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乗り気でない人に、働き方改革をどう伝えるか

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/07/14
乗り気でない人に、働き方改革をどう伝えるか: 日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター長の澤円氏 © ITmedia エンタープライズ 提供 日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター長の澤円氏

 急激に進む少子高齢化や、他の先進諸国と比較した際の労働生産性の低さなど、政府が推進する「働き方改革」に取り組むべき理由は枚挙に暇がない。しかし、実はこうした要素はビジネスへの直接的なインパクトがまだ少なく、自分事になりにくいため、ユーザーにはなかなか響かない――。そんな悩みを持つパートナー企業のために、Microsoft Inspire 2017で行われた日本のパートナー向けセッションで、日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター長の澤円氏が講演。企業は働き方改革にどう向き合うべきか、同社の取り組みと共に解説した。

●「ホウレンソウの重み付け」で無駄な時間を削減

 どんな会社でも行われている「会議」。これこそが時短を阻むブロッカーの1つだと澤氏は指摘する。業務を進めるうえで「報告」「連絡」「相談」、いわゆるホウレンソウが重要だとされているが、これらは「同じ粒度で考えてはいけない」という。なぜなら、報告と連絡は過去に起きたことであり、もう済んでしまったこと。一方で相談は未来のことで、時間をかけて議論すべきこと。それなのに、報告や連絡を、相談と同じように時間をかけてやってしまうから、時間がいくらあっても足りなくなる。

 報告や連絡は、見れば分かるという類のものも多い。そのために設定されている会議を減らすことが、勤務時間の減少につなげられるという。「そもそも会議室を取り、スケジュールを調整するのはとてもコストがかかる作業だという意識が薄いんです。また、社員を集めるのが無料だと思っている人も多いですね」と澤氏。コストをかけて人を集めて実施する会議では、議論して重要な決定を下す。見れば分かるものは、メールやコミュニケーションツールで共有すれば十分というわけだ。

 さらに、報告のためのレポート作成も時短を阻む。レポート自体は何の利益も生み出さないのに、作成作業をしている人は仕事をしている気分になるからだ。ただ過去に起きたことを、見た目がいいようにまとめ直している作業なのに、これを作るために膨大なリソースを消費している。

 「レポートを一生懸命作る時間を、もっとお客さまに会いに行ったり、社内で提案をしたりする時間にしてもらわないと、時短なんて絶対無理です」(澤氏)

 しかし、ツールなどを使って作業の自動化を勧めると、「私アナログ人間なんです」などといって、自動化などに難色を示す人がたまに出てくる。

 「別にデジタルのプロフェッショナルになれと言っているわけではありません。アナログ人間であることと、デジタルによるレポート作成ツールを使わないということとはなんの関係もありません。そんな人には『あなたは今も洗濯板で服を洗っているのですか?』と聞いてみてください。そんなはずはありませんよね。全自動洗濯機のボタンを押すのも、自動でレポートを生成するのも同じことです。洗濯板で洗濯物を洗うのに費やしていた時間が、全自動洗濯機の登場で別のことに使えるようになったように、コンピュータでも、レポート作成の時間が別のことに使えるようになるわけです。コンピュータを使ってやったほうが早い仕事を自分でやって、仕事をした気になっているのが問題なのです」(澤氏)

 コンピュータで自動化できる作業をどんどん削っていき、本当に価値を生み出す、企業価値を高めていくような仕事にどうやって時間を割り当てていくか、これこそが「働き方改革」そのものだという。

●事務作業という「ボトルネック」を改善する

 「全体のパフォーマンスはボトルネックによって決まる」――。澤氏は「The Goal」という本を紹介しながらこう話した。「ビジネスのスピードも、ボトルネックで全部決まるのです。ハイパフォーマンスなものが決めているのではありません。ですから、どこにボトルネックがあるかを認識しないと改善はできません。そしてそのボトルネックのほとんどは事務作業です」。

 なぜ事務作業が多いのか。それは、報告も連絡も、人と会って話そうとするからだ。スケジュール調整は、ビジネスの中で最もコストがかかる作業の1つなのに、それをコスト計算していない。ここに大きな問題があるといいう。だから、「人件費×時間×人数」といった計算をして、数値化して認識してもらうことが重要になる。

 時短をしていくためにできることは、2つしかない。「さっと決める」と「すぐにやる」だ。なかなか決まらないからすぐにできないのが現状だとすれば、さっさと決めて、すぐにやるために、何が必要なのか。

 「決めるための材料を、早く手に入れられる状態にする」ことが重要だと澤氏は言う。しかし、特別なことをしなくてはいけないと考えると、見誤る。

 例えばテレワークは、一部の社員のある局面、妊娠や出産、介護、配偶者の転勤などの状態を助けるために、仕事を切り出して、その時期だけ、特別な働き方をするものと考えがちだ。しかし、それでは今までと同じ状態で業務フローが回っているので、外に出された人には大きなハンデになる。

