古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

ラノベ作家になりたい? よろしいならば一太郎だ

ITmedia PC USER のロゴ ITmedia PC USER 2017/03/30 11:00
ラノベ作家になりたい? よろしいならば一太郎だ: 画像:ITmedia © ITmedia PC USER 提供 画像:ITmedia

 日本を代表する老舗の国産ワープロソフト「一太郎」シリーズの最新版、「一太郎2017」。一太郎の前身とも言えるJS-WORDの発表から33年。すでに機能は十分すぎるほどだ。これ以上の機能追加はバージョンアップの理由付けにしかならない、誰も使わない機能しかないのではないか、と思っていた人も多いのではないだろうか。

 筆者自身、そのように考えていた時期もあった。だが、実際に使ってみてそれが誤りであることに気づかされた。一太郎2017はここ数年の中でも非常に大きな革新を遂げた、一つのマイルストーンとなるバージョンだ。それはユーザーのフィードバックを反映させた「ものを書く道具」としてのワープロソフトのあり方を示すものだった。

 今回、人気ライトノベル作家であるカミツキレイニー氏に最新一太郎に対する率直な感想を聞く機会を得たが、インタビューの前に注目機能をおさらいしておこう。

●「できる」と「簡単にできる」の違い

 一太郎2017は発売前からネットで話題に上がっていた。それは「一太郎2017は同人小説書きを狙い撃ちにきている」というものだった。

 ワープロソフトであれば当然、小説の執筆にも使えるはず。そこをあえて「小説書きを狙い撃ちにきている」とまで言わしめる理由、その1つは「やろうと思えばできる」ではなく、「やりたいことが簡単にできる」という点にこだわった製品であることだ

 人によって便利と感じるポイントは異なると思うが、ここでは3つ挙げる。

1、オーダーメイド機能

 使いやすい、という感覚はユーザーによって異なる。同じインタフェースであっても、自分が慣れているかどうか、自分の思考・行動パターンに沿ったものかどうかで大きく変わってくるからだ。そのため、万人がよい、とするインタフェースを作ることは無理な話だ。

 一太郎2017ではユーザーに合わせた画面、操作環境を設定する「オーダーメイド」機能が搭載された。これによってユーザーごとに異なるインタフェースを設定できるようになっている。

 一太郎オーダーメイドにはプリセットとして複数の設定をまとめた「かんたんオーダー」が5種類用意されている。そのほか、各設定を個別に指定できる「こだわりオーダー」がある。画面、編集画面、操作、安心の4カテゴリ計22項目を設定することができるので、ちょっと使いづらいな、と思ったら見直してみるといいだろう。

 欲を言えば、同じユーザーでも用途によって異なる設定を使い分けたい、という場面を想定して、こだわりオーダーで設定したものを保存・呼び出せるようにしてほしかったところだ。

2. 小説執筆にとことんこだわった機能

 オーダーメイド機能の「もの書き」モードではいくつもの小説執筆用機能が有効になる。実際に使ってみると、一太郎2017のこだわりは単に「便利」というだけではなく、執筆に没頭できる環境を提供する、という点に向けられていることが実感できるはずだ。

 まず、執筆時に役立つのが小説用ファンクションキーセットだ。特にF6のふりがな、F7〜F9の小説用傍点、小説用ダッシュ、小説用3点リーダは重宝する人も多いだろう。

 ビジネス用途ではほとんど利用されることのないふりがなだが、小説、特にライトノベルの場合だとふりがなは単なる「難読漢字の読み方」を示す以上の意味を持つことが多い。一方通行と書いてアクセラレータ、禁呪詠唱と書いてワールドブレイクといった、本来とは異なる読み方を示すもの、「だらだらとシナリオで口説いて」という文全体に「一巻分まるごと使って」と振って楽屋落ち的なメタな内容を入れたり、本心を描いた本文に建前のふりがなを振って心の声と口に出した言葉を表すなど、一つの表現技法としてふりがなを活用している作品も多い。

