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ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿 【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2016/12/21

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 ずいぶん昔だが、音楽好きの友人から「ミラノでオペラを見よう」と誘われたことがある。格安の航空券があるらしい。12月のミラノ・スカラ座のシーズン開幕にあわせてのことだったが、仕事の都合で叶わなかった。

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 ミラノのスカラ座でオペラを見る。これはいまでも実現したい夢のひとつ。ニューヨークのメトロポリタン、ウィーンの国立歌劇場、ロンドンのロイヤル・オペラなど、現地でオペラを見たい、というほどの熱心なオペラ・ファンではないが、歴史と伝統のあるミラノ・スカラ座は、やはり別格。行くチャンスをうかがっているといったところである。

 このほど、ドキュメンタリー映画「ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿」(コムストック・グループ配給)を見た。いまだ果たせない夢の一部が叶ったかのような映画。オペラ・ファン、バレエ好きなら、号泣ものと思う。

 2014年/2015年シーズンの開幕公演は、ベートーベンの唯一のオペラ「フィデリオ」である。映画は、その準備にあたるスタッフたちのスケッチから始まる。指揮はダニエル・バレンボイム、演出はデボラ・ワーナー。

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 スカラ座の歴史を振り返る。貴重な証言やアーカイブ映像で、オペラの大スターが、次々と登場する。男性では、ジュゼッペ・ディ・ステファノ、フランコ・コレッリ、マリオ・デル・モナコ、ヘルマン・プライ、プラシド・ドミンゴ、ルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラス、レオ・ヌッチ。女性では、レナータ・テバルディ、ミレッラ・フレーニなど。

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 演出家では、映画監督でもあるルキノ・ヴィスコンティ、フランコ・ゼフィレッリ。指揮者では、ヘルベルト・フォン・カラヤン、カルロ・マリア・ジュリーニ、レナード・バーンスタイン、カルロス・クライバー、クラウディオ・アバド、リッカルド・ムーティ。もちろん、スカラ座と深い関係にあったアルトゥーロ・トスカニーニ。トスカニーニは、1898年からスカラ座の音楽監督に就任。いままでのスカラ座に、革命的な変化をもたらす。ワーグナーの楽劇など、イタリア以外の国の音楽をレパートリーに取り入れる。また、トスカニーニは、オーケストラ・ピットを低くさせて、観客たちに、より指揮者への注目を集めさせたりした。

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 圧巻は、多くのイタリア・オペラの傑作を作ったヴェルディやロッシーニについて語るところ。音楽出版社を営む夫妻とプロモーターの大物が、再現映像で登場、ロッシーニとヴェルディの意外な一面が明かされる。

 プッチーニは、スカラ座でデビューを飾っている。プッチーニについては、未完だった遺作「トゥーランドット」をめぐってのトスカニーニの感動的な言葉が出てくる。

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 トスカニーニは、1946年、連合軍の爆撃で破壊されたスカラ座の再建公演の指揮をしている。トスカニーニは、当時の大スター、レナータ・テバルディを「天使の声」と誉めたたえる。

 マリア・カラスは、1950年、「アイーダ」の上演時に、体調を崩したレナータ・テバルディの代役として、トスカニーニの抜擢で、スカラ座にデビューする。マリア・カラスの大進撃が始まる。1951年、ヴェルディの「シシリア島の夕べの祈り」から、大成功を収めたヴェルディの「椿姫」(指揮はカルロ・マリア・ジュリーニ、演出はルキノ・ヴィスコンティ)など、マリア・カラスの絶頂期は、スカラ座とともにあった。

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 ダニエル・バレンボイムのコメントが、スカラ座のことを言い当てている。「カラスが歌った場所で私などは歌えない、と、ここに来る歌手は不安になる。誰もが、その恐怖を抑えられるわけではない」と。レオ・ヌッチは、「オペラ歌手にとって最高の歌劇場」と言い、ミレッラ・フレー二は、「世界でいちばん大切な劇場」と言い切る。

 スカラ座をめぐるエピソードが、まだまだ、続々と登場する。カラヤンが、「ラ・ボエーム」を指揮した折り、ミミを演じたミレッラ・フレー二にキスして言ったセリフは有名だ。

 スカラ座は、オペラだけではない。コンサートもあれば、バレエもある。ルドルフ・ヌレエフとスカラ座の関係は深い。

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 実力ある、若い歌手、演奏家、ダンサーたちが育ち、世界じゅうから、才能ある若い人たちがスカラ座を目指している。ミラノ・スカラ座は、いまなお、進化を続けている。

 その歴史は古い。1778年、アントニオ・サリエリのオペラ「見出されたエウローパ」がこけら落とし公演と聞いている。ざっと240年。観客の耳も半端ではない。天井桟敷のガレリア席の観客は、大歌手のカルロ・ベルゴンツィや、ロベルト・アラーニャにまで、その歌唱に対してブーイングを出す。

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 2016年/2017年のシリーズが、例年通り12月7日、ミラノの守護聖人である聖アンブロジウスの日に、開幕初日を迎えた。オペラは、プッチーニの「蝶々夫人」である。タイトルロールを歌うのはマリア・ホセ・シリ。指揮は、現在の音楽監督のリッカルド・シャイー。以後、1月はヴェルディの「ドン・カルロ」、2月はヴェルディの「ファルスタッフ」、「椿姫」と上演される予定。

 映画は1時間42分。あっという間である。監督は、ミラノ生まれのルカ・ルチーニ。「いつか、暮れには、ミラノに行こう」。そう思わせるドキュメンタリーだ。(文・二井康雄)

<作品情報>

『ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿』

(C)Rai Com – Skira Classica – ARTE France – Camera Lucida Productions 2015

2016年12月23日(祝)、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

公式サイト

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