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ヤフーの“右脳”が開発した、「さわれる検索」 「クジラ」と言えば本当に“クジラ”が出てくる!

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2014/05/22 東洋経済オンライン
盲学校に設置された「さわれる検索」マシンは児童たちに大人気。使用された3DプリンタはMaker Bot社のReplicater2 © -C-東洋経済オンライン 盲学校に設置された「さわれる検索」マシンは児童たちに大人気。使用された3DプリンタはMaker Bot社のReplicater2

  博報堂ケトル共同CEOの嶋浩一郎が、今、注目する広告・マーケティング業界の最新事例に迫る連載。新しい試みに挑戦する上司と部下にインタビューし、チーム作りや新しいアイデアを生み出す秘訣を聞く。

  今回取り上げるのはヤフー。言わずと知れたIT業界のガリバー企業。検索エンジンを中心に、ショッピング、宿泊予約などさまざまなサービスを提供している。

  ヤフーはこれらのサービスに広告をひもづけ利益を上げている。この広告を統括する部門であるマーケティングソリューションカンパニーがまったく新しい検索サービスを開発・発表した。音声入力によって認識されたデータを3Dプリンタで出力する「さわれる検索」だ。このプロジェクトは筑波大学附属視覚特別支援学校(盲学校)に検索マシンを設置し、目の見えない子供たちが立体物を触る体験を提供した。

  これらの活動の背景には、今までテクノロジーを重視してきたヤフーの広告部門にアート的な発想を取り入れようとする動きがあるようだ。3Dプリンタが家庭にも普及すれば「さわれる検索」を利用したさまざまな広告展開も考えられる。“見る”“聞く”が主流だったインターネットの情報利用に“触る”という概念をプラスしたのはどんなチームだったのか?

  テクノロジーにアートの発想をプラスしたプランニングを推進するヤフー執行役員でマーケティングソリューションカンパニー長の荒波修氏。そして、「さわれる検索」プロジェクトを現場で推進したクリエイティブチームリーダーの内田伸哉氏に話を聞いた。

 【今回の凄腕マーケッター <上司>】

 執行役員 マーケティングソリューションカンパニー長
荒波 修氏

 ■アイデアを考えるために心掛けていることは?
つねに消費者の目線を忘れないこと。
新しいもの(ガジェットとか)はとりあえず試してみる。

 ■座右の本とその理由は?
『Marketing Management』や、最近だと『Marketing3.0』などフィリップ・コトラー氏の著作は古典的定番としてよく読んでいました。あとは、事業責任者として参考になることが多いため、三枝匡氏の『V字回復の経営』(日本経済新聞出版社)は何度も読み返しています。

 ■好きなテレビ番組とその理由は?
テレビはすっかり見なくなりました。面白い番組がないので、HuluやGyaOでドラマなどはよく視聴しています。NHKオンデマンドには興味があります。

 ■参考にしているWebサイトとその理由は?
手前みそで恐縮ですが、やはりヤフーです。あとは業界ネタが豊富なのでTechCrunchをよく見ています。

 ■マーケティングを一言で表現すると?
ユーザーとの中長期的な関係を構築するための包括的な仕掛け。お客様に商品やサービスを買ってもらい、使って気持ちよくなっていただく。そして、できれば周囲にオススメしてもらう。皆に長く使ってもらえるようにするための仕掛けだと思います。

 【今回の凄腕マーケッター <部下>】

 マーケティングイノベーション室 クリエイティブチームリーダー
内田 伸哉氏

 ■マーケティングのアイデアを考えるために心掛けていることは?
普段考えていないことを考えること。

 ■座右の本とその理由は?
『虚人魁人康芳夫』(学習研究社)。とんでもないうそつきでぶっ飛んでいて世の中を沸かせるエンターテイナー康芳夫の自伝。人々を巻き込んでトレンドを作るときに、異常な執念とアイデアが必要だと奮起させられる本。

 ■好きなテレビ番組とその理由は?
「サザエさん」。目的も結論もなく過程や日常しか見せない日本特有の文化を象徴したような世界でも珍しい作品だから。あと単純に面白い。