 小説用ファンクションキーセットだとふりがなを振りたい単語の先頭にカーソルを合わせてF6を押すだけでふりがな設定ダイアログが表示される。促音・拗音を含んだふりがなを表示・印刷上だけ大文字で表示することも可能だ。

 また、F7による小説用傍点の入力は地味ながらも特筆すべき手軽さだ。地の文に埋もれやすいひらがな名詞などを目立たせるためなどに使われることが多かった傍点だが、ライトノベルなどでは重要な会話のポイントや、回収を含めた伏線の強調表現として使われることが増えてきている。括弧で閉じられた会話文全体に傍点がつくことも珍しくない。

 それほど重要性が増している傍点だが、通常は範囲を指定し、フォント・飾りを選択して設定しなくてはならない。このときには執筆ではなく編集になってしまうため、意識が作品世界から引き戻されてしまう。しかし、小説用ファンクションキーセットだとカーソルを合わせてF7を押しっぱなしにするだけでよく、執筆の一環として設定を行うことができる。

 そのほか、小説用ダッシュ、小説用3点リーダは一回のキー押下で二個分が密着した状態で入力される。ダッシュや3点リーダが途切れずにワンタッチで入力できるので、最終的な仕上げが済んだ状態で入力を進めていくことができる。

 校正に関しても小説執筆を意識した機能が盛り込まれている。小説の場合は一般的な書式に加えて、以下のようなルールがある。

・閉じ括弧の直前の句点は省略する

・「?」や「!」の後ろは1文字空ける

・3点リーダやダッシュは偶数個にする

 小説用の校正ルールではこれらの表記ルールをサポートしているほか、会話文の中のくだけた表現を対象から外す、というような細かい配慮もある。

 そもそも一太郎2017の文書校正機能はプロ仕様の文章校正支援ツール「Just Right!!6 Pro」の校正エンジンを使用している。「宅急便」や「ホッチキス」、「セロテープ」のように一般名称と間違えやすい商標、「大蔵省」や「浦和市」のように古くなってしまった名称などの単語レベルの指摘のほか、「座ってました」「食べれる」のような、い抜き・ら抜き表現、同一文書内での表記揺れなどの指摘が強化されている。特にプロの校正が入らない投稿や同人出版では、入稿前に確認することで品質向上に大きく役立つはずだ。

3、有名フォント10書体搭載(プレミアム、スーパープレミアムのみ)

 一太郎2017プレミアム、一太郎2017スーパープレミアムにはフォントワークス書体が10書体搭載されている。中でもマティスと筑紫明朝のバンドルに狂喜した人は多かったようだ。

 マティスはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のタイトルやテロップに使用され、庵野秀明監督が好んで使うことで有名になったフォント。文字だけでも絵に負けない存在感を持つ、太く力強い明朝体だ。

 一方、筑紫明朝はやや右肩上がりで緊張感を持つ、幅広いシーンで利用できる正統派のフォント、筑紫Aオールド明朝はふところ(線に囲まれた空間)が狭く、ハネ・ハライが伸びやかで豊かな情感を漂わせるフォントと、誰でも目にしたことのあるような良質フォントがそろっている。

 特に筑紫明朝はパッケージでの販売を行っておらず、利用するためには年間2万4000円(3年契約の場合)の利用費が必要なLETSに入会する必要がある。小説の本文や新聞など、比較的かっちりとした長文縦書きに適したフォントは意外に手に入りにくいので、これだけでも元が取れる、という人もいるかもしれない。なお、一太郎に付属するフォントはどれも他のアプリケーションでも利用できる。

●ライトノベル作家カミツキレイニー氏に聞く一太郎の魅力

 今回、実際に一太郎を使って執筆活動をしているライトノベル作家、カミツキレイニー氏に話を聞くことができた。

 カミツキレイニー氏は2011年、「こうして彼は屋上を燃やすことにした」で小学館ライトノベル大賞にてガガガ大賞を受賞してプロデビュー。その後、「憂鬱なヴィランズ」「七日の喰い神」と2シリーズを刊行、現在はハヤカワ文庫JAより最新作「黒豚姫の神隠し」が絶賛発売中だ。

