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ヒッチコック/トリュフォー 【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2016/12/08

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 アルフレッド・ヒッチコック。映画ファンなら知らない人はいない。たっぷりのスリルとサスペンスに、ほどよいユーモアの味付けがあり、観客を楽しませてくれる。多くの傑作を撮っている。先日、やはりヒッチコック映画の大好きな落語家、立川キウイさんと話した折り、突然、「ヒッチコック作品ではどれが好きか?」と聞かれた。どれも好きなので、一瞬、戸惑ったが、「北北西に進路を取れ」と答えた。敵をあざむくために、アメリカの情報部が、架空のスパイをでっち上げる。ところが、実在しないはずの架空スパイに間違えられた広告業界の男が、敵のスパイたちから、命をねらわれる。いわゆる、巻き込まれ映画。その設定のおもしろさ、逃亡につぐ逃亡といった展開に、映画の醍醐味がびっしり詰まっている。冷静に考えても、これはやはり、ヒッチコック映画のなかでも好きな一本である。

© Provided by Excite.ism

 ところで、「ヒッチコック 映画術 トリュフォー」(晶文社)という大判の本がある(以下「映画術」)。フランスの映画監督フランソワ・トリュフォーが、敬愛するヒッチコックにロング・インタビューしたときの様子をまとめた、邦訳でも360ページもある大作である。全15章、1899年のヒッチコックの幼年時代から、1966年までのヒッチコックの全作品について、トリュフォーがインタビューを試みる。ヒッチコックの全作品も含めて、質問の総数は500にもおよぶ。おもしろくないわけはない。日本語訳の本は大きく、重く、1982年に買ったときは、2,800円だった。

 このロング・インタビューを基に作られたドキュメンタリー映画が「ヒッチコック/トリュフォー」(ロングライド配給)だ。今年の東京国際映画祭で、特別上映された。

 もう、映画への愛に満ち満ちたドキュメンタリー。トリュフォーはヒッチコックを敬愛し、ヒッチコックは、若いフランス人監督に、次第に胸襟を開いていく。ヒッチコックの動画での記録は出てこないが、多くの録音テープで、ヒッチコックの声が聞ける。

 映画監督たちが、ヒッチコックの映画について、単行本の「映画術」についてコメントする。これが、どれもいい。

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 デビッド・フィンチャーが口火をきる。「父の本棚に映画作法を論じた本があった。映画作家を志していた私に、この本を読めと父が言った。夢中になって読んだ。すばらしい本だ」。

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 「なにしろ分厚い本だからね。私はペーパーブック版を持ち歩いて読み続けたよ」と言うのは、ウェス・アンダーソン。

 ジェームス・グレイは、「めまい」について語る。「ヒッチコックのすべて、映画のすべての結晶」と。

 同じ「めまい」について、ポール・シュレイダーは言う。「貴重な作品でね。まるで禁じられた聖なる映画だった」。

 オリヴィエ・アサイヤスは、「映画術」について、うまいことを言う。「この本は、トリュフォー映画の一本なんだ」と。

 ピーター・ボグダノヴィッチも絶賛する。「ヒッチコックの正当な評価は、この本のおかげだ」。

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 「サイコ」について、マーティン・スコセッシが絶賛する。「当時もいまも偉大な映画だ。映画の話術(ストーリーテリング)の傑作だと言える。いや、それ以上だ」。

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 そのほか、日本の黒沢清、アルノー・デプレシャン、リチャード・リンクレイターが、それぞれ、絶賛のコメントをヒッチコックに捧げている。

 ヒッチコックのイギリス時代の作品は、ほとんで見ていないが、1949年の「海外特派員」以降、遺作となった1976年の「ファミリー・プロット」まで、21本のヒッチコック作品に接している。どれも甲乙つけがたいが、なんとか5本ほど、好きな作品をあげてみる。

 まず、「汚名」。おそらく、イングリッド・バーグマンが、いちばん美しく輝いていた時期ではなかったか。

 「ロープ」は、ヒッチコック初のカラー作品。映画の時間と現実の時間を一致させて、あたかもワンショットのように撮る試みが成功している。

 「知りすぎていた男」。戦前、イギリスで撮った「暗殺者の家」のセルフ・リメイクで、ある暗殺事件に巻き込まれる家族の話。主題歌の「ケ・セラ・セラ」が大ヒットしたことでも有名。

 「北北西に進路を取れ」は、はじめに述べた通り。ソウル・バスのタイトルデザインが秀逸。歴代大統領の彫像で有名なラシュモア山を逃げまくるケイリー・グラントと、金髪のエヴァー・マリー・セイントが、なんとも魅力的。

 もう1本しかない。やはり、「サイコ」か。ユーモラスな予告編が、惨劇とどんでん返しを暗示する。

 「ヒッチコック/トリュフォー」は、映画への愛に満ちているドキュメンタリー。ドラマではないのに、見ているうちに涙腺がゆるんでくる。このような映画を撮った監督は、ケント・ジョーンズという人。共同脚本で、アルノー・デプレシャンが監督した「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」を書いている。

 このドキュメンタリーをご覧になると、ヒッチコックとトリュフォーの映画を、また見直してみたいと思われるにちがいない。この年末、必見のドキュメンタリー映画だ。(文・二井康雄)

<作品情報>

「ヒッチコック/トリュフォー」

(C)COHEN MEDIA GROUP/ARTLINE FILMS/ARTE FRANCE 2015 ALL RIGHTS RESERVED

2016年12月10日(土)、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

公式サイト

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