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京都在住・気鋭アーティストTOYOMU、ジャーナリスティックな創作スタンスを探る

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/11/09 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 10月28日、23時。宇多田ヒカルの『Fantôme』のリリースから「ちょうど1カ月ということで」というツイートののちにBandcamp上にアップされた「印象Ⅶ:幻の気配」という音源。もしかしたら今頃、急速に拡散されているかもしれないが、この『Fantôme』全曲リミックスの作者は京都のアーティストTOYOMUだ。

(関連:宇多田ヒカル、新作『Fantôme』を大いに語る「日本語のポップスで勝負しようと決めていた」)

 1990年生まれ、京都在住であり、ヒップホップ・ルーツのビートミュージックから作品作りを始めたという程度しか事前情報がない中、このアーティストが11月23日にデビューEP『ZEKKEI』をリリースするというニュースレターを受け取り、即座にピンときたわけではない。そこで初めてプロフィールを知り、カニエ・ウエストの新作『The Life of Pablo』がリリースされたものの、日本で聴けない状況にあり「聴けないなら自分で作ろう」と、たった4日で完成したのが「印象III:なんとなく、パブロ(Imagining “The Life of Pablo”)」であり、自身のサイトにアップしたところBillboard、BBC Radio、Pitchfork、The Fader、FACTなど、一気に海外の有力メディアが絶賛。一夜明けたらいきなり世界で騒がれていたという事実と、その音源を知った。サグラダ・ファミリアのごとく延々と曲が増えたり、実人生が反映されたり、ゴスペルもアブストラクトなティップスも居並ぶあのアルバムが持つテーマのようなものがTOYOMUの妄想と驚くべき符丁を見せていたことに遅ればせながら驚いた(だからこぞって騒がれたわけだが)。

 この創作についてTOYOMUは、「もともと自分がBandcampにて行っているシリーズ、『印象』の一環として作りました。オリジナルのカニエのアルバムがあらゆる点において今までにないものだったので、これは何か自分でもおもしろいことができそうだな、と思ったからです」と語っている。そして、様々な感想の中で一番覚えているのは「海外の掲示板にあったカニエのフォーラム内のものです。『コイツ、絶対一通り聴いてから作ってるから。やってることはおもしろいよ? でも小説(←たぶんフィクションの意)だから。』という一文」だという。

 後追いでBandcampの「印象」シリーズを覗いてみると、そこで感じたのは茶目っ気すら漂う軽快さと、同時に悪ふざけ紙一重の音によるジャーナリスティックな表明だ。でも、どうやらポピュラリティのあるアーティストを素材として扱う理由はもっと明快で音楽的。

「自分のやりたいことがわりかし複雑なことだったりするので、人に聴いてもらおうと思うとやっぱりそういう興味を惹くキャッチーさは必要かなと思ってます。あと、これは最近になって気付きましたが、美意識という点で言うならば、『自分がアレンジしにいける隙があるか否か』ということはテーマとして選ぶ上で重要なポイントかもしれないです。不完全さ、というか」

 現在20代半ばで京都を拠点に音源制作や自身のイベント/コレクティヴ『Quantizer Kyoto』も主宰。そんな彼のトラックメイキングのルーツは大学の時にAKAIのサンプラーMPCを買ったこと。本格的に音楽にハマったのは90年代の日本語ラップ。カルチャーなのか手法なのか曖昧だが「ヒップホップという総合的なものに惹かれていた」のだという。サンプリングが遊びと本気の境界線なく血肉になっているのだと想像する。

 話をTOYOMUの存在を知った時に戻すと、ちょうどWWWの審美眼によってニューカマーが紹介されるシリーズライブ『NEWWW vol.12』。10月開催のそれには他に海外のソウル/ジャズの新解釈と共振するwonk、そして弱冠17歳で拠点をフロリダに置くラッパー、キアノ・ジョーンズ。レギュラーイベントとしていち早くSuchmosやAwesome City Club、D.A.N.などを取り上げてきた『NEWWW』そのものへの信頼もあり、今回の組み合わせにも心惹かれるものがあった。バンドもDJもソロ・アーティストも、そこへ行けば今聴きたい音の片鱗に触れられるという経験則からくる何か。

 そこでTOYOMUが見せたライブセットは、新作『ZEKKEI』からの新曲をはじめ、あらゆる時代、個人的には80年代のジャパニーズテクノやインダストリアルなビート感から始まり、あらゆる古今東西のアイコニックなフレーズやオリジナルなビートが交錯しながら進行していくものだった。その終盤、静謐なムードのブロックに差し掛かったところへ、宇多田ヒカル feat. KOHHの「忘却」が差し込まれたとき、不思議な腹落ち感に包まれたことを覚えている。ここでもその場では「印象」シリーズ同様、ジャーナリスティックなイメージを持った。

「ライブする時はみんなが楽しくなるようにしたい、という気持ちがあるので、なるべく『どんな人でもとっつきやすいライブセットにしよう』ということは意識してやっております。あの日について特筆するならば『全部盛り上げに行くのではなく、落ち着いた静謐な感じを目指そう』とは少し思っていました」と、フラットと言っていいスタンスで語りつつ、バンド・メインのライブながら、新たな化学反応を期待するリスナーに対しては、「バンドだけしか知らないような人にもこういう音楽があるんだよ、と伝えて行ければいいですし、そうやって聴いていただける方々は、DJがやっているようなイベントでも絶対楽しめると思います。新たなきっかけになればおもしろいな、と思います」と、スタイルに拘泥しない今のリスナーと当然にように共振する志向を持つ。その後、地元・京都ではGold Pandaの来日公演でも共演するなど、フェティッシュなエレクトロミュージック好きに空気感染のようにTOYOMUのサウンドは広がっているはずだ。

 そして11月23日にリリースされるデビューEP『ZEKKEI』では、特定のテーマは掲げず、サンプリング音源は既存のものは一切排除し、自ら作ったサウンドと、京都の町、野山などあらゆるフィールド音を収集。加えて自宅で埃を被っていたシンセサイザーYAMAHA CS1xとカセットテープが活躍したという。ダンスのためというより、その世界観に浸るリスニングミュージックで、音の角を取って磨いた丸さにはRei Harakamiのような温もりを、そして曲によってはスケールの大きな和のニュアンスを感じるサウンドスケープも。わくわくする音の構成の遊び心、大量に押し寄せてくるイメージの洪水、そして重層的でカオティックな展開を見せてもどこか穏やかで品がいいこと。そのせいで何度もリピートしてしまう。音による”絶景”、まさに言い得て妙だ。

 TOYOMUはアーティストではあるけれど、彼のリミックスなどを通して「ポピュラリティの高い作品や時代をどう解釈するか」に共振したリスナーは、今後、オリジナル作品の中でそれらを発見することになるだろう。音楽的IQの高さと、茶目っ気のある創作スタンス。久しく存在しなかったタイプのこのアーティストに、バンドやDJの境界を超えて注目していきたい。なお、11月19日にはD.A.N.やTHE OTOGIBANASHI’SらとWWW6周年イベントにも登場。このラインナップも彼の個性を物語る一つの要素だ。(石角友香)

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