 ■参考にしているWebサイトは?
Gigazine、Criatibity-online、ハムスター速報、Google、Livedoor、アメブロ、 Yahoo(アメリカ)などなど。共通する理由は、Web上で個性を発揮している。

 ■マーケティングを一言で表現すると?
感情と金銭の交換。お客様を気持ちよくもてなした分、対価としておカネをもらうこと。

 :「さわれる検索」は検索機にたとえば「ゾウ」と言葉で入力すると、ゾウの3Dデータにアクセスし、立体物を出力してくれる仕組みです。とても刺激的で、ワクワクするアイデアだと思いました。まずは、プロジェクトを立ち上げた経緯を教えてください。

 荒波:広告を統括する立場に僕はいるわけですが、インターネットの広告は“テクノロジー”にばかりスポットライトが当たって、“アート”や“クリエーティブ”の領域に関して議論が十分にできていなかったのではないかと思うんです。これまでのインターネット広告はターゲッティングなどのテクノロジーの部分を重視しすぎて、驚きを人に与えて人をエモーショナルにする、そういうアート的な要素が欠けていたのです。広告を見たユーザーに何らかの行動を起こしてもらうためには、テクノロジーだけでは不十分。そこで、われわれは「アート&テクノロジー」というスローガンを掲げて広告の未来に挑戦しようとしています。そんな中から出てきた企画のひとつが「さわれる検索」だったのです。

 内田:今までは検索結果を見たり、聞いたりしかできなかったのが、立体物として“触れる”ようになれば誰もが驚きますよね。そこがアート的な部分です。

 :検索という行為に対して、今までにない非連続なアプローチですよね。そこがかっこいい。また、この活動は盲学校に検索機を設置するなど、ソーシャルな取り組みでもありました。検索が広告の新しい可能性を提示しつつ、社会貢献にもなっているわけですね。

 内田:ありがとうございます。盲学校の児童には、授業やニュースなどで名前は聞くけど、実際にどんなモノかわからないモノがたくさんあります。

 :どんなモノが検索されましたか?

 内田:蜂やサソリなど危険で触ることのできないモノが人気でした。さらに自由の女神やスカイツリーなど大きくて全体を触ることができないモノもよく検索されました。龍など架空の生物も実際には触れないので児童たちは興味津々。

 :確かに、ニュースでスカイツリーって言葉だけ聞いてもどんな形かわからないから、気になるはずですね。出力にはどれくらい時間が?

 内田:大きめの立体物だと完成まで1時間ほどかかるので、授業が始まる前に検索をかけて完成を待つ生徒が多かったようです。

 :この「さわれる検索」ですが、企業も巻き込んだ展開になっているそうですね。

 荒波:はい。日産自動車さんなどの企業にも3Dデータを提供していただきました。実際に日産のセレナに乗っている児童が、セレナの3Dを出力して、「自分が乗っているクルマはこんな形なんだ」って喜んでいましたね。立体物に触っている児童たちを見るのは本当にうれしかった。

 内田:ほかにもヘーベルハウスの旭化成ホームズさんから “家”の3Dデータを提供してもらいました。多くの企業に協力いただいたのです。最終的には242個の3Dデータが出力可能になりました。

 :確かに、立体物として出力できたら家の間取りがイメージしやすいですものね。それは、何だか広告のツールとしても使えそうな気がしてきましたね。

 荒波:そうですね。海外メディアで取り上げられたおかげで、国外からもたくさんのデータ提供があったんです。インドの眼科医さんが、目の見えない方が楽しめるパズルを投稿してくれたり。

 :誰にでも3Dデータを提供できるプラットフォームになっているところもいいですね。

 内田:そうなのです。集まったデータは海外の3Dデータ共有サイト「Thingiverse」で公開しましたした。また、アプリケーションをオープンソース化して、世界中の人が「さわれる検索」を体験できるようにしました。触れる検索マシンは筑波大学に寄贈され、そこから他校にも貸し出される予定です。

 :IDC Japanの調査によると、2012年に世界で3Dプリンタが出荷された台数は6万8000台。これが2017年には30万台を突破すると予想されていますね。家庭への普及が始まれば、「さわれる検索」の利用方法も広がるはずですよね。

