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ビジネスにおいて「対話力」は非常に大きな意味を持つ

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2014/06/15 ITMedia
ビジネスにおいて「対話力」は非常に大きな意味を持つ: 小林正弥教授 © ITMedia 提供 小林正弥教授

 ITmediaエグゼクティブ勉強会に千葉大学大学院 人文社会科学研究科 小林正弥教授が登場。「白熱教室 in ITmediaエグゼクティブ 〜“”対話力”を磨く〜」をテーマに、「いま仕事で困っていること」についてのチュートリアルを交えながら対話とは何かを紹介した。

●なぜ「ディベート」ではなく「対話」なのか

 グローバル化の時代になり、ビジネスの世界においても議論やディスカッションの重要性が高まっている。そうした中で「ディベート」に注目が集まっている。しかし、ディベートではなく「対話」について着目する。なぜディベートではなく対話なのか。ディベートも、対話も、論理的な思考や発言を重んじるという共通点があるが相違点もある。

 一般的にディベートは戦いであり、ロジックで打ち負かし、勝てば満足しがちで、自分の意見は変えない。一方、対話は勝ち負けを目的としていない。相手の話を傾聴し、自分の考えを深め、ときに自分の意見を変えてもよい。対話が重要となるのは、立場や考え方が異なる相手、夫婦や親子、上司と部下、取引先とのコミュニケーションである。

 「根幹となるのは、考え方の違う人とコミュニケーションをすることで、自分の考え方を変えてくれる、あるいは深めてくれる可能性があるということ。論語の中に"君子は和して同せず。小人は同じて和せず。"という孔子の言葉がある。これこそが対話の精神である」(小林氏)

 誠実に話をすることで、相手から信頼される。これこそがビジネスにおける対話の効果である。対話力があれば出会いを生かすことができ、出会いをその場限りにせず、絆や縁が生まれるかもしれない。小林氏は、「対話により、ビジネスの成功や発展につながる可能性がある」と言う。

 またリーダーシップの観点から対話をすることで、部下を指導する力を身につけることができ、部下の新しい可能性に気づくことができる。このとき管理職にとって、部下と有意義な対話ができるかどうかが最も重要な課題である。素直に対話できる状況になれば、たとえ問題が発生してもその解決は容易になる。

 「フォーマルな会議、インフォーマルな会議に関わらず、会議が形骸化していたり、つまらなかったりといった会議になりがちである。しかし議長が対話力を持っていれば、形だけの対話を実質的な会議の場に変えることができる。たとえ会議の結論が変わらなくても、真剣な対話をすることは有意義である」(小林氏)

●混同しがちな「対話」と「会話」

 ビジネスにおいて、対話力は非常に大きな意味を持っているが、「対話」と「会話」を混同しがちであり、その違いには注意が必要である。会話は、相手の価値観の違いに立ち入らないで、友好的にコミュニケーションを行う。一方、対話は、お互いの考え方が違うからこそ、考え方を深めることができる。

 それでは、対話力とはどのような要素から成り立っているのか。まず相手の話を「聴く」ことである。ただ単に人の言うことを聞くのではなく「傾聴」する。次に聴いた話を「考える」、そしてその考えについて相手に「話す」、さらに話したことを「振り返る」ことで成立する。つまり対話力とは、聴いて、考えて、話すことの繰り返しである。

 「傾聴する力」は「聞く」と「聴く」を分けて考えることが必要である。ただ聞くのではなく、相手の言うことにしっかりと耳を傾け、集中して聴くのが傾聴である。対話では、相手との考え方、世界観、価値観が違うことが重要になる。自分と違う考えを排除するのではなく、相手の世界を理解することが必要である。

 なぜ相手が自分と違う意見なのかという背景までを理解することが重要で、自分が賛成できない意見であっても理解することが対話力のポイントである。また、意見が違う場合には理解はするが、無理に同調しないで聞き流すことも必要。どこに同調して、どこを聞き流すかが拝聴する力では重要になる。

 対話において、通常相手はそれほど長い時間待ってはくれない。そこで短い時間の中で考えて行動する力が「考える力」である。考える力では、相手が自分の話にどう反応するかを考えながら対話することが必要になる。刺激に条件反射するマウスとは違い、刺激に対していかに反応するかを考えなければならない。

 情報収集と思考の違いも重要である。インターネットの発達により、情報収集が容易になった昨今、レポートのコピー&ペーストの問題が顕在化している。コピー&ペーストは情報収集であり思考ではない。情報収集も大切だが、自分の考えを深め、まとめる、考える力があるか、ないかが非常に重要になる。

 短い時間の中で考え、応えていくためには「応答する力」が必要になる。対話のすべてに反応するのではなく、焦点を定めて反応することが重要。相手が何を求めているのかを直感的に理解して、リズミカルにツボを外さず応答する。そのため直感力を養うことも、応答する力では重要になる。

 「話す力」は、友好的に、真心を込めて、誠実に礼節をもって話すことが重要。基本的に対話は1対1の関係であることから、相手の世界や意識を理解することも必要。相手の反応を見て、相手の世界や意識にチューニングしながら話をする。また適切な言葉やタイミング、長さを意識して話すことが重要になる。

 最後に「振り返る力」であるが、思考が対話の中の非常に短い時間で行われるために、応答のための対応にベストを尽くすことになる。そのため対話中はなかなか相手の話を理解することが難しい。そこで対話による経験を、次に生かして行くためにも対話が終わった後で振り返ることが重要になる。

 「能の世阿弥の言葉である"離見の見(りけんのけん)"は、自分が演じている舞を客席から見ている観客の目で見るというものである。これは対話の達人であれば簡単かもしれないが、一般的にはそれほど簡単なことではない。相手の立場や上から俯瞰して自分を振り返る力が重要になる」(小林氏)

●「対話力」を磨くために必要なこと

 対話に必要なのは、「相手と向かい合う」「相手に対する親愛の気持ち」「相手の人格を尊重する」「注意力・精神力」「美徳(仁、義、礼、智、信)」「時間」「気持ちの余裕」である。小林氏は、「対話と会話の違いを話してきたが、これまでは会話モード、これからは対話モードと、モードの違いを意識すればよい」と話す。

 世間話をしているときは会話モードで、対話モードに切り替えたら相手の話に意識を集中すればよい。このとき大事なところだけにフォーカスして、すべてに集中しないことが重要である。そのためにはトレーニングも必要。1対1や多人数での対話のトレーニングや、電車の中での振り返りなど、日常生活の中でできる範囲で行うことが重要になる。

 ソクラテス以来、対話の哲学は、対話や問答を通じて自分自身、議論を深めていき、真に近づいていく。完全な真実に近づくことは難しいので、私自身は「より深い考え方」と言っている。相手と自分にとって、何が一番よい解決法なのかについて、議論を通じて、より良い考え方に到達することが対話の目的である。

 小林氏は、「哲学の方法や考え方を実際の人生やビジネスに生かすために対話は重要になる。ソクラテスの問答法は、対話法、弁証法へと発展している。弁証法は、正(テーゼ)と反(アンチテーゼ)という対立した考え方から、より高い考え方である合(ジンテーゼ)に到達するというもの。これは対話を通じて考えが発展すること」と話している。

(ITmedia エグゼクティブ)

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