 報告書を作って印刷し、配布することが会議で常態化している会社では、家に居る人はその資料を見ることができない。あるいは、会議がほぼ様式化していて、飲み屋や喫煙所で意志決定が行われ、段取りや手続きや根回しなどが残っている環境では、リモートで会議に参加しても全く意味がない。こうした環境やマインドセットから変えていく必要がある。

 ちなみに日本マイクロソフトはどうしているかというと、「フレキシブルワーク」に対して、全員が毎日必要な時に必要な人と必要な対話・情報を交わす、という環境を整えているという。「出勤する」「何時から何時まで働く」という2つのパラメータを完全になくし、いつでもどこでも誰とでも働けるようにした。その結果起きたのは、コミュニケーションの量と速度の変化だ。社内のミーティングは、ほぼチャットや電話で、澤氏の部下も全員Skypeでコミュニケーションを取っており、リアルで会うことはほとんどないそうだ。実際、それで十分業務は回っている。

●ツールだけ導入してもうまくいくことはないが、数値化は重要

 こうした日本マイクロソフトの働き方を支えるツールが、「Windows 10」であり、「Office 365」であり、「Skype for Business」なのだが、ツールだけ導入してもうまくいくことはないという。「それ以前の問題として、みんなが集まって何かしましょう、というマインドセットを変えてもらわないとどうしようもない」(澤氏)。そのためには、報告、連絡がどれだけ自動化できるかがポイントになる。

 澤氏は実際に自身が普段見ているマイクロソフトテクノロジーセンターのダッシュボードを開きながら、予算への貢献度、顧客と実施したセッションの回数などがすぐに参照できる様子を披露した。スタッフが今忙しいのか暇なのか、1年間でどれくらいセッションをやったか、月間の平均でどれくらいの回数をこなしているか、といったデータがすべて可視化されている。

 「レポートを手動で作る仕組みだと、こうした情報を集めてくる手間がかかります。さらに、大きな問題もあります。手動のレポートは、コンプライアンス違反のリスクが生じることです。売り上げや活動履歴などでうそがつける余地があると、人は怒られないようにうそをつきます。会社がつぶれることよりも、自分が怒られることが、その人にとって高いリスクだと認識してしまうようなケースがあるわけです。自動化されていれば、うそもつけないので、もう真面目に働くしかないわけです」(澤氏)

 レポートを作る時間が不要になる分、集中して仕事ができると澤氏。部門のスタッフは、事務処理ができない人も多いが、自動化したおかげで、その苦手なところに一切の頭を使うことなく、自分の得意な分野にフォーカスできるようになっているという。

 とはいえ、このレポートだけでは分からないこともある。スタッフが小耳に挟んだ面白い話など、直接売り上げには関係がない「行間」のようなもの、ちょっと仲間と共有しておきたい情報などは、自動で生成されることはない。そこで定性的なものは「Yammer」で共有している。澤氏はスタッフに、週に最低1回か2回くらいは、義務として何かを投稿するように伝えているという。たいした手間ではない上に、写真を撮ってアップするだけでも簡単に情報共有はできる。それでレポートと見なすそうだ。これで軟らかい情報を補足している。

 さらに、部内の情報共有には「Teams」も使っている。米国本社側から日本の誰かに相談したい場合などにも、Teamsの日本チームのグループに相談が来るという。メールでは見落としてしまうような情報も、確実に気付けるツールとして、YammerやTeamsを活用しているという。

 キモは「レポート業務には時間を使わない」「自動化する」そしてそのために「データを正規化する」こと。ERPでもCRMでもいいが、とにかくこれが真実、という確実なデータを1つ作り、二重帳簿を認めないことが重要だという。データの確からしさが分からなくなると、隠したり水増ししたりといったことが起こる。「ここに入っていないことは真実ではない、というところまで強くマネジメントできるかどうかが、成功の鍵になります」。

 働き方改革にまつわるさまざまな変化は、数値化が難しいと言われることもあるが、そんなことはないと澤氏は言う。

 「ペーパーレス化がどれくらい進んだかは、総務に聞けば分かります。プリンタの管理画面などでも分かるかもしれません。女性の離職率も、人事なら把握しているので聞けばいいのです。ワークライフバランスの満足度の変化は、毎年同じ時期に実施している、全社員対象のアンケートがあれば、比較をして導き出せます。毎年同じ質問を全社員に対して行う、というフレームワークが必要なので、もし今やっていないならぜひすぐに始めるのがいいでしょう。比較できるようにしておくのがポイントです。事業生産性は売り上げが分かればすぐに算出できます」(澤氏)