 内田:そうです。先ほど嶋さんにご指摘いただいたように、「さわれる検索」で立体物を使った広告表現も可能になるかもしれません。

 広告って言い方悪いですが、届け方によっては嫌われ者になってしまう。私たちは、消費者の欲しいものと、クライアントをつなぐ“マッチング”こそヤフーの使命だと思っています。たとえば、「さわれる検索」と3Dプリンタを使えば、新しいスマートフォンやクルマのデザインを立体で出力することができるようになるかもしれないので、商品の購入を決める際に有力な判断材料を提供することができるかもしれません。

 :写真で見せるのもありだけど、立体で見せることができたら、すごくいいプロモーションが企画できそうです。

 内田:ほかにも、壊れたドアの部品をデジタルカメラで撮影し、3D検索して部品を出力することも可能になるかもしれません。消費者が欲している情報なら、それは「広告」ではなく「コンテンツ」になる。そういう広告を目指したいです。

 :最近ではSNSで情報を得る人たちが増えてきた。検索の重要度がちょっと低下しているイメージもあったんですが、今回の施策は「まだまだ検索で面白いことができる」という検索の将来性を見せてもらった気がしています。

 荒波:最近では東日本大震災が起きた3月11日に、Yahoo! JAPAN トップページで「3.11」と検索すると1人につき10円をヤフーが寄付する施策を実施しました。当初は50万人の参加を予想していましたが、実際には約256万人が参加。普段から行っている「検索」という行為とドネーションが結び付くことにより、ここまで大きな動きに発展したわけです。「検索」の可能性はまだまだ広がると思っています。

 :ヤフーは地図や路線案内、オークションなどいろいろなサービスを提供しています。それらをひもづけるコア機能が検索だとすると、検索が活性化することでさまざまなサービスにも刺激を与えることができそうですね。

 :ところで、「さわれる検索」プロジェクトの目標はどのように設定されたのですか?

 荒波:まずは、何か新しいことにトライしようという思いが強かった。

 :この企画を起爆剤にして、「ユーザーをドキドキ、ワクワクさせるにはどうすればいいのか?」を社員みんなで考える雰囲気を作りたかったということですか?

 内田:はい。さらに、対外的にも新しいヤフーを印象づけることも目標でした。個人的にはこのプロジェクトのKPI(業務評価指数)は「期待感」だと思っています。2012年に社長が代わり、「爆速」というスローガンを掲げました。このフレーズは注目を集めましたよね。僕自身も電通からヤフーに転職するとき、「ヤフーは今までにない会社に生まれ変わろうとしているな」という期待感がありました。そういう雰囲気を市場にどう醸成していけるかが、今回のプロジェクトでも重要でした。
具体的にどのようなところを意識したかというと、ひとつはソーシャルグッドを意識して、BtoCでの期待感を高めること。さらに、事業の新規性によりBtoBでも期待感を高めたかった。実際に「さわれる検索」が「アドフェスト2014(アジア太平洋広告祭)」のメディア部門で銀賞を獲得したことで、協力企業にとても喜んでもらえましたし。

 荒波:そもそも広告をアートとしてとらえて賞を獲るなんて、これまでヤフーでは発想しないことでした。それが、今回、ありがたいことに受賞させていただくことができました。さらに言えば、こういうことって、続けていくのがとにかく大切なのです。1回で終わるのではなく、会社の中のコミュニケーションやクリエーティブについて真剣に考える人材を増やしていかなければならないと思います。

 :実際、社員の皆さんの意識は変わり始めていますか?

 内田:「こういう面白いことができないか?」という姿勢で仕事に臨む社員が増えた気がします。クライアントさんに提案に行くと、「ヤフーと媒体以外の話ができるなんてびっくりした」と言われます。

 :「さわれる検索」では、企業から3Dデータをもらうなど、クライアントさんとの調整も多かったと思います。つまりヤフー社内で営業部門も巻き込んでいったわけですが、部署間の連携はスムーズにいきましたか?

