマが展開していくのか、なかなか読みにくい。いままでのアサイヤス作品にはない雰囲気である。観客にはことさらの説明はないまま、どこか挑戦的な語り口だ。やがて、正体不明のメッセージに導かれるように、モウリーンは、ある事件に巻き込まれることになる。

 常に、こころのうちに不安や恐怖、孤独を抱えるモウリーンは、なんとか抜け出そうとする。モウリーンは、キーラの愛人に、ふと本音を漏らす。「兄からのサインがあれば、みんな忘れて、自分の人生を送れる」。

 終盤、モウリーンの手にしようとした安寧は、万人共通のものではないかも知れない。それでも、ルイスとの約束を果たそうとすることは、モウリーンにとっては必然だったように思える。すでにおとなであるモウリーンが、さらに円熟したおとなになるための儀式と言ってもいいかもしれない。人は、自分で、自分の人生を選ぶしかないのだから。

 モウリーン役は、クリステン・スチュワートである。アサイヤス監督の「アクトレス~女たちの舞台~」に続いての出演になる。脚本は、クリステン・スチュワートのために、アサイヤス監督が執筆したらしい。心臓の超音波の検査を受ける、キーラのための衣装を身につける、自分を慰める、といったシーンが出てくる。また、何度か、エクトプラズムが画面に現れる。いくつかの見せ場を、クリステン・スチュワートが体当たりで演じ、アサイヤス監督はサービス満点の、もはや手だれ。

 かつて、心霊現象をフェイクとして利用した「雨の午後の降霊祭」という映画を始め、霊との交信や、心霊現象を描いた映画は、いろいろとあるが、本作のよさは、霊との交信や心霊現象は、設定のほんの一部にすぎない、ということである。その意味で、あまたある心霊現象を題材にした映画とは、一線を画しているといえる。

 それにしても、アサイヤス監督の大胆な演出力が光る。もはや、格の違いだろうか。女優への思い入れが、たっぷり。

 映画は、ほぼ、唐突に終わる。モウリーンが、安寧を手にするかどうかは、観客の判断に委ねられる。映画の先に待ち受けるモウリーンの人生が、ただ安寧であるよう、祈りたい思いである。

●Story(あらすじ)

 パリ郊外。人の住んでいないような古い屋敷に、モウリーン(クリステン・スチュワート)が到着する。車で送ってくれたのは、かつて、モウリーンの双子の兄ルイスといっしょに暮らしていたララ(シグリッド・ブアジズ)である。残されたモウリーンは、鍵を開け、屋敷に入っていく。ドーン、ドーンと、なにか物音がする。モウリーンは、兄の名を呼ぶ。「ルイス?ルイスなの?」と。

 モウリーンは、もう一泊、ルイスの屋敷に泊まる。モウリーンは、なにか、霊と交信をしているようだが、ルイスの霊と交信はできない。モウリーンは、ある女性の霊を見て、驚く。恐怖に陥ったモウリーンは、屋敷から逃げ出す。

 モウリーンは、パリでパーソナル・ショッパーとして働いている。仕事は、多忙なセレブのキーラ(ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン))に成り代わって、衣装や装飾品などを購入したり、レンタルする。購入後は、セレブの自宅に届けるので、もちろん、合鍵を持っている。

 なぜ、モウリーンがパリにいるのか、理由がある。3ヵ月ほど前、双子の兄ルイスが心臓発作で亡くなる。生前、モウリーンはルイスと約束をする。どちらかが先に死んだら、生き残ったほうが、サインを送ろう、と。そしてモウリーンは、兄からのサインがあれば、いろんなことを忘れて、ちゃんとした自分の人生をおくれると信じている。

 モウリーンは、勝手気ままなキーラに翻弄されながらも、確実に仕事をこなしていく。モウリーンには、オマーンで働いている恋人がいるが、ときたま、パソコンで会話を交わすくらいである。

 キーラには夫とは別に、ファッション業界で働くインゴ(ラース・アイディンガー)というドイツ人の愛人がいる。モウリーンがキーラの家を訪ねた日のこと。初対面のインゴは、モウリーンに、キーラとの関係をそろそろ解消しようとしていることなどを話す。モウリーンもまた、パリに居続けている理由をインゴに話す。

 ロンドンまで行く仕事が入る。出かけようとしているモウリーンのスマホに、見知らぬ人物から、次々とメールが届き出す。「だれ?」と返事しても、「あててみな」と戻ってくる。「ルイス?」と尋ねても、「まず、接触したい」と。

 メッセージの送り主は、逐一、モウリーンの動静を知っているらしく、ロンドンに出かけることも察知している。パリに戻ったモウリーンは、キーラの家に洋服などを届ける。「キーラの家に着いたか?」。モウリーンは、メッセージのやりとりを続ける。そして、パーソナル・ショッパーのタブーである「クライアントのためのものを身につける」という禁を犯してしまう。さらにモウリーンは、キーラのベッドに体を横たえ、自らを慰める。

 モウリーンは自宅に戻る。郵便受けのなかに、封筒がある。なかには、ホテルのカードキーが入っている。そして、謎の人物からのメッセージに導かれるように、モウリーンは動いていく。やがて、モウリーンは、予想もしない事件に巻き込まれることになる。はたして、モウリーンは、ルイスとサインを交換し、霊との交信ができるのだろうか。

<作品情報>

「パーソナル・ショッパー」

(C)2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

2017年5月12日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国ロードショー

公式サイト

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