●最も重要なことは、「経営者が腹をくくること」

 マインドセットの変更とツールの導入という合わせ技でこそ、働き方改革は進められるというが、結局のところ、大事なのは経営者が「やる」と決めるかどうかの話だと澤氏は言う。

 「人間はできない理由を考えるのがものすごく得意な生き物です。ですから、とにかくやると決めて実行することです」

 日本マイクロソフトが導入しているツールは、すべて市販のものであり、特別なものは1つもない。まるごとマネをすることだってできる。もともとは、日本マイクロソフトも会議が多く、生産性もグローバルと比較すると決して高い方ではなかったというが、強力に働き方改革を推進したことで、現在の成果が出た。

 特に大切なのは、経営層が社員を子ども扱いしないことだとも指摘した。米国のMBAでは、日本企業との付き合い方として、「日本企業は社員を子ども扱いするから気を付けろ」ということを教えているという。もともと日本には終身雇用という概念があり、上司と部下は年功序列で決まる、という文化があった。そのため、社員が家族のように付き合わないとバランスが取れなかったのだ。そういう経営を、日本企業は長年やってきた。

 しかし、社員を子ども扱いすると、いつしか社員も子どものように振る舞うようになる。そして経営とのギャップが生まれる。社員に大人になってもらうためには、自分で判断して、自分の活躍を可視化・数値化できるようにする必要があるのだ。

 そして、腹をくくったら意識してもらいたいのが「例外を設けない」ということ。日本企業には、例外に応えることがサービスだと思っている人がいるが、例外が増えると、それはすべてリスクとコストになる。余分な処理が増えるのでメリットはないのだ。差別化要素が全くないことは、すべて統一するのがポイントで、そうしないと属人化した業務が増えたり、不正の温床になったりする。

 どうしても例外を作ってくれと言う人がいたら、その人には「ビジネス上の正当性を数字で示せ」と伝えることが重要だという。「本当に効果があるなら、有用なアドバイスなので受け入れる」というスタンスだ。

 例えばデスクのフリーアドレス制が嫌だという人に対して、「あなたに固定の席を与えたら、売り上げが何パーセント増えるのかを証明してください」と伝えるわけだ。しかし、多くの場合それは証明できない。なぜなら、ほとんどが感情や気分から生じている意見だからだ。

 「働き方改革ができていない会社のほとんどはこのケースです。感情や気分に振り回されて、ビジネス上の正当性がないことをやっているわけです」

●それでもごねる人には

 働き方改革を進めようとすると、そのほかにも必ず反対をする人が出てくる。しかし、そうした人に伝えるべき言葉はいくらでもあると澤氏は話した。例えば次のようなものだ。

「サボるやつが出てくるんじゃないか」

 場所の制約がなくなると、人はいつでもどこでも活躍できるようになる。しかし、いつでもどこでも働けるようにしようとすると、必ず「サボるやつが出てくるんじゃないか」という声が挙がる。この質問に対する答えは1つ。

「そういう人はもうサボっています」(澤氏)

 サボっているということを可視化できるようにすればいい話で、逆に活躍している人は、活躍していることを理解してもらえるため、さらに活躍することになる。

「ツールじゃなくて、顔を合わせて話すことが大事」

 とにかくフェイストゥーフェイスで話すことが大事だ、という人も必ずいるというが、働き方改革は「顔を合わせてはダメ」という話ではない。デジタルの世界を作り、充実した時間を増やそう、という点がポイントだと澤氏は言う。

 顔を合わせて話をするときは、すでに起こったことに関する数字の話をしても楽しくありません。それよりも、次に何をするか、どうやったらうまくいくようにできるか、という話をする方が楽しいはずです。デジタル化することで、顔を合わせて話す時間は、むしろ増えるはず、というのが持論です」(澤氏)

 より多くの人と会うことができ、会ったときには面白い話をすることが可能になるのが、働き方改革というわけだ。

「それは日本マイクロソフトだからできるんでしょ」

 日本マイクロソフトの従業員も、全員が高いITリテラシーを持っているわけではないと澤氏。同社のITシステムは、リテラシーが高くない人が7割くらいいるという前提で作られている。日本マイクロソフトも普通の会社なので、ITに詳しいことではなく、別の高い技能が求められる業務も多くある。そういった人たちにも、サクサク使えるシステムを提供することが重要なので、社員に高いITリテラシーは求めていない。なお、「運用でカバーすればいい」という判断は、絶対にやってはいけないという。

 「『運用でカバーする』はリスクでしかありません。これは人柱になるとか死人が出てもガマンするとか、そういうことと同義です。テクノロジーは正しく使ってビジネスをすることが大切です」(澤氏)

 働き方改革に取り組まなくてはいけない、という思いはありつつも、なかなか進んでいないという企業も多いのではないだろうか。そんな企業はぜひ、この話を参考に、自身も含めた意識変化を進めていくべきだろう。

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