 「黒豚姫の神隠し」は沖縄を舞台にした異界譚。黒豚の悪神ウヮーガナシーの伝説が伝わる離島で、都会に憧れる中学生ヨナと東京からの転校生、波多野清子のひと夏の出会いと冒険を爽やかに描いた快作だ。デビュー作以来のジュブナイル寄り単巻作品で、郷愁を誘う沖縄の描写と爽やかな読後感から、Amazonレビュー4.3(原稿執筆時)と高い評価を得ている。

―― 今度の一太郎2017はどうですか?

カミツキ 「黒豚姫の神隠し」の次の作品から使ってます。執筆のときは一太郎オーダーメイドではかんたんオーダーの『もの書き』にしてます。やっぱり余計な表示がなくて、画面を広く使えるのがいいですね。プロット作りのときは作品のイメージに浸かれるよう、背景デザインを変えたりしています。

 それと、プレミアムに入っているATOKの追加辞書がほんと便利で。単語を打って、そのまま国語辞典で意味を再確認できるのですごく効率がよくなりました。それまでは辞書サイトを開いておいて都度都度検索していたので。あと、執筆では類語辞典をよく使うので、それもあればいいのになあ、と思います。

―― プレミアムをお使いでしたら「日本語使いさばき辞典」が入ってますよ。初期状態では有効になっていないんですが。

カミツキ そうなんですか! 早速使ってみます。『食べる』とか『走る』といった描写が続くときなど助けられそうです。月や春の別称も名前を付けるときのインスピレーションや勉強になりますね。

●「一太郎って使いやすかったんだなと」

―― 一太郎はいつから使っていますか?

カミツキ 実はデビュー作の『こうして彼は屋上を燃やすことにした』まではWordを使っていたんです。その後、最初に担当になった編集さんから強く一太郎を進められて。当時は右も左も分からない状態だったので、言われるがままあっさり乗り換えたんです。でも、次の担当の方には『Word形式で送っていただけると助かります』って(笑)。で、また戻したんですけど、そのとき初めて、『一太郎って使いやすかったんだ』と気づきました。

―― Officeのインタフェースが大きく変化した時期ですね。確かに、あのころリボンインタフェースが使いづらい、という声はよく耳にしました。

カミツキ 時間をかけて使いこなせばいいのかもしれないですけど、ソフトの使い方をマスターすることにあまり時間をかけたくないんですよね。それでWordを使うんじゃなくって、慣れている一太郎で執筆して、編集さんに渡すときだけWord形式で出力するようにしました。

―― 使い方を調べなくても使えるソフトがよい、と。

カミツキ そうですね。それだけだと単に『慣れているのがいい』って話なんですが、やはり生粋の国産だからか、一太郎は縦書きに強いと思います。例えば、ラノベは創作した単語にふりがなを打つことが多いんですが、Wordでふりがなを付けるとその行だけ左にずれてしまってガタガタになってしまいます。一太郎だとそんなことはないですし。

―― Wordの場合は行間を固定値にしないと、ふりがながない行とある行で本文の位置が異なってしまいますね。

カミツキ 縦書きページを横にずらっと並べてどんどん横スクロールで書き進めていけるのもいいですね。そのほか、会話文だとら抜き言葉を指摘しないとか、段落はじめの字下げをインデント扱いにしないとか、そういう『お節介』がないところが気に入ってます。

カミツキ 傍点が楽に付けられるのもいいですね。押しっぱなしでいい。括弧や記号を自動でよける機能は便利なんでしょうけど、そのあたりは編集さんの仕事だと割り切っています。僕は自分の担当は物語の中身だと思っているので、初稿の段階では印刷したときの仕上がりなどはあまり気にしてません。でも作家仲間の中には製本されたときのことを意識して行数を合わせたり、挿絵が入るページの前後の展開を調整したりする方もいます。そういう方には仕上がりに近い形で執筆できるのはいいんじゃないでしょうか。

―― 一太郎への要望は何かありますか?

