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ローランド創立者 梯郁太郎が音楽シーンに与えた影響ーー元社員が功績と人物像を語る

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/04/05 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 日本の大手電子楽器メーカー「ローランド」の創業者であり、2013年に設立した楽器・映像機器メーカー「ATV」の代表取締役会長を務めていた梯郁太郎氏が4月1日、心不全のため87歳で亡くなった。 (関連:活動25周年のcoba アコーディオンやビョークとの出会い、アニバーサリー作に込めた思想を語る)  1972年にローランドを設立した梯氏は、“打ち込み”の概念を生み出したマイクロコンポーザー「MC-8」や、歴史に名を刻んだリズムマシン「TR-808」、アナログシンセサイザー「JUPITER-8」をはじめとする画期的な電子楽器を開発。メーカー同士の垣根を無くした共通規格「MIDI」の制定に貢献したことが評価されグラミー賞を受賞するなど、電子音楽の世界普及に多大な功績を残した。1994年~98年にかけてローランド株式会社に勤めていた経歴を持つ音楽テクニカルライター・布施雄一郎氏は、梯氏の業績について次のように語る。 「エポックメイキングな電子楽器の開発、MIDI規格の制定、DTMの提唱など、梯さんが生み出した楽器やシステムは当時の音楽シーンに革命をもたらしたと言えます。打ち込みにより、人には真似出来ないフレーズや聴いたこのない音を実現することで、楽曲制作における新しい考え方をミュージシャンに示し、音楽の可能性をぐっと広げました。既存の機能を備えた焼き直しのような機器は一切作らず、常に新しい創造力を備えた楽器を生み出すことに尽力していた印象があります。私も一緒に仕事をさせていただきましたが、イノベーションのない企画には決して首を縦に振らない方でした。国内ではYMOやPLASTICS、海外でもジョルジオ・モロダーやデュラン・デュラン、ハワード・ジョーンズ、ジャーニー、エンヤ、ケミカル・ブラザーズ、ダフトパンクなど、ローランドの楽器に感化されたアーティストは数えきれません。そこで生まれた音楽に対して、さらに新しい提案ができる楽器をローランドが開発していく……そうやってミュージシャンとメーカーが影響しあって、革新的な音楽を開拓していきました。また、MIDI規格をオープン化することで電子楽器の可能性を飛躍的に向上させたように、会社の利益だけでなく、音楽業界全体の発展を望むような方でした。きっと梯さんは、電子楽器や音楽という枠組みを超えて、ひとつのカルチャーを作りたかったのだと思います」  布施氏が語るように、梯氏が生み出した機器は当時のアーティストや音楽シーンに衝撃を与えた。1977年に発表したマイクロ・コンポーザー「MC-8」は、世界で初めて“自動演奏”を可能にしたマシン。YMOやKraftwerkといったアーティストが使用し、それまで不可能だった高速フレーズや同じリズムをループし続けるフレーズを生み出した。一方、自分で好きなリズムパターンをプログラミングできる「TR-808」は、発表当初はヒットに恵まれなかったものの、時代の流れとともにアナログな音を求める声が高まり、80年代後半のデトロイト・テクノやヒップホップのアーティストを中心にフィーチャーされていったという。高額で限られたミュージシャンの手にしか渡らなかったり、発売からしばらく経過した後で注目を集めた機材だが、そこで新たに生まれた概念や音楽が、現代の音楽カルチャーの礎を築いたと言っても過言ではない。 「時代の最先端を走るローランド製品は、音楽の新しいジャンルを生み出し、先進性を持つ著名なアーティストにも愛用されました。代表的なのはYMOやKraftwerkといったアーティストが牽引したテクノポップ、ホアン・アトキンスらが確立したデトロイト・テクノや、ハウス・ミュージックの黎明期を支えました。そのほか、“ヒップホップ”という言葉を生み出したアフリカ・バンバータやR&Bシンガーのマーヴィン・ゲイも『TR-808』を使用しています。その太くて個性的な音色と感覚的にリズムを生み出せる操作性は、クラブミュージックには不可欠なリズム音として定着、現代の“ループミュージック”の骨格を作ったと言えます。今となっては、この音色やリズム抜きでダンスミュージックは語れません。DTMに至っては、場所や演奏技術という制約を無くし、イマジネーションさえあれば誰でもひとりで音楽を制作できるようになりました。昨年ブームを巻き起こしたピコ太郎然り、近年増加する宅録系アーティストの基礎を作ったのも梯さんの功績です」  1960年に設立したエース電子工業から、梯氏の本格的な電子楽器製作は始まる。1972年にエース電子工業を退職して、ローランドを創業。2013年にはローランドを離れ、83歳という年齢でATVを設立したばかりだった。その生涯を開発に身を捧げた梯氏だが、寛容で気さくな人柄で人望も厚かったと布施氏は振り返る。 「前述したように楽器作りについては、自身の信念を曲げずに厳しい姿勢で臨んでいました。当時は、比較的自由な社風から、ヤマハがマイクロソフトだとすると、ローランドはアップルだと例える人もいましたが、梯さん自身、スティーブ・ジョブズと重なる部分もあったと思います。ただ、仕事以外では大変気さくな方で、休憩時間にはパート従業員さんたちに囲まれてお茶を飲んだりするなど、周りからも慕われていた印象があります。私が退職する際も、ご挨拶させていただきたいと面談を申し込むと、一社員に対してわざわざ時間を割いていただき、その後の人生の背中を押していただいたことが印象深いですね。ローランドを離れて、83歳にしてATV株式会社を設立した後も、理念はそのままに、意欲的に楽器の開発に取り組んでいらっしゃいました」  晩年まで電子楽器産業や文化の発展に力を注いでいたという梯郁太郎氏。6月11日にはローランドとATVの本社がある静岡県浜松市にて、梯氏を偲ぶ「梯郁太郎メモリアルセレモニー」が執り行われる予定だ。(泉夏音)

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