 内田:はい、営業などほかの部署にはかなりカジュアルに相談しにいっています。

 荒波:「さわれる検索」はアイデア自体が面白く、かつ世の中のためになる企画でしたから、メンバーを募るのに苦労した記憶はまったくありませんね。

 内田:逆に人が集まってきたくらいです。

 :単純で、よいアイデアを提示していくことが、人を巻き込む秘訣ってことですね。

 内田:皆がアイデアを好きになってくれて、「それならうちの部署はこういうことができるよ」って声をかけてくれましたね。スケジュールの関係で実装までに至らなかった提案も、多数、社内から受けました。世の中で話題になってる広告って、やっぱりまだまだテレビの広告がほとんど。ネットの広告が国民的話題になることはあまりありません。しかし、クライアントの課題に対して、面白い提案をネットから広げていけるという意識が組織に芽生えてきたと感じます。

 :まさに“アート”的な発想が身に付いてきたと。ユーザーだけでなく、まずは社内の心を動かす。それが縦割りを打破するポイントですね。

 荒波:もちろん広告の営業サイドと、メディアの編集サイドで折り合いがつかずに結論が出るまで時間がかかることもある。しかし、今回の企画でいうと、やはりアイデアが秀逸だったことが大きい。“アート”的な発想がヤフーの可能性を広げていくんだと社員が実感した。そういう企画をこれを機にどんどん増やしていきたいですね。

 :ヤフーは宮坂学社長が就任して以来、「爆速」をキーワードに多くのサービスをリリースしてきました。そして、今年2014年は「10倍」(×10)という言葉を掲げてらっしゃる。これらのメッセージは働く現場に浸透している?

 内田:社員もそうですが、役員がすごくアグレッシブで「ここは大きな会社なのか?」と電通から転職してきたときに感じました。とにかく経営の判断が速く機動力がある。そういう役員がいるからこそ、現場も「爆速」で動けるのだと思います。僕が思うにヤフーは「日本でいちばん大きいベンチャー企業」と表現できるかもしれません。

 荒波:「10倍」とは「サービスを10倍速く、10倍使いやすく、10倍大きく」ということ。大きな目標ですが、意識を変えるためには繰り返し言い続けることが大切です。さらに、具体的に評価システムにもこうしたスローガンを反映させています。たとえば、「仕事を速くやったかどうか」が人事評価の一部に反映される。

 :スローガンが人事評価に影響するとなると、現場はやることが明確になりますね。「さわれる検索」のプロジェクトもかなりのスピードで動かれた?

 内田:荒波からゴーサインが出たのは昨年の5月ころで、9月にはすでに形になっていました。ヤフートピックスは13文字の短い字数でニュースの見出しをつけますが、そうした短く簡単なことをよしとする文化があるように感じます。

 :会議とかは頻繁にあるものなんですか?

 荒波:そんなにはしていないはず。話を聞いて、すぐ結論を出すのがポイント。

 :上司の判断が速い。そこも「爆速」。

 荒波:そうです。判断を速めて、課題をためないように心掛けています。

 内田:ビジョンを短く明確に伝えてくれるので、現場も理解しやすいと感じています。長ったらしいと何をしていいのかわからなくなるから。シンプルで一本軸の通った指示が上から降ってくるのがヤフーのいいところだと思いますよ。

 :「爆速」「10倍」、そして「アート」。確かにどれをとっても短いフレーズだ。でも、ビジョンは明確ですね。最後に、今後、ヤフーでどんな仕事をしていきたいですか?

 内田:「さわれる検索」がよかったのは、未来を示せたことだと思っています。明日でもなく、10年先の未来でもない、2~3年先の近未来を示すことによって、それがフラグとなり、皆がそこを目がけて進んでいくことができる。そういう期待感を抱かせる仕事をし続けたいなと思っています。

 「今はこうだけど、この現状を打ち破ったらこんな面白くなるね」というような未来を切り開く仕事がしたい。大きなネット企業であるヤフーがそういう仕事をする意味は大きいと思います。

 荒波:内田も言っていましたが、広告って消費者からすると面倒で邪魔なものだと思われがち。それを喜んで見ていただけるようにしたいなと思っています。そのためには本当に欲している情報を広告という形でお届けできるかどうかにこだわるのがひとつ。もう一つの要素としては見せ方の問題があります。これが、アートの部分にかかわってくると思うんです。面白いアイデアとか、ハッとするような表現があって、初めて消費者の心に刺さる。

 そういう広告をヤフーのリソースを利用して実現していきたいと思っています。

 

 

 (構成:宮崎智之)

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