カミツキ 細かいことですが、『もの書き』だとスクロール開始位置が15行(中央寄り)なんですよね。僕としてはこれ、すごく違和感があって。1行(画面の端)の設定に変更して使ってます。15行の方がいい、という人もいると思うので一概には言えないですけど、大きく変わるよりも、使い勝手は変わらないんだけれど、よくよく使ってみるといろんな改善点に気づかされる、そんなのがいいなあ、と思います。新規インストールではなく、バージョンアップの場合は極力以前のインタフェースを引き継いでくれるとありがたいです。

カミツキ あとは、画面を広く使うために縮小表示にしてるんですが、起動すると毎回、表示倍率が100%に戻ってしまうので困っていました。表示メニューの表示倍率ではなく、その二つ上にある、画面表示設定から設定できることが分かったんですが、もっと分かりやすいといいですね。

―― 表示倍率のところに「次回もこの倍率で開く」というのがあればよかったのかもしれませんね。執筆にかかる時間はどれくらいですか。

カミツキ 理想は3カ月で一作のペースです。プロット1カ月、執筆1カ月、改稿に1カ月。さらにそこから、出版されるまでにだいたい1カ月ほどかかります。無理な進捗を組むよりは、書き上げられるペースで編集さんと相談するようにしています。

―― 「黒豚姫の神隠し」もそんな感じですか?

カミツキ そうですね。初稿を編集さんに渡してから、それから指摘されたところを直したり、自分自身で改稿したり、でやはり1カ月くらいはかかったと思います。特に今回は方言の監修があったので、最終的には5〜6校くらいあったかもしれません。

●これから新人賞に応募する人へのアドバイス

―― これから新人賞に応募される方になにかアドバイスはありますか。

カミツキ 最後まで書けずに応募できない方も多いと思うんですが、締め切りを作ること、それと進捗表を作ること、この2点は最低限必要だと思います。応募要項にはページ数の指定が幅をもって書かれていますが、編集さんによるとラノベとしては256ページがちょうどいいらしいので、まずはそれをターゲットとして、1日5ページとか決めて書き進めていきます。もっと書けるときは貯金のつもりでどんどん書き、進まないときはト書きでもいいから必ず5ページ終わらせます。そうすれば2カ月以内に書き上がります。あと、自分で改稿する時間は絶対持った方がいいです。一から書くことに比べると改稿は全然楽ですしね。

―― 一太郎には目標まであと何%、という表示機能があるので、それを活用するといいかもしれませんね。本日はどうもありがとうございました。

 オフィススイートにおけるMicrosoft Officeのシェアは圧倒的であり、メーカー製PCであればWordとExcelがバンドルされていることが多い。さらに最近ではサブスクリプション制を取りながら、メールサーバ機能、クラウドストレージとともに丸ごと一式で提供されるOffice 365も展開している。そのため、ビジネスでWordを利用している人はかなり多いだろう。

 さらに、自宅で一太郎を使っていても会社ではWordを使うという人も多く、一太郎ユーザーの中でも一太郎とWordを併用する人は比較的多いようだ。Wordを使う理由に「元々インストールされていた」「会社で決まっているから」「シェアが高いから」といった外的要因が多いのに対し、一太郎ユーザーは「あえて」一太郎を選択しているケースが多いのではないだろうか。一太郎とWord、両方を使っているからこそ、一太郎を選ぶ理由には重みがある。

 今回の一太郎2017は「書きたい」と思う気持ちを奮い立たせるバージョンアップだ。最も安価な「一太郎2017 ダウンロード版」通常版でも1万7280円(税込)だが、月286円(税別)のATOK Passportに入会すれば7992円(税込)の特別優待版が購入できる。この機会に「書くこと」を追求したワープロが33年という月日を経てどう進化を遂げたのか、体験してみてはいかがだろうか。

ITmedia PC USERの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon